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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)          

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

終章 記憶の底

 

(13)

 

 シャマシュが降り立った場所は、アリア-サンの町に続く街道沿いの空き地だった。

 血の匂いがする。空き地の窪みにぼろ布のようなものが横たわっていた。

「ネポ!」

 身体に触れるとまだ温かかった。生きている。

 シャマシュは回復の呪文を唱えた。金色の光がネポの身体に宿る。

 ネポはゆっくりと口を開いた。

「・・・おお、シャマシュ・・・来たのじゃな。」

「遅ればせながら、参りました。」

「ここに来るとき、魔物の出迎えを受けなかったかの?」

「チャロンですな。故郷に送り返しました。」

「あやつらはマルドックが召喚した魔物じゃ。町の周囲に結界を張り巡らして・・ウグゥ」

 ネポは咳き込み、荒い息を吐いた。

「分かっています。だから、来たのです。」

「・・・わしはマルドックを止めようとしたのじゃが・・・このざまじゃ。」

「生きていただけでも大したものですよ。」

「奴は心を失ってしまったのじゃ。わしの生死など確認もせず、放っていきおったわい。」

「マルドックは何処です?」

「奴は・・・町じゃ。多くの血を求めて・・・」

 シャマシュはアリア-サンが燃えていた事を思い出し、町の方角を仰ぎ見た。

「行かねばなりません。」

「じゃが・・・もうそこまで来ておるぞ。」

「何がです?」

「分からぬのか・・・見よ、空を。」

 シャマシュが空を見上げると、そこには異様な光景が広がっていた。

 星々が天頂の一箇所に集中しているのだ。地上に届く光が歪められているのである。それは、巨大な重力場であるテームの影響を示唆するものであった。

「・・・それでも、行かねばなりません。」シャマシュは立ち上がった。「もはや奴にしか結界の解除はできないでしょう。」

 

 アリア-サンは背後にそびえる岩山を利用した要塞である。町の外郭は山裾まで続く堀に囲まれている。外郭の中は商業地区と住宅地区で、中心部には高い石の塀と背後の岩盤に囲まれた内郭がある。町を支配する賞金稼ぎギルドの首領はその中におり、戦時は内郭に籠城するのである。その分外郭の守りは薄く、堀の内側には木でできた塀があるだけだった。

 シャマシュが堀に駆けつけると、通常は上げられているはずの跳ね橋が下りており、そこには惨殺された数人の番兵が横たわっていた。

 どうやらチャロン達が番兵を襲い、橋を下ろしたようだった。マルドックはここから侵入したのだろう。橋の先にある外郭の門は開いたままだった。

 シャマシュは火の手が上がる方角に進んでいく。その途中、道のあちこちに頭部が砕けた遺体やちぎれた手足が転がっているのを見た。

『マルドック・・・』

 シャマシュは狂気を感じた。マルドックの心は悪魔に奪われてしまったのだろう。

 住宅地を抜けた先に、とりわけ大きな炎の柱が見えた。

 そこでは、松明を手にした10数名の屈強な男たちが燃え上がる3階建ての館を見ながら何やら叫んでいた。彼らはおそらくギルドが組織した自衛団だろう。

 その一団の先頭に居た弓を持った男が叫んだ。

「止まれ! 何者だ!」

 シャマシュは歩みを止めない。

「止まれ!」男は矢を発射した。矢はシャマシュの脇をかすめる。

「待て!」奥から白いマントを纏った男が出てきた。自衛団のリーダーのようだ。「私はウィルパー。聖騎士とお見受けする。お名乗り下さい。」

「私はシャマシュ。貴殿は何と戦っているのか分かっておるのか?」

「いや、分からない。人間にしては残虐過ぎだ。不死かと思い、聖印の光を当ててみたが全くひるまない。」

「どこに居る?」

「あの館の中だ。あの炎では生きてはおらんと思うが・・・」

「そんな事では斃せぬ。あれは、狂戦士だ。」

 周りの賞金稼ぎ達がどよめいた。皆、狂戦士の伝説を知っているのだ。

 狂戦士は痛みを知らず、四肢が分断され、動けなくなるまで殺戮を繰り返すという伝説である。しかも、狂戦士はもともと高名な戦士や騎士なのだ。

「で、出てきたぞ!」

 館の扉が開き、炎の中からマルドックは現れた。右手に戦槌、左手に槍を持っている。頭髪は焼け焦げ、全身は返り血で赤く染まっていた。

「下がっておれ。ここは任せてもらおう。」

 そう言う前から賞金稼ぎ達は後退を開始していた。

 シャマシュは左足を前に出し、長剣を八双に構えた。

 奇声を上げながらマルドックが突進してくる。

 隙だらけだが、シャマシュは攻撃をためらった。相打ち覚悟なのだ。

 マルドックは走りながら戦槌を振りかぶり、打ち下ろした。

 シャマシュはその一撃を寸前で左にかわした。

 しかしマルドックは驚くほど身軽だった。足をピタッと止めると身体をねじり、左手の槍をシャマシュの顔面に向けて投げたのだ。

 踏み込んでいたシャマシュは咄嗟に槍を剣で弾いた。
 構え直した時には、戦槌を振りかぶったマルドックが面前に迫っていた。これは避けられない。

 シャマシュは打ち下ろされた戦槌を長剣で受け止めた。

「!」

 強烈な衝撃が両腕にかかった。狂戦士は人の力をはるかに凌駕していたのだ。

 マルドックは右脚でシャマシュの腹を蹴り上げた。

 シャマシュの身体は紙屑のように転がった。そこに、マルドックの戦槌が振り下ろされる。シャマシュは転がり続けてそれを避けた。

 少し距離を取ったところでシャマシュは転がるのを止め、仰向けのまま静止した。抵抗が無駄な事に気付いたのだ。先ほどの衝撃で右肩が外れたらしい。すでに腕の感覚は無く、剣は手放している。

 そうだ。自分の役目はマルドックを斃す事ではない。この町を救う事だ。元々、チャンスは一度きりだったのだ。

 勝利を確信したマルドックがゆっくりと近づいてくる。

 戦槌を振り上げた。

「マルドック! 目を覚ませ!」

 シャマシュは叫び、狂戦士の目を見つめた。

 マルドックの真っ赤な瞳孔が少し開くのが分かった。

「私が分かるか! シャマシュだ!」

 

 

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