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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)
第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)
(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

序章 イリアステームの杖

 

(2)

 

 我々4人の冒険は、魔人の部屋で財宝を手に入れ、その奥の部屋にあった墓に葬られていた古代エルフの魂を解放したところで、終局を迎えた。(汚された墓を浄化し、エルフの魂を解放する事こそがガイアの旅の目的だったという訳だ。)

 私はガイアに、例の杖はエルフの持ち物ではないのかと尋ねた。

 彼女は言った。

「その杖はエルフの物ではありません。おそらく人間が、今から約1100年前に持ち込んだ物と思われます。」

 ガイアによると、少なくともここ2000年の間、エルフがこの地を訪れた伝承が無いという。エルフの伝承に無いから人間が持ち込んだはずというのはいささか強引な論理に感じるが、妖精界では無限の寿命を持つというエルフの伝承を覆す材料は持ち合わせていない。持ち込まれた年代については、掛けられていた封印の微細な劣化からの測定であるという。だが、誰が何のためにここにこの杖を封印したのか、そこまでは分からないと彼女は言った。1100年前というと、ラクリフォンス紀元前200年頃ということになる。(※1)

 およそ1700年前とされる古代魔法文明の崩壊からラクリフォンス紀元までの800年間は、本格的な国家が成立していない時代であり、まとまった記録も見つかっていないことから、歴史の“暗黒時代”と呼ばれている。その時期の魔導器はわれわれ魔法使いにとって非常に興味をそそられるものである事はいうまでも無い。幸い、そのときのパーティメンバーであるガイアは人間の持ち物であるその杖を手に取る事は無かったし、戦士であるセネカとローゴにとっても無用の物であった為、必然的に私が持ち帰ることになった。

 

 こうして私は、“イリアステームの杖”を手に入れた。

 

 町へ帰った後、私は早速“イリアステームの杖”に掛けられていた星の分析を行った。その結果、火星、金星、水星の力が突出している事が判明した。この星の配分は、当時すでに広く知られていた。それは、外敵の記憶を消し去り自らの身を守る、いわゆる“忘却の魔法”(※2)を発動する配分である。また町の賢者は、この杖には他に秘められた力を感じる、と語った。

 私は魔人の洞窟での経験から、この杖に秘められた力は、おそらく“記憶”であろうと推測していた。

 私はしばらくこの杖の力を引き出すための研究を続けた。その途中、魔法学院で“忘却の魔法”についての興味深い記述を見つけた。

 ――この魔法は生物の脳にある記憶中枢に働きかける仕掛けを持っている。一般には“忘却の魔法”と呼ばれているが、裏を返せば“記憶の魔法”とも言える――

 つまり、忘却の効果は防御の為に使用した場合であり、脳に働きかけた魔法に打ち勝ち、忘却を免れた場合は記憶を制御できるという訳だ。

 私は“イリアステーム”を使い、最小出力で忘却の魔法を自分自身に掛け、身を固めて魔法に打ち勝つという実験を試みた。(※3)その結果、脳の記憶中枢に働いた魔法は威力を失い、その反射が“イリアステーム”に流れ込む。そのとき杖に封印された記憶が脳側に少し漏れ出ることが分かった。

 この事で、魔人の洞窟で私の脳に杖の記憶が入り込んだ理由の説明もついた。

 魔人の最期の咆哮は、弱体魔法を含んでいた。弱体魔法は魔人の後ろの床下にあった“イリアステーム”にも届いていただろう。私が精神集中して弱体魔法に打ち勝つと、魔力の反動が杖に届いてしまったと思われる。そのときに杖の記憶が漏れ出たのだ。

 また、完全に杖を支配できると記憶中枢の写像を杖に送り込むことも理論的には可能であるようだった。だが、杖の封印は強力で、完全な支配は未だできていない。おそらくこの杖に記憶を封印したかつての魔法使いはその方法を知っていたのであろう。

 そして、もうひとつ忘れてならないのはあの魔人の問いかけである。

 これは推測だが、魔人と杖は長い時間を共にしてきたと考えられる。あの魔人も何かのはずみで(例えば、彼を崇拝するダークストーカーの稚拙なまじないをあの咆哮で威圧する事などを日常から行っていたであろう。)、杖の記憶を見ていたのかもしれない。魔人が人間の生死や行動について興味や疑問を抱き、あのとき、あのような問いかけを行ったことが示すことは、この杖に秘められた記憶は、人類を凌駕した存在であるはずの魔人でさえも魅了していたという事である。

 解放された記憶は、断続的に私の記憶に注入された。断続的な記憶を書き残し、順序立てる作業が私の日課となった。

 その中で一つの伝説の都市が登場した。この都市はグリヌフスと呼ばれ、近年遺跡が発見されている。魔法学院にある歴史書によるとグリヌフスは、“暗黒時代”に成立し、突如として廃墟となった都市とされている。“イリアステーム”に廃墟になる前のこの都市についての記録が刻まれているという事実は、“イリアステーム”が“暗黒時代”に封印されたとされるガイアによる杖の年代測定を裏付けるものである。

 ただ、ここで記しておきたいのは、それから20年に渡り私がこの研究に没頭していったのは、これまでほとんど記録が見つかっていない“暗黒時代”を解明したいという知的好奇心を満たす事だけが動機ではないということだ。 

 それは、魔人の洞窟で初めてイリアステームの力が解放されたときに見た、あの騎士の目が忘れられなかったからである。あの時、確かに彼は私に語りかけた。奇妙に沸きあがった風景の中で、騎士が振り向いたとき、彼の頭部全体は紫紺の兜に覆われており、その表情を読み取ることはできなかった。しかし、兜の奥に光る目を見て取ることができた。その目は邪悪な力により赤く濁っていたが、私はその中に強靭な意志と、憎しみや悲しみが入り混じった複雑な感情を強く感じた。そのとき彼は私に語りかけたのだ。言葉ではない、目の力で。「我々の生き様を後世に伝えよ。」と。

 騎士が何を私に伝えたかったか、また「我々」とはどんな集団または組織を指すのか、この段階では全く分からなかった。

 しかしそれは徐々に明らかになる。私は、杖から発せられる記憶の断片を繋ぎ合わせ、ひとつの物語としてまとめ上げる事に成功した。

 

 私は、この物語を「七惑星の記憶」と名づけた。

 

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(注)

※1 本書は、ラクリフォンス暦900年代に執筆された。

※2 LOST MEMORY

※3 危険ですので絶対に真似をしないでください。