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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)          

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

終章 記憶の底

 

(5)

 

「どういう意味だ? “最後の王”は失敗したという事か?」

「いや、そうではない。“最後の王”が意図したかどうかが分からぬだけだ。

 魔法民族に生まれた者は、『生まれながらにして魔法使い』であったという事は話したな。」

「ああ、それは聞いた。」

「その魔力は古代語でルヒューと呼ばれ、七惑星魔法と呼ばれる体系として伝えられておった。

 地上の全ての物質は、宇宙から降り注ぐ七惑星の力の影響を受けておる。生物の成長を司る太陽の力や潮の満ち干きを司る月の力は、日々その影響を肌で感じるものだ。感じ取れる人間は少ないが、それ以外の惑星も地上の物質に作用しておる。

 その七惑星の力を魔導器に与え、その秘めたる力を呪文により解放し、発動する。それが七惑星魔法の奥義だ。

 そして、発動されるさまざまな効果が古代魔法文明の繁栄を支えていたのだ。

 わしは“空中庭園”のエルフ、ウィルラスに魔法民族の知識とはどんなものだったかを訊ねた。

 エルフの話によると、古代の魔法使い達は魔導器に掛けられた七惑星の力の均衡が人体や魔力の発動にどのような影響を与えるかを知っており、無数に存在する力の数と種類の組み合わせを日々研究していたという。その結果、新しい魔法を創造できる者が、優秀な魔法使いとされておった。その最上位に位置したのが、“最後の王”を輩出した王族だ。

 ただ、いくら知識があっても、魔導器の七惑星の力の均衡を変化させられなければ研究は進まない。

 その術を持っていたのは、魔法民族の中でも特別な一族だけだったという。

 その一族は七惑星神の祭祀を司る役目を持ち、その中で最も優れた者は“七惑星の巫女”と呼ばれておった。そして、魔法使い達は“巫女”を大切に護っていたという。なぜならその術が失われたとき、七惑星魔法の進歩は止まり、文明が衰退に向かうのは明らかだからだ。

 そして、魔法使い達は“七惑星の巫女”の血統が濁るのを極度に恐れていた。なぜなら、何故その一族だけが七惑星の力の均衡を変化させる術を持っているのか、その理由が知られていなかったからだ。

 神話はその理由を、民族の祖先が七惑星神の使徒であるからと述べていた。魔法使い達も“巫女”の一族が最も使徒の血が濃い者達であると認めておった。じゃが、なぜその知識が遺伝するのかは謎だったのだ。それは、生まれたばかりの赤子が乳の飲み方を知っている事と同様の、当たり前の事として深く追及もされなかった。

 だから、彼らがした事は、遺伝する記憶が薄れないように、一族の血統を護る事だけだったのだ。

 ここまでの話で気づく事は無いかのう?

もう一度言う。『生まれながらにして魔法使い』であった古代の魔法使い達は、誰にも教えられないにもかかわらず魔法の知識を持っておった。

 そう。その仕組みは“最後の王”が考えた方法と同じだ。遺伝するルヒューの知識は、人間の意識の底にあり、知覚できない記憶の領域に存在したに違いない。それにより、古代の魔法使い達は息をするが如く、魔法を行使する事ができたのだ。

 しかし魔法王朝は滅びた。現代に七惑星魔法は伝えられておらぬ。

 600年前、その奥義は失われたのだ。

 だが、“最後の王”が創造したテームは、わしらを生み出した。テームには古代の魔法使い達の記憶が含まれていたはずだ。“最後の王”は、その記憶に自らの意思を融合させ、わしらに与えた。

 その記憶には、ルヒューの知識が含まれていたのだ。

 イナンナは身体的な条件が揃ったのだろう。おそらく偶然に“七惑星の巫女”の記憶が発現したのだ。

 そして、“巫女”を護り続けてきた古代の魔法使いの意思が、わしらの記憶の底にはある。それにより、わしらはイナンナを守護せねばならぬという衝動に駆られるのだ。」

 確かにそうだ、とネルガルは思った。イナンナをラハムと共に戦いに向かわせたとき、マルドックですらイナンナには手出しはすまい、という奇妙な確信があった。(※1)

「“最後の王”が意図したかどうかは分からぬが、七惑星魔法は復活したのだ。そして、遺伝する記憶をもわれらに与えることができたという事実が、永遠の記憶の支配を目指した“最後の王”の成功の証明だ。」

「シンは、」ネルガルの声はかすかに震えていた。「テームの製造には七惑星魔法が使われているはずと考えていた。そして、その力の均衡を破壊できるのは、イナンナだけと信じていた。(※2)“七惑星の巫女”には本当にそんな力があるのか?」

「理論的には可能だろう。が、現実にはテームを破壊する為に掛ける星の種類と数量を術者は決めねばならぬ。それにはテームがどんな星の構成で成り立っているかを知る必要がある。

 だが、調査を完了させたときには、テームの圧力で術者の身体は粉砕され、帰還する事は無いだろうな。

 結論としては、実際には不可能だ。」

 イナンナがそれを知ったらどう行動するだろう。ネルガルは洞窟の奥に目をやった。姿は見えないが、イナンナは奥にある部屋で死者復活の儀式を行っているはずだ。

『そして、おれはどうすればいい?』

 ネルガルはその言葉を口にするのをためらった。答えは自らの記憶の底にあるはずなのだ。

 そのとき、意外なところから声がした。

「師匠・・・」

 ネルガルは振り向いた。ラフムである。

「ラフム、大丈夫?」

 ラハムが心配そうに半身を起そうとするラフムの背中に手をやった。

 ラフムは身体を起こし、ヌディンムトの方を向いた。

「師匠・・・質問をお許し頂けますか。」

「ラフム、それにラハムよ、お前たちはすでに一人前だ。許しを請わずとも訊くがよい。」

「ありがとうございます。師匠は1年前、わたし達二人をグリヌフスに遣わされました。師匠はそこにキシャルが潜んでいた事を知っていたのでしょうか。」

 ラハムはドキリとした。二人で話していた師匠への疑問を全てぶつける気だと思ったのだ。

 ヌディンムトは渋い表情をした。以前ならそれを見ただけで二人とも黙ってしまっただろう。

 しかし今は違った。ラフムは続ける。

「わたしはキシャルに懐柔された挙句に術を掛けられ、それが解けぬがまま魔人に戦いを挑み、無様な姿を晒しました。しかもアルがわたしの身代わりになってしまったのです。」

「それは違う。お前はよく戦った。アルカリンクウェルの死の責任はこの計画を立案したわしにある。」

「いいえ、そうではないのです!」ラフムは立ち上がろうとしてふらついた。「わたしがキシャルの邪悪さにもっと早く気づき、少しでも手傷を負わせていれば、アルだけでなくエンリルも死なずに済んだのではないかと思うのです。師匠に非があるとすれば、あのとき『グリヌフスに棲む魔導士を斃せ』とわたし達に指示しなかった事です!」

「お前の気持ちはわかるぞ。しかし違うのだ。」

 ヌディンムトは穏やかな口調で弟子に話しかけた。

「つらい話になるが、聞くがよい。」

 

 

※1 第四章(18)参照

※2 第四章(4)参照

 

 

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