Salvador'sCabintrival_dragon_red.gif

 

はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

→Home    →小説    →作者について    →写真館    →リンク

小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

(8)

 

 ラハムは、ラフムの背中に何度も声を掛けようと思った。

 でも、言葉が喉から出てこない。ラフムはどんどん迷宮を先に進んで行く。ランタンを手に持つラハムは周囲の明りを絶やさぬ為、彼の背中を追うしかない。

 

 アリア-サンでの事件から1年が経っていた。

 ラフムとラハムは、賞金稼ぎとして見違えるように成長していた。それは、周囲の評価だけではなく、ラハム自身も感じている事だった。

前は倒せなかった敵が、今は倒せる。それによって得られる賞金も日々増えていく。

 ラフムとラハムは充実した毎日を送っていた。

 そんなある日、師匠であるヌディンムトから指令が届いたのだ。

 アリア-サンから遠く離れた山岳地帯の洞窟に集結するようにとの指令だった。

 ラフムとラハムはすぐに宿を引き払い、旅立った。

 その道程は険しいものだった。ヌディンムトが指定した山岳地帯は魔獣の巣窟だったのである。

 しかしラフムとラハムはそれに対抗するだけの勇気と力を身に付けていた。魔獣を打ち倒し、目的の洞窟の場所を見つけたのだ。

 二人は果敢に洞窟探索を開始した。ヌディンムトの手紙には洞窟の奥にある地下迷宮の地図が同封されていた。そしてその地下迷宮の一室が、指定された場所だったのだ。

 洞窟にはさらに多くの魔獣がひしめいていた。ゴブリンやオークなどの亜人種や、コウモリやオオトカゲなどの暗闇を好む生き物達である。最も厄介なのは悪霊と呼ばれる黄泉の国の怪物が居た事だ。剣の攻撃が効かないそれらの怪物には、準備した聖水で対抗した。ただ、多めに持ってきたものの、数が限られる聖水は無駄に使うわけにはいかない。どうしても倒さなければならない場合以外、二人は逃走するのであった。

 ヌディンムトの指示通り、洞窟を抜けると地下迷宮があった。洞窟の岩の壁と違い、石造りの壁には悪魔の彫刻が至るところに刻まれていた。

 この地下迷宮には一生を地下で暮らす邪悪な亜人類が棲んでいた。彼らは赤や黒のローブを身にまとい、頭部も同じ色のフードで覆っている。組織化されており、一人で行動する事はほとんどない。暗闇に紛れてメイスや短槍で敵を仕留める刺客たちである。しかも地位の高い者は古代の魔法を使いこなす厄介な敵だった。

 彼らはその行動から、ダークストーカーと総称される。

 おそらくこの迷宮は、彼らが長い時間をかけて築き上げたものなのだろう。奥へ進めば進むほど、悪魔の姿が彫られた彫刻の数が増え、大きさが増し、彼らにとって重要な何かがこの奥にある事を暗示していた。

 ラフムとラハムの力量が増したとはいえ、ダークストーカーは少し手に余る怪物だった。

 だが、師匠の地図に示された通路に一度に現れるダークストーカーの数は少なく、中には傷ついている者もいた。また、彼らの死体もあちこちに転がっており、二人の前に敵を倒しながら迷宮の奥に入っていた者がいた事を示していた。

 ラハムはそれが、師匠であるヌディンムトとその同行者の仕業であると推測していた。師匠たちはこの先で待っているのだ。

 

