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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)          

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

終章 記憶の底

 

(2)

 

 アルカリンクウェルの遺体を洞窟の奥の小部屋に納め、イナンナがそこに入って行った事を見届けた後、ネルガルはラハムと共にその場を離れた。

 後はイナンナに委ねるしかない。ネルガルはざわつく心を落ち着かせた。

 他の仲間は洞窟の入り口付近の壁の側で、しばしの休息を取っていた。

 洞窟の中は深々と冷え込んでいる。永久凍土の精は魔人を凍結させるだけでは飽き足らず、徐々に洞窟の壁に冷気を伝え、影響範囲を広げているようだった。

 フーレイは小さな火の精霊を召喚し、焚火のような炎を躍らせていた。こうしておけばある程度の暖を取る事は可能だ。

 ラフムは炎の近くで横になり、目を閉じている。イナンナの治療で一命は取り留めたものの、全快にはほど遠い。ラハムが心配そうにその傍らに寄り添った。

 シャマシュは壁を背に座り、長剣の手入れをしていた。元々は装飾が施されていた彼の剣と鎧だが、魔人との戦いで焼け焦げ、見る影もない。ここでできるのは応急の修理だけのようだ。

 ヌディンムトは岩に腰かけ、一人佇んでいた。

 ネルガルは洞窟の壁にもたれかかるように、ヌディンムトの隣に腰を下ろした。

「さ、話してくれ。謎の答えをよ。」

「・・・覚悟はいいかの? つらい話も含んでおるが・・・。」

「当たり前だ。ラハム、大丈夫だな?」

 焚火の反対側でラハムは頷いた。

「あたしは聞いていいの? その話?」フーレイが炎の様子を見ながら言った。

「今から話す事は、わしら一族の出自の秘密だ。」ヌディンムトは言った。「おぬしは一族の者ではないが、ネルガルの身内だろう。聞いておくがよい。」

 ヌディンムトは革袋の水を一口含んだ。

「わしらが幼子として世に現れる年には、必ずテーム――奈落の門――がひとつの都市を滅ぼしておる。その事実にはわしもマルドックも昔から気付いておった。そのテームは魔法王朝の“最後の王”によって創られたものであるという事は、“空中庭園”のエルフが明らかにした。つまり、わしらの出生の秘密を探るには、“最後の王”が生きた時代――王朝が滅びた約600年前――に遡る必要があるのだ。

 千年以上に渡り繁栄したとされる魔法王朝は、魔法民族と呼ばれる者達によって支えられていた。彼らはどのような人々であったか。

 当時の遺跡には、必ずと言っていいほど同じ神話の一節が刻まれている。その内容は次のものだ。」

 ヌディンムトは目を閉じ、詠唱するように語った。

「“我が家系代々魔力を操りて、七惑星の神々に仕え天の宮に住みしが、ある時邪悪なるもの逃げ去りて、この地上に下りたり。我が祖先神々の命を受け、この邪悪なるもの滅ぼさんと地上に降りたるが、地上すなわち天の宮と違いて時の流れ早きものなれば、命の火たちまち燃え尽き、一代をもってこれを滅ぼせじと悟り、我が祖先地上に根を下ろし代々その意思を伝うものなり。”」

 ヌディンムトは目を開いた。ネルガルとラハムが食い入るようにこちらを見つめている。シャマシュも手を止めていた。

「この神話が実際にあった出来事を語っているか否かはここでは問題ではない。神話というものはそれが事実であるかどうかよりも、多くの者が信じ、心の拠り所にできるかどうかに価値があるのだ。

 ここで大事なのは、この神話が『魔法民族の祖先は七惑星神の使徒』であり、『生まれながらにして魔法使いである事』の根拠が語られているという点だ。

 そう、魔法民族の者は生まれながらにして魔法使いなのだ。当時、“魔法使い”とは技能ではなく、種族を指す言葉だった。

 その魔力の強さは、血筋によって差があった。――ここからはまた、“空中庭園”のエルフ、ウィルラスから聞いた話だ。ネルガル、おぬしも少しは聞いておろう――。魔力が強いほど神に近いとされ、魔法を使えない人々は下層階級として魔法民族に支配されておったのだ。

