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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)          

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

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おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

終章 記憶の底

 

(15)

 

 シャマシュは、“最後の王”の存在を感じていた。“王”はこの世界の隅々を知っている。姿は見えないが全てに同化している。

 この世界は“王”の記憶と共にある。言い換えれば、皆の記憶に“王”が存在する。

 記憶の底から、“王”は監視者として、調停者として、ときには指令者として、ここの住人を支配している。

 この世界の住人は、“王”の支配から抜け出す事はできない。それが故に、反乱や動乱は存在せず、永遠の平和が保たれるのだ。

 ネポは早くからその事に気付いていたのだろう。その為に彼は知識を外に求めず、自らの内に求めたのだ。

 シャマシュは、自らの記憶の底に語り始めた。

『“王”よ、あなたが目指していたものを理解しました。

 ここは理想郷です。全ての人々の記憶をあなたが支配し、人々は幸福に満たされている。

 でも知っていますか? 外の世界、つまり現実世界では、このテームは“奈落の門”と呼ばれている事を。

 それは、テームが出現した後に残されるものが廃墟だけだからです。現実世界では、テームは強力な重力場でしかありません。強すぎる重力は、全ての物質を分解してしまいます。その町の記憶はテームに移されますが、それは関係ないのです。テームは文明を一夜にして滅ぼす、大災害の一種として扱われているのです。

 古代王朝が崩壊した後の600年間、現実世界に継続した統治を行う国家は現れていません。

 テームが人類の発展を阻害しているのです。“永遠の王国”を目指したテームが、皮肉な事にその道を壊し続けているのです。

 こちら側から見ると理想郷、しかし向こう側から見れば邪悪の根源なのです。

 ディンギルが人類に力を与えた理由。それは、人類が何度失敗しても立ち上がる精神力、何世代にも渡って解決不可能な困難に立ち向かう力強さに希望を見出したからです。

 それをあなた一人だけの考えで潰してはならない。ましてや、テームが現実世界を支配する事などあってはなりません。それがいかに正しく、美しく、理想的であっても、です。

 なぜなら、この世界はあなたの妄想に過ぎず、その妄想はあなたの人類への絶望を起点としているからです。

 それは、人類に希望を見出したディンギルとは正反対の立場です。

 確かにあなたを生んだ古代王国は失敗した。しかし、たった一回だけで、諦めていいのでしょうか? ディンギルはそう考えていないはずです。そうでなければ、ディンギルは人類ではなくエルフを選んでいたでしょう。

 テームが現実に生きる人類の再起を阻むのは、ディンギルの意思に反しています。

 でも、テームは現実世界に対して一つだけ、何にも代えがたい素晴らしいモノをもたらしました。

 失われた七惑星魔法を復活させたのです。

 これにより、人類の魔法文明は復活し、ディンギルの意思は再び世に広まるでしょう。

 それを実現するのに必要な事は、あと一つだけです。

 テームの活動を止めるのです。

 “最後の王”よ、もう一度人類にチャンスを下さい。人類は七惑星魔法を手にし、再び文明を創り上げる。それまで待ってほしいのです。

 復活した文明があなたの古代王国のようにディンギルを裏切り、自壊し、悪魔のつけ入る隙を与えるのなら、そのときこそテームの助けが必要でしょう。

 私はこれからあなたと一体になります。私の意思はあなたと共有される。

 ここで、人類を見守るのです。』

 

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 カル・サーデュの視界から、シャマシュの姿が消えた。

 カル・サーデュは、シャマシュから“イリアステームの杖”に光がある限り上空に待機せよ、と命じられていた。

 脚に括り付けられた“杖”は、徐々に光を失いつつある。シャマシュの第一の指令は、終わりに近づいていた。

 天頂に集まっていた星々は、あるべき位置に戻っている。

 カル・サーデュは次の指令を思い出し、旋回の速度を上げた。

 上昇気流を探しながら、カル・サーデュは『人類はなぜ・・・』と思考していた。

 人類はなぜ、楽園を求めるあまり、戦いを生み、苦しみを繰り返すのか。

 猛禽類にはそのような苦しみは無い。

『なぜ、人類だけが・・・』

 カル・サーデュは地上を見て、ああそうか、と理解した。

  人間たちは飛べないからだ。

 彼らに翼があり、地上を俯瞰する力を持っていれば、この苦しみは無いだろう。

 カル・サーデュは上昇気流を見つけると、甲高く嘶いた。そして、シャマシュの第二の指令――ネルガルの下に帰れ――を実行に移した。

 向かう先の空では、雲の間から伸びる白い光芒が星々を食み始めていた。

 もうすぐ、夜明けなのだ。

 

 

- 完 -