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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)
(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)
(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

序章 イリアステームの杖

 

(1)

 

 星魔法とは、魔導器にかけられた七惑星の力の均衡を利用して魔力を発動する古典的な魔法体系の通称(※1)である。七惑星の均衡を変化させる術は星魔法士と呼ばれる一族のみがその技を受け継いでおり、門外不出である。よって、星魔法は秘術に分類される。しかし、その魔力の発動者は星魔法士の一族に限定されず、呪文を覚え、的確に使用する知能を備えている者であれば特別な才能を有する必要は無い。また星魔法をかけられた魔導器は、所有する者の能力の向上(あるいは低下)に寄与する事が知られている。

 

 私が本書を執筆するきっかけとなったのは、ある冒険でこれまでに類を見ない七惑星の力を秘めた魔導器“イリアステーム”を見出した事に始まる。序章においては、“イリアステーム”を発見するまでの経緯と、本章にて語られる物語の背景について記述する。

 

 当時(約20年前)、私は駆け出しの魔法使いで、暇さえあれば金になりそうな冒険話を求めて酒場や宿を徘徊していた。

 ある夜、街の酒場で一人の女が冒険話を持ちかけてきた。彼女はエルフでガイアと名乗った。彼女の肌は透き通るように白く、亜麻色の長い髪を後ろで束ね、草色のローブで身を包んでいた。

 彼女は私に手の平ほどの大きさの古びた石片を見せた。その石片には向かい合った2頭のグリフォンとその周りを囲むウロボロスが描かれていた。私はその図柄に見覚えがあった。それは魔法学院の資料の中にあった、2000年以上前に存在したとされる文明の王朝の紋章に使われているものと同じ紋様だったのだ。

 私はこの石片の出所についてガイアに尋ねた。彼女は自分自身の手でこの石片を遺跡から持ち帰ったという。そして、その遺跡の場所を教えてもよいと言った。ただしそれには条件があり、遺跡の最深部に巣食う魔人を共に退治してほしいとの事だった。彼女は当初、一人で遺跡に向かったが、遺跡には魔獣や魔人を崇拝する亜人が巣食っており、目的を達する事はできずに石片を持ち帰るに留まったという。

 私はリスクが高い冒険であると感じたが、古代魔法文明の貴重な遺産を手にする事ができる願っても無いチャンスである事から、この条件をのむことにした。

 

 私はその後、旧知の冒険者である熟練の女剣士セネカと寡黙なドワーフの戦士ローゴを仲間に招き入れ、万全の準備を整えて旅立った。

 この4人の冒険について、目的地にたどり着くまでを詳細に記述すると本書の本来の目的からそれてしまうし、ガイアとの約束で遺跡の場所は秘密とされている為、ここでは詳しい記述は避ける事にする。我々冒険者は、数々の戦いの末、山岳地帯の氷壁に掘られた洞窟の先にある、迷宮の最深部にたどり着いた。

 

 迷宮の最深部は巨大なホール状になっており、無数の巨大な氷柱が連なる鍾乳洞のような部屋だった。その中心部に魔人を崇拝するダークストーカー達が造り上げた祭壇があり、魔人は祭壇の奥に鎮座していた。魔人は人の形をしているが、人の約3倍の背丈があり、口には鋭い牙、頭には反った角が2本生えていた。鼻からは冷気を出し、体は硬く凍てついていた。

 

 魔人は人語を話した。意外にも口調は穏やかであった。

「限りある生命を持つものよ。なぜ生き急ぎ、死に急ぐか。」

最初にセネカが反応した。

「邪悪なる者よ。貴様の問答に付き合ういわれは無い。我が刃の味を知るがよい。」

セネカは魔力を帯びた長剣を抜いたが、ローゴが制止した。私も気付いていた。この氷の魔人にはすでに目に光は無く、おそらく意識が無い事を。長い年月が魔人の思考をも凍らせてしまったのだろう。この場合相手が満足する答えか、論破する言葉を与えられれば戦わずして望みどおりに事が運ぶかもしれない。しかし、「なぜ生き急ぎ、死に急ぐか」の問いに対してどう答えてよいものか見当もつかなかった。ガイアに目配せしてみたが、首を横に振るだけだった。私は魔人を牽制してみることにした。

