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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

(7)

 

ネルガルは言葉を失った。棺の中の人間が動き出すというのは、何とも奇妙な光景に感じたのだ。

 ティアマトは澄んだ緑色の瞳でこちらを見ていた。

「あなた方は・・・誰ですか? ここは、どこですか?」

「私の名はイナンナ。この寺院を預かる者です。こちらは賞金稼ぎのネルガルさんとフーレイさん。気分はどう?」

「気分・・・分からない・・・。」

「お前は“七惑星の巫女”の力でこの世に甦ったのだ。どこまで覚えている?」

「私は・・・雪山にいました・・・。」

「そうだ。マルドックと共にな。そこで命を失った。」

「!」ティアマトは思い出したようだ。「私は山頂の神殿で、イリアスの亡霊に会いました。怨霊となった彼の姿を見た瞬間、自分の存在の意味が分かったのです。」

「そうだ。お前の使命は“最後の王”の契約を果たす為、イリアスと共にこの世を去る事だったのだ。」

「あなたは、なぜそれを知っているのです?」

「マルドックがイリアスから授けられた杖を覚えているか? その杖の力により、おれにはマルドックの記憶がある。」

「マルドック様・・・死んだのですか?」ティアマトは立ち上がろうとしたが、少しよろけて、片膝をついた。

「心配するな。生きている。」それ以上、ネルガルは答えなかった。

「私の存在理由を知っていながら、なぜこの世に呼んだのです?」

「実はどうしても聞きたいことがあってな。」ネルガルはイナンナに目配せした。「大げさに思えるかもしれんが、文明の存亡に関わる事のなのだ。」

「いけません!」ティアマトは目を見開いた。「どんな理由があるにせよ、私がこの世に戻ればイリアスはまた怨念の塊となって追ってくるでしょう。彼は古代の大魔法使いです。どんな災厄があるか分かりません。」

 ネルガルは、怨霊となったイリアスが“東の大雪山”の神殿で“絶望の女神”と呼ばれる神を召喚しようとした事を思い出した。確かにあんなものを呼び出されたら大変な災厄だ。

 ティアマトは、呪文を唱え始めた。自分自身に魔法を掛けているようだ。

「やめな!死ぬつもり?!」フーレイは叫ぶと同時に風の精霊シルフに大気の静止を命じた。

 呪文が途切れた事を知ったティアマトは、腰の短剣を抜いた。

 その動きを見たネルガルは、すばやく大剣を抜き、ティアマトが自身の胸に突き立てようとした短剣を弾き飛ばした。

 ティアマトはがっくりとうなだれた。

 シルフの力によって地下室全体に沈黙が広がっている。

 ネルガルが目配せすると、フーレイは精霊の力を弱めた。

「急いでいるのは分かるが、ちょっとだけ待ってくれ。」ネルガルは大剣を背中に戻した。「マルドックからの伝言もあるしな。」

 ティアマトは目に涙を浮かべていた。

「ごめんなさい。あなたの苦しみを増やしてしまって・・・。」

イナンナはティアマトに寄り添った。

ネルガルは本題に入った。

「イナンナは“七惑星の巫女”と呼ばれているが、その奥義はまだ完成していない。それは星の掛け合わせといって、人類文明の鍵となるものだ。

ティアマトよ、七惑星神の下で暮らす者なら何か知っているだろう。教えて欲しいのだ、七惑星魔法の奥義を。」

「・・・そんな事の為に呼び出したのですか。」ティアマトは少し顔を上げた。「その考えはあらためてもらわなくてはなりません。七惑星神は、誰かに何かを教えたり、与えたりというような、そんな人間的な情緒のある存在ではありません。

七惑星神は、ただそこに存在するだけのもの。でも根源的な力はみなぎっており、それぞれに違う性格と法則を持っています。

私たちの一族は、その存在に古くから気付いていました。七惑星神を崇め、その性格と法則を知る事で力を得てきたのです。その力を代々伝えてきた事こそが七惑星信仰なのです。」

「つまり明確な神託はないという事だな。」ネルガルはイナンナに言った。

「じゃあどうすれば、何を信じればよいのでしょうか。私にとって、信仰こそが力である事は揺るぎません。」イナンナが反論する。

「そうかも知れんが、それは寺院に篭って修行に励む事ではない。それではもう何も得られないのだ。」

「その議論こそ無駄です。皆の知恵を結集し、行動を起こす事が唯一無二の答えです。」

 ティアマトはそう言いながら、腰のポーチから小瓶を取り出し、すばやくその中身を自分自身の頭に振りかけた。

「きゃっ!」イナンナが叫んだ。

 ティアマトの身体がみるみる灰色にくすんでいく。石化の魔法薬だったのだ。

「待て!」ネルガルが叫んだ。「マルドックは、お前を本当の娘以上に愛していたぞ!」

 ティアマトの耳にその伝言は届いたのだろうか。彼女は口元に笑みを浮かべ、そのまま石と化した。

 イナンナは、咄嗟の事になすすべも無かった。

「この方は強い決意を持って旅立ったのです。石化した身体はいずれ砂塵となり、この世に再び甦る事はないでしょう。」

 

 この後、ネルガル、フーレイ、そしてイナンナの3人が再びこの物語に登場するのは、魔人との戦いの場である。

 どのような行程で彼らが魔人の棲む洞窟に到達したのか、イリアステームには記録されていない。(※1)

 魔人の洞窟へ一人で旅立つつもりだったネルガルが、イナンナとフーレイを連れて行ったのは、ティアマトとの邂逅が少なからず影響していると思われる。七惑星神の力の解放には知識の結集が必要である事を実感したのだ。

 

 

※1 おそらく、カル・サーデュを使って3往復したのだろう。道程がイリアステームに記録されていないのは、洞窟の場所を隠す為と思われる。

 

 

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