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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)          

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

終章 記憶の底

 

(3)

 

「国が滅ぶのはどんなときか。直接的には内乱の発生や外敵の侵入による政治体制の崩壊が挙げられるだろう。ただ、国を俯瞰した場合、内乱はその国の体質が生み出したものと分かる。そして外敵に侵略を許す国は、たいてい内部統制に問題があるのだ。

 なぜ、どんなに隆盛を極めた国であっても、時が経つと内部から弱体してしまうのか。

 仮に強力な魔力で外敵を滅ぼし、民を護り、国を造った一人の建国王がいたとしよう。その王は善政を施し、人々の尊敬を集めていたとしよう。

 建国王が国を治め、皆がその声に耳を傾け、彼の目指す方向に突き進む時代、つまり王を中心に国の心が一つになっているとき、内乱は起き得ない。さらに、外敵に対しても一致団結して対抗できる。

 常にこのような状態を維持しておれば国が滅ぶことは無いのだ。

 賢明な建国王は自分の死後も国が存続する為の政治体制を築くだろう。しばらくは王の遺した財産で国は維持される。しかし、世代が交代し、豊かで安寧な時代を過ごすと、人々は建国の痛みを忘れ、自らの利益を追求するようになる。

 一人が自らの利益を優先すると、別の者も対抗し始める。こうした事はすぐに伝播するのだ。

 度を越さなければそれもよい。――王侯貴族の野望は国の発展に繋がる場合もあるし、庶民が生活水準の向上を求めるのは国の原動力だ――しかし、際限無き欲望が人々の対立を深め、国全体の利益を顧みない行動を起こし始めたにも関わらず人々がそれに対して罪の意識を持たなくなったときが、王国の終わりの始まりだ。

 どんなによい政治体制を建国王が築こうとも、所詮は人が作ったもの。そのような人々にかかればいずれ攻略されてしまう。

 すなわち、国が滅ぶとき、それは、王侯貴族や庶民が、自分やその親族、組織の事だけ考え、相互理解をしようとせず、国全体を見なくなるときだ。

 『それでは、』と“最後の王”は考えた。国が滅びる原因は分かった。ならば、その原因を取り除けば結果は反転するはず、と。

 つまり、『建国の志を後世の全ての人々に常に浸透させ、人々がお互いを理解し対立する事が無ければ、“永遠の王国”は可能になる。』という事もまた真であるのだ。

 そのような事は不可能だと凡人なら考えるだろう。しかし、“最後の王”はそれに本気で取り組んだのだ。」

「おい、」ネルガルが口を挟んだ。「それは想像か? おれは空想物語を聞きたいんじゃないぜ?」

「想像ではない。」ヌディンムトはきっぱりと言った。「マルドックの記憶にその根拠はある。奴は“東の大雪山”の頂上で、古代の大魔法使い、イリアスの亡霊に出会った。」

「ああ、知っている。」ネルガルにもその記憶があるのだ。

「イリアスは、彼が創り出した“イリアステーム”の力を強化するために、“最後の王”によって召喚されたのだ。

 “イリアステーム”の力とは何か。それは、人の記憶を制御する力だ。

 “最後の王”が500年の眠りからイリアスを呼び出し、“東の大雪山”の頂上で必死の研究を続けていた理由。それは、国の全ての人間の記憶を支配する事が、“永遠の王国”を創る条件だと信じていたからだ。」

「そんな・・・」フーレイは話の大きさに圧倒されているようだ。「なぜそんな大それたことを?」

「“王”は孤独だったのだよ。彼に本当の事を話す者は居ない。彼は真実を知りたかった。

 そもそも、イリアスが宮殿内の雑多な連絡の誤伝達、会話の誤解を防ぐ目的で発明した“イリアステーム”が、なぜ500年後の“最後の王”の時代には使われておらず、後の世に伝えられたのはその力の一部である“忘却の魔法”のみであったのか。

 それは、真実を伝えたくない者どもが国中に居たからに他ならない。

 皆が自らの都合を優先する時代、おそらく国の中枢でも、知られては都合の悪い事実を持つ者が大多数を占めておったのだろう。彼らは全会一致で“イリアステーム”を排除したであろうな。その結果、“王”に真実を伝える者は居なくなったのだ。

 話がそれたの。“最後の王”は、国を滅ぼすのは国を構成する人々自身であると理解し、なぜ人々は親族や氏族などの小さな組織を作り、しばしば国益を損ねるまで対立するのかを考えた。