「我らは確かに限りある生命をもつものだ。他に問いはないか。」

魔人は言った。「汝らは生を受けたときから死は約束されたもの。なぜ死を恐れるか。」

ついに上手い答えは思い浮かばなかったが、魔人が人間に興味を持っているように感じた為、私は人間の業について答える事にした。

「魔人よ。生き急ぎ、死に急ぐは生命に限りある故だ。死を恐れるは我らが神と悪魔の世界に無知だからだ。」

魔人の目に光が宿り、唇に歪んだ笑みが浮かんだ。誤答だったのだ。

「その命、我に捧げよ。」

その言葉と同時にセネカとローゴが突撃した。

 なぜ氷の魔人がこのような問いかけを行ったのか。この件についての推測は章の後半に述べる。

 戦いは壮絶を極めた。セネカとローゴは接近して長剣と戦斧をそれぞれ魔人に叩き込んだがほとんどダメージは与える事はできなかった。戦いの中で魔人にダメージを与える事ができたのはガイアの放つ霊界の炎の魔法(※2)だけである。私はセネカとローゴを治癒、蘇生の魔法(※3)で回復させながら魔人の攻撃がガイアの方に向かないように注意を引き付けた。この作戦は功を奏し、長い戦いの末、ついに魔人を打ち倒すことができた。

 魔人は断末魔の咆哮を上げ、崩れ落ちた。魔人の咆哮には弱体魔法(※4)が含まれており、その魔力が怒涛のように襲った為、私は精神を集中して対抗した。

 

 “イリアステーム”の力が初めて解き放たれたのは、弱体魔法の嵐が過ぎ去った直後だった。

 倒れた魔人の後ろに何か光るものが見えたと同時に私の周りが暗闇となり、見えるものはその光だけとなった。光は徐々に大きさを増し、目の前に広がっていく。光の眩しさに慣れてくると、そこにはある風景が映し出されていた。

 それは雪深い山脈を上空から見ている風景だった。その尾根に小さな2つの黒い点があった。不思議なことにそこに意識を集めると2つの点が拡大していく。2つの点はだんだん姿がはっきりしていき、人影だと分かった。さらに拡大すると紫紺の鎧を身にまとった大柄な騎士とおそらくは騎士の従者である女戦士の後姿であることが分かった。

 私の意識は騎士の後姿に近づいていった。すると私の視線に気付いたように、騎士はゆっくりとこちらを振り向いた。

 

 ここで私は我に返った。雪山と騎士は瞬時に目の前から消え、意識は戦いのあった暗い洞窟に戻った。私の目の前では3人の仲間たちが不思議そうに私の顔を覗き込んでいた。私は事の顛末を話した。他の3人にはこの体験は無かったようである。

 ガイアはその話を聞くと早速、祭壇付近を調べ始めた。彼女は床に隠し扉を発見し、ローゴが開錠に成功した。扉を開けると床下には石室があり、そこには1本の古びた木製の杖が転がっていた。ガイアは慎重にその杖に掛けられていた魔法の封印を解き、杖に刻まれていた古代文字を読んだ。

「・・イリアステーム。」

 

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(注)

※1 かつて、星魔法が「魔法」と呼ばれていた時代もあった。しかし、現在は様々な魔法体系が世に満ち、この古典的な魔法体系を使わずとも魔法を使う事ができる為、「星魔法」という呼び名が必要となった。この事実こそが、この魔法体系の現在の地位を示している。

※2 ASTRAL FIRE

※3 それぞれ、HEALRESURRECTの意。

※4 DISPEL