 この地域を支配した王国(※1)では、王が亡くなると魔法民族の王家の血筋を持つ者の中で最も魔力の優れている男子が、次の王に選ばれた。

 テームを創ったのは、その王国の“最後の王”だ。

 “最後の王”は頻繁に“空中庭園”を訪れ、エルフ達に昔の話を聞いていたという。

 彼は特に人間の古い国家の興亡に興味があり、自らは“永遠の王国”の建設を目指していた。テームは、“永遠の王国”を実現するために作り出したものだという。

 だが、テームの実体については、ウィルラスも知らなかった。

 テームとは何か、その謎を探る為、彼がなぜ“永遠の王国”を望んだかを考えてみる。

 ウィルラスは、“最後の王”は王朝の滅亡を予感していた、と語った。王朝の滅びが見えていたからこそ、“永遠の王国”を夢見たというのだ。

 実際“最後の王”の代に滅びたのだから、彼は聡明な王たっだようだの。皮肉な話だが・・・。

 では、“最後の王”はなぜ王朝の滅亡を予感したのか。それを彼の生活から推測してみた。

 ウィルラスによると“最後の王”は頻繁に“空中庭園”を訪れ、ときには長期滞在していたという。地上では魔法研究の拠点であった神殿にこもり、テームの製造に没頭していたという。

 ここで疑問が生じる。一国の王が、なぜそのような世捨て人のような生活をしておったのか。そんな事をしておって国を治める事ができたのか。

 違うのだ。そうではなく、王朝の末期は王がそのような生活を送っていても成り立つ政治体制だった、と考えた方がよかろう。つまり、王は政務から離れておったのだ。

 神話に語られるように、『民族の祖先は神の使徒』である以上、王は最も使徒の血の濃い、強い魔力を持つ者である必要があった。その王の言葉こそが神の言葉であり、民族の誰もが従うものだったのだ。

 しかし、政治に必要なのは魔力ではない。魔力やまじないが必要なのは、人々が獣や天災を畏れ、超自然的なモノに全てを委ねていた時代じゃ。国家が安定し、民が文明的な教育を享受できるようになれば、自然に不要になる。そんな人々の心をまとめ、国全体を動かすのが政治の力だ。

 もちろん魔法は当時の生活や戦争には必要不可欠だったであろう。だが、それはあくまでも道具として必要なだけで、人々の行動規範にはなり得ないのだ。

 王は民族発祥の象徴として存在していたのだ。魔法能力は優れておっただろうが、政治的な力は無かったのだな。

 そういう立場に置かれた王の耳に届く情報の真偽は、不確かだったと想像できる。

 情報は、発信者が自分との間に利害関係を持たない者であるか、接点のない複数の人間が同じ事を言っているかどうかで判断しないと裏付けられぬ。しかし、王の周辺には国の中枢を構成する氏族を代表する者しか居なかっただろう。まさに利害関係の塊だ。彼らの語る過去の歴史は、政権と出身氏族に都合の良いものばかりであったろうな。“最後の王”はその歴史を信じなかった。歴史は後の世の権力者が創るもの。権力者の家系にある彼は、それを知っておったのだ。

 だが、この時代の王は、魔法研究だけは許されていた。なぜなら王は魔法使いの象徴であったのだから、その腕を磨き、新たな魔法の品や魔法生物を発明するのは政治的な宣伝効果が高かったのだ。その為に古代の様々な魔術を知るエルフとの交際は認められておった。

 そこで、彼は過去の真実をエルフ達に求めたのだ。エルフ達は何千年も昔の出来事を昨日の事のように語る。彼はエルフ達の話から、過去の人間の国家はいずれも隆盛を極めた後に滅びている事を知り、彼の王朝も同じ道を歩んでいる事に気付いたのだ。

 しかし、聡明な“最後の王”は、それでも王国の未来に自分がどのように貢献できるかを考えていた。つまり、“永遠の王国”の建設を目指したのだ。

 わしはこの状況下に置かれた王がどのようにして“永遠の王国”を創ろうとするか、想像してみた。」

 

 

※1 古代魔法王朝の全貌は未だに明らかにされていない。ある古文書によると、千年以上もの歴史の中には幾度も内乱や政治体制の変革があり、中央集権国家の時代もあれば、諸侯達による分割統治の時代もあったとの事である。エルフの語る「この地域を支配した王国」とは、分割統治時代の王国のひとつという意味なのかもしれない。

 

 

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