(11)

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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)          

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

終章 記憶の底

 

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 岩の隙間から中に入ると、そこは青い光に包まれた小部屋だった。その光は天井から吊るされた七つの小さな燭台に灯された青白い炎から発せられている。

 部屋の奥には祭壇が設置され、向かい合う2頭のグリフォンとそれを取り囲むウロボロスの姿が刻まれた石板が祭られていた。

 祭壇の前には六芒星が描かれており、その中心にアルカリンクウェルの遺体が仰向けに寝かされていた。

 そして、イナンナはアルカリンクウェルの遺体の傍らでうつ伏せに倒れていた。その手には、小さな真鍮製の天球儀が握られていた。

「イナンナ!」

 ネルガルはイナンナを抱き起こした。その手から天球儀が滑り落ち、キンッと音を立てて転がった。

「待って! 兄さん!」後から部屋には入ってきたフーレイが言った。「あのときと一緒よ。」

 そうだ、確かにあの寺院の地下墓地の状況と同じだ、とネルガルは思った。

 あのときも遺体は灰にならず、ティアマトは甦ったのだ。(※1)

 ネルガルはイナンナを支えながら、じっとアルカリンクウェルの遺体を見つめた。

 しかし、何も変化はない。

 ヌディンムトが部屋に入ってきた。「どうしたのだ。」

「よく分からねえ。」ネルガルが応えた。「儀式は成功したように見えるが、アルは動かない。」

「ああ!」イナンナが声を上げた。

「イナンナ! 大丈夫か。」

「ごめんなさい・・・この方は・・・復活できません。」

「でも灰になってない。これは儀式が成功した証じゃないのか?」

「儀式は成功したのです。・・・でも、魂は亡骸に宿りません。」

「ど、どういうことだ?」

「ここが、魔人の結界の中だからだろう。」ヌディンムトが言った。

「おい、何でそんな事をあんたが言えるんだよ!」

 ネルガルは立ち上がった。フーレイが代わりにイナンナを支える。

「アルカリンクウェルの魂は魔人のものだ。マルドックの契約は未だ破棄されておらぬからのう。邪悪な者どもの契約とはいえ、それなりに神聖なのだ。」

「この方の魂はこの洞窟の結界に縛られています・・・それさえなければすぐにでも復活できるのですが、私の力が及ばぬばかりに・・・」イナンナは涙を流した。

「く、くっそう!」ネルガルは、ちょうど部屋に入ってきたラハムを突き飛ばし、小部屋を飛び出した。「どこ行くの! 兄さん!」すでにフーレイの声は聞こえていない。

 

 ネルガルは洞窟にそびえ立つ氷の魔人に向かっていた。走りながら大剣を抜く。

「うおおお!」

 魔人の右足に大剣を叩きつけた。が、固い魔人の身体に大剣は弾き返された。

「くそっ!」

 ネルガルは繰り返し斬りつけたが、魔人の身体は揺るがなかった。

「やめるのだ、ネルガル!」追いついたヌディンムトの声が背後から聞こえた。

「おい、こいつを斃す方法があるだろ!」

「落ち着くのだ、ネルガル・・・」

 ヌディンムトはネルガルの両肩に手をやり、目を見つめた。

「そうだ、爆薬を使えばいい! どうだ?」

「爆薬の原材料は硫黄やリンだ。それは地底に属する存在、闇の属性だ。そんなものを使っても魔人の力を増幅させるだけだ。溶岩の精が取り込まれたようにな。」

「じゃあ、他にもっとすごい火薬とか無いのかよ!」

「強力な破壊兵器は全て魔の属性なのだ。人類は自分達の発明と考えておるが、おそらく何者かが悪魔との取引で手に入れ、世に広めたものだろう。そんなもので魔人は斃せぬよ。」