 ラフムが地図に示された隠し扉を開けると、扉の先には漆黒のローブを着た二人のダークストーカーがいた。

 彼らは、扉の開くのを待ち構えていたのだ。どうやらこの敵は無傷のようだ。

 奇声を発しながら、扉を開けたラフムに短槍を突き立てた。

 ラフムは細身の剣を抜き応戦する。だが、二人のダークストーカーの同時攻撃はラフムの左の肩当てを貫いた。

 ラフムはそれに構わず、片方の敵の懐に飛び込んでいく。

 ラハムは後ろから、スリングショットで援護射撃を行った。スリングとは遠心力を利用して石礫を放つ、ひも状の投石器である。ここ一年の戦いで習得した技術であった。

 石礫は次々にダークストーカーの頭部に命中した。

 怒ったダークストーカーの一人はラハムに猛然と向かってきた。接近戦となればラハムも細身の剣で応戦する。

 勝負はあっけなく終わった。

 ラハムを襲っていたダークストーカーの心臓を、背中からラフムが剣で貫いたのである。

 ラフムと戦っていたダークストーカーは石礫の攻撃が目に命中し、戦意を喪失して逃げ出していたのだ。

 

 師匠が示した目的地まではあと少しだったが、この部屋で二人は小休止する事になった。

 ダークストーカーの槍には毒が塗られており、その攻撃を受けたラフムの左肩は大きく腫れ上がったのだ。

 幸い、意識はある。ラハムはラフムを床に寝かせ、肩を布で硬く結ぶと、口で毒を吸出した。そしてそこに素早く解毒剤を塗りつける。痛みでラフムは冷や汗を流した。

「これで少し様子見しよう。」

 ラハムは革袋の水で口をゆすいだ。この水も残り少ないな、と思った。

 この解毒剤は即効性のある薬で、しばらくすれば元のように戦えるだろう。

 ラフムの回復を待つ間、部屋には沈黙が流れた。

「・・・ラハム。」その沈黙をラフムが破った。

「なに?」

「言いたい事があるんだろう? 今、言えよ。」

分かってたのか、とラハムは思った。生まれてからずっと二人一緒だったのだ。ラハムだってラフムの事は口に出さなくてもほとんど分かる。

「じゃあ言うよ。・・・今から引き返さないか?」

 ラフムは目を見開いてラハムの横顔を見た。双子の弟は自分を映す鏡のようだ。でも、その弟の主張は分からない。

「どういう事? ここまで来て?」

「覚えてるんだ。エンリルが死んだ日、ラフムは『次の戦いで死ぬかもしれない。』って言ったんだよ。それって、この戦いじゃないのか?」

 エンリルがキシャルと共に爆死したときラフムが言ったその言葉の意味について、二人はその後、何度も話し合った。

 ラフムは、その戦いは『騎士の戦い』を指す、と言った。

 賞金稼ぎの戦いでは、勝利よりもカネ、カネよりも命が大事である。だから戦いと命は遠いところにあり、死なない。

 それに対して、騎士の戦いでは、命より勝利が優先される。だから、死ぬ。

 エンリルの最期の戦いはそれだった。

 ラハムはそれを聞いたとき、ラフムは騎士になったが自分は違うと思った。

 師匠の下を離れて二人で賞金稼ぎの旅を続ける生活。これが、もっとも重要なのだ。絶対にラフムを死なせたくない。

 ラハムはこの一年、慎重に戦いを選んでいた。賞金稼ぎの戦いである事を確認して、冒険に出発していたのだ。

 しかし、今回の旅は師匠の指令である。別格であった。二人は何の疑問も持たず、出発したのだ。

 でも、ラハムは気付いてしまった。この迷宮が特別な場所である事を。この奥に、命を懸けてでも倒すべき敵がいる事を。

「そうだ。きっとこの戦いだ。」ラフムは言った。「でも、僕たちって、何の為に生きていると思う? 騎士の戦いの為に生きているんじゃないのか?」

「僕は違うよ。」ラハムは即答した。「でも、ラフムがこのまま行くというのなら、僕も行くよ。」

「悪いな。僕は行くよ。」ラフムはラハムがうなずくのを見た。「ところでラハムは何の為に生きているか、考えた事あるのかい?」

 ラハムは答えなかった。その代わり、心の中で『ラフムを守る為。』と呟いた。

 

 

→NEXT