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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)          

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

終章 記憶の底

 

(4)

 

 ラハムの顔を照らす炎が揺らいでいた。ゆらゆらと揺れたかと思うと次第に小さくなり、渦を巻いている。

 術者であるフーレイの心境を投影しているのだ。

 ここにいるフーレイ以外の人間は、正体の知れない“奈落の門”と呼ばれる謎の怪物と出生を関係している。“普通の人間”であるフーレイが動揺するのも無理はない、とラハムは思った。

 そんなラハムも、自分の身が自らのものではないような不安な気持ちに支配されていた。

「フーレイ・・・」ネルガルの呼びかけに炎がピクッと震えた。

「心配するな。どんな事実があったとしても、おれはテームの行動を認めない。」

 ネルガルは、フーレイを見つめた。

 炎は次第に暖かい熱を取り戻し始めた。

 

 「ひとつ質問だが、」ネルガルはヌディンムトに視線を合わせず、揺れる赤い炎を見ながら言った。「テームが人の記憶を欲している事は分かった。王朝崩壊後の600年間、テームが都市を襲っていた理由も分かる。だが、おれ達との関係はさっぱり分からないぜ。」

「そうだのう・・・。わしとおぬしは、なぜここにこうして集まっておるのだろうか?」

「はあ? 何を今さら。おれはあんたに雇われたから・・・」

 そこまで言ってネルガルは言葉を詰まらせた。そう、リドンの町でヌディンムトはネルガルを賞金稼ぎとして雇った。だが、賞金稼ぎなら誰でもよかった訳ではない。“ネルガル”という名前の賞金稼ぎが居たからわざわざ呼び寄せたのだ。(※1)

 シャマシュもラハムも古代神の名である。皆、3歳児としてこの世に現れた時からその名を名乗っていたという。テームは同族と気付くための指標を与えたのではないか・・・。

 七惑星神の寺院に掲げられていた紋章をネルガルは昔から知っていた。シン達もその紋章に引き寄せられるように集ったのだ・・・。

 ヌディンムトは幼少の頃から古代語を解したという。ネルガルもまた、ディンギルという古代の言葉を知っていた・・・。(※2)

「謎そのものが答えでもあるのだ。わしらは、共通の記憶を持っている。その記憶はおそらくテームが用意したものだろう。

 皆、自らの出生に疑問に思っており、追及していた。それすらも記憶の意思だ。その仕掛けによって、わしらは集い、こうして語っておるのだ。」

「でもそれはおれ達が生み出された理由にはならないぜ。」

「あわてるでない。“最後の王”の立場に立ってみると分かるのだ。

 600年間、人々の記憶を吸収し続けたテームが、なぜ70年ほど前からわしらを生み始めたのか。

 魔法王朝が崩壊した時、テームは未完成じゃった。“最後の王”はテームの記憶の一部となり、王朝崩壊後も“永遠の王国”の夢を見続けた。

 だが“最後の王”は、テームが将来に渡り必要不可欠なものかどうか、確証を得ていなかったのだ。もしかしたらテームの完成を待つまでもなく、人類の英知によって“永遠の王国”は実現しているかもしれない。

 判断とは、過去の記憶と現在の状況を考慮し下すべきものだ。彼は過去の記憶の集合だけでは正しい判断はできない事を知っていたのだ。

 今がテームを欲する世界かどうかの確証を得る為に何が必要か。

 ここからはわしにも想像できる。

 『その世界で生きて、判断する』のが確実だ。彼は、その判断はその時代の人間にしかできないと悟っていたのだ。

 この為にわしらはこの世に現れた。判断をテームに伝える為に。」

「それは納得できねえな・・・。」ネルガルの声はうわずっていた。「そんな目的があるのなら、なぜはっきりとおれ達はそれを自覚してないんだ? なぜあんたが調べ抜いてやっと発見する事なんだ?」

「もっともな意見だのう。だがな、それは常識にとらわれ過ぎだ。ネルガルよ、もしおぬしがある日突然『お前の生まれた目的は、テームを必要とする世界かどうかを判断する為だ。テームへ正しい判断を届けるがお前の使命だ。』と教えられた場合、『そうですか』と受け入れるかのう?」

 ネルガルは押し黙った。

「わしとてそうだ。受け入れる事はなかろうな。人間は、知覚できる記憶を認めず、拒否する事もできてしまうのだ。

 “最後の王”は、人を支配する為にはその可能性を排除する必要があると考えた。

 その為に何千人もの罪人を使い、実験を繰り返しておった。そしてついに、人には知覚する事ができない、意識の底にある記憶の存在を発見したのだ。

 テームの記憶は、その知覚できない領域に封じられている。それにより、わしらは自らの意思で動いていながら、知らず知らずのうちにテームの目的に近づいていたのだ。」

「知覚できない記憶なんて、本当にあるのか?」

「あるのだ。魔導士キシャルはマルドックの配下に加わる前から、我々が3歳児としてこの世に現れる事に疑問を感じ、幼児期に何か秘密があると考えた。そして、3歳児までの記憶について研究しておった。その研究成果は、マルドックの記憶に刻まれておる。(※3)

 一般的に3歳とは、人生で最も古い記憶を持つ年齢だ。わしらはそれ以前の記憶は無いように感じている。しかしながら、出生から3歳ごろまでの経験は、成人の行動に無意識に影響を与えていることにキシャルは気づいた。

 幼児期に親に暴力を振るわれたり、阻害されたりすると、成人になってから理由なく人に恐怖を覚えたり、自分の子に暴力をふるってしまう人々が存在する。

 キシャルはこうした事例を集め、知覚できない記憶によって、人は制御されておると結論付けたのだ。だから、3歳児までの記憶を明らかにすれば、我々の出生の謎が解けると考えておったのだ。・・・キシャルは志なかばで死んだがな。

 わしらはなぜ3歳児でこの世に現れるのか。それは、3歳でそれまでの記憶を知覚できなくなるからだ。テームはそこを狙って記憶を注入し、この世に放つ。そうすれば、わしらは何も気づかぬまま、テームの意に沿った人生を送ることになる。」

「いや、しかし・・・」ネルガルが声を絞り出した。「おれは、操られているなどとは・・・」

 そうは言ったものの、すでにネルガルは気付いていた。なぜ昔、父と妹との穏やかな生活を棄て、山を降りたのか。

「それほど心配せずともよい。わしは長年生きてきたが、テームの記憶が何か悪さをしたとは感じられない。何かを追求する姿勢や持続する探究心など、良かったと感じられる事の方が多いぐらいだ。」

「おれは、とても良かったなんて感じられないぜ・・・。」

 かつてネルガルは自らの記憶にある紋章を追い、シンと4人の神官達と戦い、敗れた。その上、呪いまで掛けられ、苦悩の時を過ごしたのだ。

 その後、復讐を遂げたが、シン達は崇高な目的を持つ神官だった事を知り、愕然とする。(※4)

 その償いの為、ネルガルはシンの遺志を継ごうと考えていた。

 シンの遺志とは、イナンナを命を懸けて護る事であった。

「イナンナの存在はどう説明する? あの娘の術は、テームに判断を伝えるのに必要なのか?」

「いいところに気づいたのう。」ヌディンムトは眉間の皺をより深く寄せた。「わしの推測では、“七惑星の巫女”の出現は“最後の王”も予想していなかったと思うのだ。」

 

 

※1 第二章(3)参照

※2 第二章(14)参照

※3 第三章(2)参照

※4 第四章(4)参照

 

 

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