「じゃあ、このままあきらめるしかないのか? 冗談じゃないぜ!」

「方法は、ある。」

「何? もったいぶらずに言えよ!」

「簡単な事だ。邪悪なるものは、聖なる力で斃すのだ。人類が神から授かった力を使えばよいのだよ。」

「神から得た力・・・?」

「七惑星魔法?」ヌディンムトの後ろでフーレイが訊いた。

「そうだ。わしらは偶然にも“七惑星の巫女”をこの世に得た。かつての魔法民族のように、邪悪なるものに神々の力を行使するのだ。」

「しかし、確かイナンナは・・・。」

 イナンナは“七惑星の巫女”を自覚してはいるが、まだ一度も七惑星の力を物質に与え、魔力を行使できた事は無かったのではないか。(※2)

 ともあれ、ネルガルは落ち着きを取り戻していた。

 

 しばしの後、イナンナを加えた6人はフーレイの焚火の周りに集まっていた。

 ラフムは身体を起こす事ができるまでに回復した。ラハムから革袋を受け取り、水を飲んでいる。

 ヌディンムトはイナンナが持っていた天球儀を興味深そうに動かしている。

「・・・そうです。私には、七惑星の力を物質に与える力はありません・・・。どうやってもできないのです。」

「どういう事なのだ?」ネルガルが訊いた。「星の掛け方の記憶はあるのだろう?」

「神託で得た技術は確かなはずです。・・・でもなぜ星の力が物質に宿らないのか、私にも分からないのです・・・。」

「星の動きはどうやって予測するのかの。」ヌディンムトが尋ねた。

「その天球儀を使います。天球儀の製作方法もまた、神託により私の記憶に宿ったのです。その使い方や古代の儀式の作法は、私の脳裏に鮮明に蘇っているのです。」

「そうか・・・そこまでの記憶があるのに・・・なぜだ?」

「兄さん、ダメよ。」フーレイが言った。

 イナンナはまた目に涙を浮かべていたのだ。

 ネルガルは黙るしかなかった。

「なるほど・・・そういう事かの。」ヌディンムトが声を上げた。

「何か分かったのか?」

「うむ・・・イナンナの記憶は鮮明だった。あまりに鮮明であるが故に、真実を曇らせていたのだ。」

「どういう事だ?」

「つまり、イナンナの記憶は正しかったのだが、その前に『古代なら』が付くという事だ。

 お前たち、星々は毎夜、毎年、同じ周期で同じ動きを繰り返していると信じておるだろう。

 そこに落とし穴があるのだ。

 例えば、この天球儀の天極は北極星を基準とし、惑星の通り道である獣帯の位置を示しておる。だが、その基準は『古代の北極星の位置』だ。」

「えっ?」

「天の極点の位置はな、少しずつ移動しておるのだ。

 わずかな角度とはいえ、600年もすれば8度ずれる。1000年経てば14度だ。基準がずれれば他の天体の位置もずれてゆく。

 極点以外にも、惑星との距離や地上の気温、湿度による明るさの変化、太陽黒点の数による色彩の変化など、古代の記憶だけでは計り知れぬ多くの知識がある。

 それらの観察と事実を何年も何年も積み重ね、古代の記憶に修正を加えていけば、いずれ七惑星魔法の力を手にする事ができるだろう。」

「何年も何年もって・・・、あんた、いくつまで生きるつもりなんだ?」

「ネルガルよ、ディンギルが人類を選んだ理由を忘れたか。

 我々人類は、世代を超えて進歩していくのだ。知識を積み重ね、何代も何代も世代を重ねていくのだ。

 “永久凍土の精”がこの世で力を維持できる期間は1000年だ。1000年後から魔人の解凍は始まり、100年の後、魔人は復活する。

 つまり、期限は1100年あるのだ。そのとき、人類が七惑星魔法を手に入れておれば、必ずや魔人を斃す事ができるだろう。

 今の時代を生きるわしらは、未来の礎になるべきなのだ。」

 

 

※1 第四章(6)参照

※2 第四章(4)参照

 

 

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