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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)          

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

終章 記憶の底

 

(12)

 

「分かりました。」ラフムが言った。「師匠、アルの魂を救う為ならどんな礎にでもなります。教えて下さい、何をするべきかを。」

「ラフムよ、まさにその答えは『記憶の底に従え』だ。自らの心の声に耳を傾け、実行すればよい。ディンギルに授けられた記憶に誤りは無いのだよ。」

「そうですか・・・」ラフムは少し考えた後、言った。「私たちにはこの洞窟の場所を1100年後の子孫に伝える責務があると思います。ここを出る前に何かを残しておきたい・・・」

「それなら、これがいいでしょう。」イナンナが儀式に使っていた石版を指差した。「私にはこの紋章を石に刻む技術が与えられています。“最後の王”の記憶を受け継ぐ者なら、この紋章の意味は分かるでしょう。グリフォンは融合、ウロボロスは永遠、を象徴しています。」

「永遠の融合・・・」ラフムが呟いた。

「じゃあ、僕たちはその紋章をここから出口までなるべく多く埋め込もう。そうすれば、道しるべになるはずだよ。」ラハムが言った。

「そうか、そのような事でいいのだな。」ネルガルが自分自身に語りかけるように言った。「では、おれはアルの亡骸を“空中庭園”に届けるとしよう。あそこなら安全だし、時が止まっているから朽ちる事も無い。魔人を斃せばアルは甦ると伝えておけば、奴らは復活した魔法民族と共にここにやって来るだろう。」

 焚火の炎が大きく揺らいだ。それはフーレイの心の揺らぎだ。

「フーレイ、心配するな。おれはエルフにはなれない。“空中庭園”への道はマルドックから受け継いだ記憶にあるのだ。あの大鷹が帰還すれば、すぐにでも行って帰って来れるぜ。」

「帰還すれば・・・」フーレイが呟いた。

「いや、帰ってくる。」ヌディンムトが言った。「必ずや、シャマシュはここに戻って来る。わしは“イリアステームの杖”に再び皆の記憶を結集し、この洞窟に封じよう。

 そうしておけば、エルフに導かれてここを訪れたわしらの子孫は、かつてここで何があったかを知るだろう。

 それが、わしらが未来の為にできる事だ。」

 

 だが、ヌディンムトの望みは半分だけしか叶わなかった。二日後に大鷹――カル・サーデュ――は帰還したが、そこにシャマシュは乗っていなかったのである。

 鷹の右脚には、“イリアステームの杖”がくくりつけてあった。

 ヌディンムトはしばしの躊躇の後、“杖”の記憶を読み取った。

 予想通り、そこにはシャマシュ、ネポ、そしてマルドックの行動が封じられていた。

 それはシャマシュが『我々はどのように生きるべきか』を示すために遺したものだろう、とヌディンムトは考えている。

 

 ここからの物語は、彼らの最期の記憶を記述したものである。

 

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 暗闇の中でシャマシュの意識は朦朧としていた。

 眠ってはならない。ここは空だ。大鷹の背中にしがみつき、飛行中である。

 シャマシュはこの鷹に、とにかく早くアリア-サンへ飛ぶように命じた。

 魔法で強化された怪鳥、カル・サーデュはその指示に忠実に従った。速く飛ぶには高度を上げ、気流に乗る必要がある。しかし、それは同時に低温の世界に入る事を意味していた。

 昼の間は太陽から熱を得る事が出来た。西へ進めば日は長くなるが、太陽が沈む速さには追いつけない。いつしか夜となり、気温は氷点下に向かっていった。

 さらにカル・サーデュは上昇した。山を越える為だ。日が暮れた後にそれは見えない。目の前に暗闇がそびえ立っているだけである。

 星さえも見えなくなった。山肌を流れる雲の壁に入ったのである。激しく叩きつける氷の粒と水滴はシャマシュの体温を奪っていった。

 だが、シャマシュは降下を命じない。

 意識が遠のいてゆく。

 カル・サーデュが甲高い鳴き声を上げた。羽毛を掴んだシャマシュの握力の低下を感じたのだ。

 シャマシュは神に祈りを捧げた。『ペトスよ!』

 鍛冶の神であり、炉の神でもあるペトスはシャマシュの望みを聞き入れ、かりそめの熱を彼の身体に与えた。

 シャマシュは降下を感じた。山を越えたのだ。

 間もなく雲を抜け、視界が開けた。

 山から下る広い河に月と星の光が反射している。下流には町の灯が確認できた。目指す目的地、アリア-サンだ。

「!」

 そのとき、一陣の黒い風のようなものが下から吹き上げた。

 シャマシュの身体は弾き飛ばされ、カル・サーデュを離れた。

 空中に放り出されたシャマシュは、それでも冷静であった。身体を風に乗せて回転を止め、周りを見回した。

 黒い風は反転し、今度は上から降ってきた。シャマシュはその風の正体を捉えた。

 黒いローブだ。フードの中から赤く輝く二つの目が見える。

「チャロン!」

 シャマシュは落下しながら長剣を抜き、再びペトス神への祈りを唱和した。

 剣に神の力が宿り、青白く輝いた。

 チャロンはローブから骨ばった爪を突き出し、シャマシュに迫った。

 その爪がシャマシュの身体に触れる寸前、長剣の輝きが弾けた。それに触れたチャロンの身体は粉々に砕けた。

 上から甲高い声が聞こえた。シャマシュは身体の力を緩める。

 カル・サーデュは両脚でシャマシュの身体をしっかりと掴み、降下の為に折りたたんでいた翼を大きく広げ、急上昇に転じた。

 地上から10体以上のチャロンが次々に上がって来るのが確認できた。

 シャマシュは、首に掛けていた太陽石のペンダントを引きちぎり、呪文を唱えながら投げ落とした。

 太陽石は落下しながら輝きを増し、周囲に昼間の明るさをもたらした。

 夜のみに活動が制限されるチャロン達は黄泉の国へ還って行く。ターニングアンデッドの効果であった。

 太陽石の効果が消えたのを確認すると、シャマシュはカル・サーデュにチャロンが来た方向への下降を命じた。

 アリア-サンの町が視界に大きく広がって来た。深夜だというのになぜか明々と建造物が照らされている。

 近づいていくにつれ、それが大きな炎である事が分かった。

 シャマシュは胸騒ぎがした。

 そのとき、カル・サーデュが少し低い鳴き声を発した。何かを見つけたのだ。この猛禽は視力も強化されており、真夜中でも昼同様にモノが見える。

 シャマシュはすぐにそこへ降りるよう命じた。そして、マルドックの記憶から受け継いでいた“記憶の呪文”を唱える。

 鷹の右脚に縛り付けられていた“イリアステームの杖”の力は解放され、その先端に光が宿った。

 

 

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