 その小さな組織では利益が共有されているから、その組織の為に皆はよく働くし、裏切らずに戦う。そこではなぜ人々は結束しているのか。結束した人々を詳しく調べると、彼らは地縁、先祖、歴史、宗教、生活習慣を共有している。

 つまり、共通の知識と思想を記憶し、それに基づいて行動しているのだと“王”は気づいた。
 だから彼は、統一された知識と思想の記憶を国の全ての人間に与えれば相互理解によって争いは無くなり、さらに建国の志を共有すれば“永遠の王国”は実現できると信じたのだ。

 そこで、“イリアステーム”の力に目を付けた。

 “イリアステーム”には、その杖に封じた記憶を人間に注入する力がある。その力を使い、全ての人間の記憶の支配を目論んだのだ。それには杖の強化が必要だった。記憶を受け継いだ人間同士の相互理解の為、杖には多種多様な価値観を持つ人間の記憶をなるべく多く封じ、融合させる必要があったからだ。」

「だが、」ネルガルは自分の中にあるマルドックの記憶を手繰った。「その実験は失敗に終わったはずだ。」

 “最後の王”がイリアスを召喚した目的は“イリアステームの杖”の強化だった。しかし、その魔法実験の結果は満足なものではなかった。イリアスの亡霊は、“東の大雪山”に打ち捨てられ、契約を果たされることなく600年の間、神殿の底で怨みを募らせていたのだ。(※1)

「その通りだ。“イリアステーム”は、人が使う道具の域を出ていなかった。

 情報の最小単位は、励起・非励起の列で表現される。『記憶を杖に封じる』とは、その励起・非励起の列を杖を構成する元素に置き換えて記録しておく事なのだ。

 満足いかなかった実験結果とは、“王”が求めた情報の量を封じる為に“イリアステームの杖”の許容量が十分でなかったという事だ。

 しかし、“最後の王”はあきらめなかった。

 山を下ると神殿に篭り、すぐに次の研究に着手したのだ。
 共有するべき記憶の封印に杖の容量は不足していた。容量がどれだけ必要かすら分からない。だから、人の記憶を吸収する度に周辺の元素を取り込み、圧縮する事で大きさを一定に保つ研究を始めたのだ。

 元素が圧縮を繰り返すとどうなるか。密度がどんどん上がっていき、分かりやすく言うと重さが増すのだ。

 重さが際限なく増すとどうなるか。周囲に強い引力を及ぼす、重力場が発生するのだ。

 それがテームの実体だ。

 “イリアステーム”とは、古代語で『イリアスの情報』という意味を表す。

 “最後の王”はその言葉から『イリアスの』を除いた。テームとは、言わば『全人類の共通の情報』という願いを込めたのだ。」

「ちょっと待ってよ!」フーレイが叫んだ。「テームって今は“奈落の門”なんでしょう。『全人類の共通の情報』であるテームが、なんで町を襲うのさ?」

「おれには分かるぜ。」兄の言葉にフーレイは目を丸くした。

「王朝滅亡の直前、“最後の王”がエルフに『何処へ行くのか?』と問われたとき、残した言葉は『テームへ』だった。(※2)そのときテームは未完成だったのだろう。

 だから“最後の王”はテームの一部となり、いまだに人間の記憶を封じる実験を続けているのだ。なあ、そうだろう?」

「あたしには分からないよ!」フーレイが食い下がった。「記憶を封じるために、なぜ町を滅ぼすのさ! 町には草一本無くなるんだよ!」

「フーレイよ、町とはな・・・」ヌディンムトが落ち着かせるように間を開けた。「人の想像力の産物だ。そこにある建造物や植えられた植物、飼われていた家畜、そして人間そのものを含めた全てが、記憶の写像なのだよ。」

「なるほど・・・」ネルガルが顎の無精髭を撫でながら言った。「だから、テームは町の全てを吸収するのか・・・。」

「テームの目的は町全体の情報を記憶する事だが、悲しいことに今では巨大な重力場になってしまった。地上に出現するとその圧力で町を破壊し尽くしてしまう・・・。」

 ヌディンムトは眉間に皺を寄せた。

「だがな、その実験は終わりに近づいておる・・・。」

 

 

※1 第三章(7)参照

※2 第二章(15)参照

 

 

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