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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)          

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

終章 記憶の底

 

(6)

 

「グリヌフスにマルドック配下の者が潜んでおるという情報は、各地に放ったインプ達から聞いておった。だが、その事を伝えなかったのは、お前たちをグリヌフスに派遣した目的が別にあったからだ。」
「目的とは何だったのですか?」ラフムはそう言いながら、
以前ラハムとその事について語り合ったのを思い出していた。
「それは、わしらの出生の謎を解く為だ。」

「まだ他にあるのか?」ネルガルが口をはさんだ。「おれたちは『テームに判断を届ける』為に、“最後の王”が生み出したのではないのか?」

「そうだ。それは大きな意味で間違いは無い。だがな、テームは重力場だ。そんなものが人を『生み出す』とは一体どういう事なのだ?

 わしは20年前、テームによって廃墟と化したエルミアの町で、マルドックに出会った。

 あのときマルドックは、『われわれの存在意義は王朝を復活させる為にある』と信じておった。(※1)
 その根拠は、“空中庭園”のエルフが語った“最後の王”の遺した言葉にある。
 その言葉とは『テームへ』だ。“最後の王”は『何処へ行くのか』との問いにそう答えたという。
 マルドックはその言葉から、“最後の王”がテームの中で生きており、我々に記憶を与えた、と考えていた。そしていずれ“王”は復活すると信じておるのだ。(※2)

 しかし、そんなことが本当にあり得るのだろうか? 重力場の中で人間がどうやって存在するのだ?

 奇しくも、“東の大雪山”の神殿にいたイリアスの霊は、『魔法王朝の絶頂期でも、人間を創り出す事はできなかった。』と言い残している。(※3)

 古代の魔法使いでさえ、人そのものは創り出せなかった。それなのに、次々に人を生み出すテームとは一体何なのだ?

 その謎を解き明かさぬ限り、わしらの出生は明らかになったとは言えぬ。

 10年前――いやもう11年前か――幼いラフムとラハムは、わしの元を訪れた。

 わしはすぐにこの双子は同族であると分かった。そしてお前たちは、ラフムが兄でラハムが弟であると言ったのだ。

 わしは不思議に思った。名前はともかく、どちらが兄でどちらが弟かなどという知識は、あまりに家庭的ではないか。

 その知識は、見かけだけでは分からぬ。母親が居なければ知る事はできないはずなのだ。

 わしは、二人がやってきた頃、“奈落の門”に滅ぼされた町は無いか、調査を開始した。

 その結果、グリヌフスという町がその時期に滅びていた事が分かった。

 わしが、お前たちにグリヌフスに行くように指示したのは、そこでお前たちが何を感じるかを知りたかったのだ。」

「それで・・・何か分かりましたか?」ラハムが訊ねた。

「ああ、分かったとも。お前たちはグリヌフスで、『心の落ち着き』や『安心感』を感じていた。(※4)

 それは郷愁、つまり『懐かしさ』だ。」

「え、まさか・・」フーレイが目を丸くした。

「うむ・・・。ラフムとラハム、いやそのときは別の名であったはずの双子の兄弟は、グリヌフスで生まれ、3歳まで暮らしておったのだ。

 テームはグリヌフスを滅ぼす直前、そこに暮らしていた双子に自らの記憶を移し、町の崩壊に巻き込まれぬよう安全な場所に解き放ったのだ。」

「じゃ、じゃあ、テームは・・・」ラハムはそれ以上言葉が出なかった。

「わたし達の両親は、テームに殺された、という事ですか。」ラフムが代わりに言った。

 ヌディンムトは頷いた。

「お前たちの記憶によって謎は解けた。マルドックの想像は間違っておったのだ。テームに人を創る能力は無い。テームは融合した記憶と“最後の王”の意志が封じられた重力場でしかないのだよ。

