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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)          

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

終章 記憶の底

 

(1)

 

 魔人が凍結され、その活動を停止したこの日、ヌディンムトは“イリアステームの杖”の力を初めて知った。

 イナンナが発動した記憶の魔法により、ヌディンムトはエヌルタとマルドックの記憶を得たのだ。

 エヌルタは、土星神の名を持つ同族である。マルドックに出会い、その配下に加わったとき、この魔導士はすでに老人だったという。

 エヌルタがまず考えたのが、まもなく天命のときを迎える自分がどのようにしてマルドックに長く仕えられるか、であった。

 老魔導士は長年の研究で転生術を熟知していた。転生術とは一度死に、別の存在として生まれ変わる術である。

 その術を使い、いったん肉体から魂を脱した後、エヌルタは霊的な存在として再びこの世に現れたのだった。さらに、暗闇でしか存在できず、実体化していないが故に制限の多い亡霊という状態を彼はよしとせず、マルドックが用意したドッペルゲンガーと呼ばれる怪物に憑りつき、その肉体を手に入れた。

 ドッペルゲンガーの細胞は軟体動物のように伸縮自在で、見たものにすぐに姿を変えられるという特性を持つ。その後エヌルタは、戦士として、魔法使いとして、ときには子育て女として、姿かたちを変える事で、マルドックの活動を支える力となった。

 そして、彼が最期に変身したのは、信奉するマルドックの姿であった。

 

 ヌディンムトはラフムとラハムの報告から、マルドックはいずれアリア-サンに現れるであろうと考えていた。アリア-サンでのキシャルの計画はエンリルによって阻止されたが、それならば自らの手でそれを成し遂げるのがマルドックという男の習性である。

 だが、それがいつのことになるかまでは、ヌディンムトも予測しかねていた。

 ヌディンムトがアルカリンクウェルと共に魔人の洞窟に向かう決意をした頃、彼が各地に斥候として配置していたインプは、マルドックもまた魔人の洞窟に向かっているという情報をもたらした。

 ヌディンムトはすぐさまラフムとラハムをアリア-サンから呼び出した。この探索を総力戦とする為である。

 しかし、そのときには気付いていなかったが、そのマルドックはエヌルタが変身した姿だったのだ。ヌディンムトは、死の直前にドッペルゲンガーの姿に戻ったエヌルタを見た事で、自分が欺かれていた事実を知ったのである。

 さらに“イリアステームの杖”は、マルドックがなぜ杖をネルガルに託し、ヌディンムトの元に送り込んだかについても明らかにした。

 それは、各々が持っている記憶を結集する事により、我々一族の存在理由を解明する為であった。

 マルドックは自分の精神は間もなく破綻すると感じていた。その前に自らの意思と記憶をヌディンムトに伝える事で、この目的を果たそうとしたのだ。

 そして、もう一つの目的である“テームを人為的に呼び出す”計画を邪魔されぬように、エヌルタを囮としてヌディンムト達の前に送り出したのである。

『完全にしてやられた・・・。』

 ヌディンムトの率直な思いだった。ただ、マルドックが自分たちと完全に乖離した思想の持ち主ではない事もまた、この杖の記憶によって明らかになった。

 

 ヌディンムトがラハムとイナンナと共に魔人の洞窟に到着したとき、すでに戦いは終わっていた。

 ネルガルとフーレイは無事だったが、シャマシュは全身に火傷を負い、ラフムは意識不明だった。

 そして、アルカリンクウェルは、魂を失っていた。

 ヌディンムトは、この責任は自分にあると考えた。作戦は無謀だったという事だ。しかも切り札として製造した水晶玉の中に封じた溶岩の精は魔人を斃すどころか敵のエネルギー源となっていたのである。洞窟の天井で一個目の水晶玉が爆発した後、階下に居た魔人がそのエネルギーを吸収してくれたおかげでヌディンムトが命拾いしたというのも皮肉な結末だった。

 ヌディンムトは沈んだ気持ちを表に出さないようにしていたが、イナンナには気付かれたのか、後ろから「大丈夫ですよ」と声がした。

 イナンナは傷ついた者たちを神聖魔法により回復させるという。

「でもここでは、駄目です。」

 魔人の結界内では術の効力が薄れてしまうのだ。魔人は凍結されたが、依然として強い魔力を持ち続けているのである。

 仕方なく、ネルガルとラハムは怪我人を魔人の洞窟から迷宮に運び出し、そこでイナンナの癒しを施した。処方後はすぐに洞窟に連れ戻す必要があった。迷宮にはダークストーカーが徘徊しており、襲われる危険があるからだ。洞窟の中までは彼らはやって来ない。魔人の洞窟は彼らにとっては“聖地”である為、特別なとき以外には近寄らない場所だったのだ。

 イナンナの回復魔法により、間もなくシャマシュは立って歩けるようになり、ラフムは意識を取り戻した。

 次にイナンナはアルカリンクウェルの復活を試みるという。

 ただ、イナンナ自身も初めての探索で、かなり顔色が悪く、消耗しているようだった。ヌディンムトはエルフの食事をイナンナに与え、少し時間をおくように言った。

 ネルガルによると、イナンナは以前一度だけティアマトという女性の蘇生に成功した事があるという。

 ヌディンムトはその経緯を聞いたが、アルカリンクウェルの蘇生は難しいのではないかとみていた。なぜなら、魔人との契約はまだ破棄されていないからだ。魔人は凍結され、活動を停止した為、アルカリンクウェルの魂はまだ魔界に持ち去られてはいないはずだが、魔人もまた依然としてこの世に存在しているのだ。

 イナンナは復活の儀式をこの洞窟の奥にあった小部屋で行うと言った。それは、アルカリンクウェルの魂が魔人の結界内に縛られているからである。

 また彼女は、儀式の最中はその小部屋に誰も入らないようにと言った。

 

 ヌディンムトはイナンナが儀式に入る前に、マルドックの意思を皆に伝え、フーレイを除く同族に記憶の結集を依頼した。

 反対する者は無く、全員が同意した。

 “イリアステームの杖”の力を発動する呪文は、杖それ自体に記憶されていた。イリアス、マルドック、ネルガル、イナンナの順に受け継がれたその呪文を使い、ヌディンムトは一人一人の記憶を杖に収めた。(※1)

 そして、その全てを自身に移した。

 結集した記憶の中には、謎を解く多くの鍵が秘められていた。ヌディンムトが立てたいくつもの仮説は、その鍵によって取捨選択され、一つの結論が導き出されたのだった。

 ヌディンムトは、ついに謎の全てを解き明かしたのである。

 

 

※1 この物語がマルドック、ヌディンムト、シャマシュ、ネルガル、ラフム、ラハムの記憶で構成されているのは、この時の記憶の結集に由来する。イナンナの記憶だけが“イリアステームの杖”に残されていなかったのは、おそらく七惑星魔法の掛け合わせの秘術が外部に流出するのを避ける為にヌディンムトが消去したものと思われる。他にも“魔人の洞窟”の場所や“空中庭園”への行程など、ヌディンムトの判断で“イリアステーム”から消去されたと考えらえる記憶はいくつかある。

 

 

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