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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)          

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

終章 記憶の底

 

(14)

 

 戦槌は振り下ろされなかった。

 マルドックの目は、シャマシュを見つめている。

 しかし、その一瞬の躊躇は、隙を生んだ。

「マルドック!」

 無数の矢がマルドックの胴と胸を貫いた。賞金稼ぎ達の攻撃である。

 マルドックは、不思議そうに自らの身体を見ていた。痛みを感じないのだろう。

「グアアアアアァ!」

 再びその目に狂気が宿った。

 マルドックは、賞金稼ぎ達の方へゆっくりと振り向き、歩み始めた。

 そこへ、第二波の矢が襲う。

『何だ?』

 賞金稼ぎの攻撃は正確だったが、マルドックに当たらなかった。矢の嵐は身体をすり抜け、通過したのだ。

 マルドックは、青白い光に包まれていた。

 シャマシュは、仰向けのまま空を見上げた。

 天頂に星々が集中し、そこからマルドックに光線が照射されている。

 マルドックだけではない。その光は、シャマシュにも向けられていた。

 身体が軽くなるのを感じる。

 立ち上がってみた。重力から解放されたように、すっと身体が持ち上がる。

 賞金稼ぎ達が何かを叫びながらマルドックの周りに集まってきた。マルドックは彼らに掴みかかるが、触る事ができないようだ。また、賞金稼ぎ達にマルドックの姿は見えていないようである。突然姿を消したマルドックを探している様子なのだ。

 シャマシュは、彼らの声が自分の耳に届いていないのに気付いた。

『これは、死か・・・?』

 いや、魂が離脱したのなら自分の遺体が地面に転がっているはずだ。

 今、ウィルパーが側に来たが全くシャマシュの存在を感じていないようである。シャマシュもまた、彼らからは見えていないのだ。

『“時”が来たのじゃよ』

 声が響いた。いや、耳から入った音声ではない。直接に脳に言葉が投じられたような感覚・・・。

 振り向くと、ボロを着た老人が立っていた。彼もまた、青白い光に包まれている。

『ネポ・・・』

『テーム、いや“最後の王”は、わしらの帰還を待っておる。』

『分かるのですか?』

『テームは出現したが、町は飲み込まれておらぬ。まず、わしらを飲むのじゃ。』

『そして、判断するのですね。』シャマシュは空を見上げ、覚悟を決めた。『では、お達者で。』

『別れは無用じゃ。テームでは人の記憶が常に共有されておる。今、こうして“会話”しているようにな。』

 シャマシュ、ネポ、そしてマルドックの身体は、光に溶け込んでいった。

 

 シャマシュは、目を開けた。

 太陽の光が周り一面の雲を照らしている。ここは、雲海だった。

 シャマシュは一人、雲の上に浮かんでいる。

 意識を下に向けると、雲海に落ちていった。そのまま、潜り込む。

 雲が薄くなり、視界が開けた。

 地上が見える。そこは、美しい河、森が広がり、城郭に囲まれたいくつもの町が点在していた。

『こ、これは・・・』

 そこにあったのは、かつてテームに滅ぼされた町々であったのだ。テームは自らの中にそれらを再構築していたのだ。

 シャマシュはその町の一つに意識を傾けると、一瞬にしてその町へ身体が移動した。

 高速で移動しても風圧を感じない。風どころか、音すら感じない世界である。

 シャマシュは、整然と並ぶ石造りの家々が周囲を取り囲む、町の広場に降り立った。

 広場の中心には噴水があり、吹き出す水のアーチに虹がかかっていた。

 シャマシュがその美しさに心を奪われていると、噴水の裏から、夫婦とその息子と思われる5、6歳の子供が歩いて来た。

 視線を向けると、彼らもシャマシュを見た。

 その瞬間、シャマシュの記憶に3人の性格、思想、歴史の全てが滑り込んできた。さらに彼らとシャマシュの心は一体となり、一瞬にして家族、親友以上の理解を得た。

 子供はシャマシュに手を振った。夫婦は微笑む。

 これまでに感じた事の無い幸福感。

 これは、どういう事か。

 そう思った瞬間、3人からその答えがシャマシュの心に届いた。

 ああ、そういう事か。ありがとう。

 この世界では、物理的な距離という概念が無いだけでなく、人と人の精神的な距離からも解放されている。

あの親子とは思想や宗教に相容れない部分はあったが、それはそれを信じる彼ら自身を理解することで、許しあえた。

 精神への重圧、心の抑圧は、人と人の間の軋轢によって生まれるのだ。

 ここにはそれが無い。この心地よさは、その為だ。

 シャマシュは“最後の王”の紋章を思い出していた。あの紋章は永遠を意味するウロボロスと融合を象徴するグリフォンで構成されていた。

 “王”が目指した「永遠の融合」とは、この事だったのだ。

『ん?』

 シャマシュは、広場から見える町の一角に見覚えのある館を見つけた。

『あれは・・・』

 シャマシュは、その家に駆けつけ、飛び込むように中に入った。

 そこは懐かしい我が家だった。いくつかの扉を抜け、自室に入る。

 シャマシュの心は震えた。

 ここで暮らしたのは、彼の長い人生の中でたったの15年間に過ぎない。しかし、最も生きていると実感した時代であったと思う。

 部屋の外から“声”が聞こえる。忘れがたい声だった。

 シャマシュはドアを開いた。そこには母娘がいる。

『父上!』

『お帰りなさいませ。』

 花が咲き乱れるテラスで、妻と娘が振り向いた。

『待たせてしまったな。今度の仕事は長くかかったよ。』

 シャマシュは二人を抱き寄せた。熱い涙が頬をつたった。

『旦那様、お城から言伝を承っていました。大公様に拝謁するようにと。』

『分かった。すぐに参る。』

 シャマシュは目を閉じ、ゆっくりと開いた。

 そこはかつての君主、リドン公の謁見の間だった。シャマシュは片膝をつき、頭を垂れている。

『ただ今、帰還いたしました。シャマシュにございます。』

『シャマシュよ、ご苦労であった。そなたの貢献をわしは誰よりも知っておる。』

 これは、かつてエルミア、シースターへの遠征から帰着した時にリドン公ゴードン三世より賜った言葉だった。

 騎士として最も充実していた時代の出来事である。

『ああ、そうだ・・・このとき・・・』

 家族とこの町の為に命を捨ててもいい、と思ったのだ。死への恐怖すら凌駕する幸福感、充足感を感じた瞬間であった。

 この記憶の再現は、贈り物だ。

『お心遣い、感謝いたします。我が父“最後の王”よ。』

 

 

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