 テームは、まだ知覚できる記憶を持たない健康な3歳児を選び、自らの記憶を注入する。この方法で、わしらは生み出されたのだ。

 じゃが、3歳までの記憶は消えるわけではない。潜在的に残っておる記憶が、グリヌフスで懐かしさを感じさせたのだ。」

「そんな・・・残酷だよ・・・」フーレイは目に涙を浮かべていた。

 ラフムとラハムは言葉を失った。

「今まで隠していたのは済まなかった。お前たちに素の感情を湧き立たせる為には何の情報も与えずにグリヌフスに行ってもらう必要があったのだ。

 あのとき、わしはマルドックの配下の者がグリヌフスの執政官の館に潜んでおることは知っておったが、それが何者かまでは分かっていなかった。

 仮にそれが強力な魔法使いだった場合、お前たちが戦いを挑めば、ひねり潰されてしまう恐れがあった。しかし、ただの冒険者として近づけば敵も無用な殺戮はしまいし、お前たちもわしの命令が無ければ強い相手に戦いを挑まないはずと判断したのだ。」

「・・・そうですか。師匠は正しかったと思います。わたし達は生きていますし。」

 ラフムはラハムの顔を見ながら言った。ラハムは目を合わせなかった。

「ちょっと待ってくれ。」ネルガルである。「“最後の王”がテームにおらず、人を創る事ができないのなら、どうやってテームは“永遠の王国”を建てるんだ? テームが完成した時、何が起きる?」

「それは、わしにも正確には分からぬ。だが、テームの持つ機能から推測するとおそらくは・・・」ヌディンムトは軽く目を伏せた。「テームは世の全ての成人を吸収し、遺伝する記憶の領域にわしらと同じ知識を注入した3歳児だけを地上に残すのではないだろうか。

 その子供たちが成長すれば、統一された潜在意識の人類が誕生する。彼らは、共通の潜在的記憶によって相互理解があり、国を滅ぼす一線を越える事はない。

 さらにその子孫にも記憶は遺伝し、国は維持される。

 それが、“最後の王”が夢見た“永遠の王国”のはずだ。」

「そう上手くいくかな。」ネルガルの率直な感想だった。

 ネルガルは、この洞窟にいたマルドックは偽者であった事をヌディンムトから聞いていた。

 マルドックはテームの実体を知らない。彼は、テームに“最後の王”が存在すると信じている。そして、自分自身の手で“王”を呼び出し、古代魔法王朝を復活させようとしているのだ。

「おい、本物のマルドックは何処にいるのか分かるか?」

「奴は・・・今ごろアリア-サンに到着しているはずだ。」

「なぜだ?」

「マルドックは、配下の魔導士キシャルに人為的にテームを出現させる研究をさせていた。

 キシャルは、グリヌフスの執政官の館で、町がテームに襲われた時の状況を調べていたのだ。その結果、テームが出現する条件は、人口が1万3千人を越え、周りを魔法結界で囲まれた町、である事を突き止めた。

 キシャルはマルドックにそれを報告し、自らはアリア-サンの首領に近づき、町の周りに結界を構築する準備を始めたのだ。

 その計画は、エンリルの命と引き換えに一旦は潰えた。

 しかし、わしはエヌルタの記憶を得たとき(※5)、マルドックはそれをあきらめておらず、わしは奴の策略にまんまとはめられていた事を知った。

 この洞窟にいた偽のマルドック――つまりエヌルタは、わしらを引き付けるための囮だった。

 マルドックの本当の狙いは誰にも邪魔されずにアリア-サンに魔法結界を構築する事だったのだ。結界の構築は、奴が召喚したチャロン達によって何か月も前から密かに進められておった。

 エヌルタが障壁を解除し、残る力で最期の戦いを挑んできたのは、与えられた役目を終えたからだ。

 その役目とは、今日までこの洞窟にわしらを足止めする事に他ならない。

 つまり、アリア-サンに結界が完成し、マルドックがそこに来る日が、まさに今日なのだ。」

 

※1 第二章(4)参照

※2 第三章(1)参照

※3 第三章(7)参照

※4 第一章(1)参照

※5 第四章(19)参照

 

 

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