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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

(5)

 

「それはどういう事だ?」ネルガルは訊いた。

「修行が足りないのです。あなたのシンに対する思いは分かりました。でも、私の力が未熟なのでは、どうしようもありません。」

 イナンナの修行中、シンと4人の神官は彼女をせかす事はしなかった。新たな神託があるまで何も言わず、静かに待っていたという。

 シンは、“奈落の門”を封じれば、人類の文明は継続し、発展を遂げると信じていた。

 マルドックもまた、シンとは違う方法でこの世に文明を導こうとしていた。彼は、“奈落の門”を人為的に呼び出し、“最後の王”をこの世に光臨させることができれば、“永遠の王国”の建国が始まると信じていた。

 人為的に“門”を呼び出すには、一つの町を生贄として差し出すことが必要だ。マルドックはそこまでしても、古代魔法文明の復活が人類を救う道だと考えていた。

 だが、マルドックに残された時間は僅かである事を、ネルガルは知っていた。彼の作戦は急ピッチで進行中のはずだ。

イナンナの修行が終わるのを待っていたら、おそらくシンの目標は達成できないだろう。

ネルガルは、自分の記憶の底にも何か残っていないものか、と考えた。

「その天球儀とやらを見せてくれないか。」

「いいでしょう。ただ、私にはその前にやらなければならない事があります。あなた方にも参列して頂きたい。」

イナンナは振り向いた。「葬儀を行います。」

 

 イナンナは祈りを捧げながら5人の神官の遺灰を用意した骨壷に丁寧に納めていき、粛々と寺院の中に運び入れた。

 最後の骨壷を手に取ったとき、イナンナはネルガルとフーレイについて来るように促した。

 ネルガルが寺院の門をくぐると、そこは石造りの窓の無い部屋だった。真夜中にもかかわらず、青白い光に満ちており、人の顔が分かる程度の明るさを保っている。その光は天井に一つだけある、水晶のような透き通った鉱物から放たれているようだった。

 ネルガルはこの部屋に見覚えがあった。

 ここは5年前、ネルガルが5人の神官と一戦を交えた場所だ。

 一瞬、当時の出来事が脳裏をよぎる。あの敗戦は長い間、彼のトラウマだった。だが、今はあの事を思い出しても苦しみは感じない。

『これが、呪いを解かれたということか・・・。』

 ネルガルはそんな事を考えながら歩いていた。イナンナは、あのときの事を覚えていないのだろうか。ネルガルに無防備な後姿を見せていた。

 ネルガルの思いをよそに、イナンナは部屋の奥にある扉を抜け、中庭の回廊を渡ると、地下へ続く階段を降りはじめた。

 地下へ続く階段も、壁全体が青白い光を反射し、暗くなる事はなかった。

 階段を降り、アーチ状の通路を抜けると、そこには墓地があった。

 墓地には朽ち果てるほど古い棺が並んでいた。

 ぞっとする光景だったが、イナンナは恐れることなく墓地に入っていき、中ほどの祭壇に置かれた4つの骨壷の横に、手に持つ骨壷を静かに置いた。

5人の神官、シン、アダト、アプスー、ナムタル、アヌの遺灰が収められた骨壷は、生きていたときと同じように、静かに神託のときが来るのを待っているようだった。

「ちょっと待ってくれ。」ネルガルの声が部屋にこだました。「“七惑星の巫女”は、死者を甦らせる力を持つと聞いた。イナンナよ、お前はシン達を復活させようとはしないのか?」

 イナンナは静かに答えた。

「魂は、灰になってしまった肉体には宿りません。それに、神官たちはいつ死んでも神の元に召されるよう、修行を積んできました。彼らの魂は今、神の国にあるでしょう。神の国にある魂をこの世に戻す必要はないのです。

なぜなら、死者復活の術はこの世に彷徨う魂を救済する為にあるのですから。」

 ネルガルは黙るしかなかった。

「ちょっと、この棺だけ違うよ。」フーレイが、祭壇の横に安置された棺を見ている。「なんだか新しい・・・。」

「今夜、葬儀を行うのはその方だけのはずでした。ティアマトという方です。」

ティアマトの棺は3日前に運び込まれた、とイナンナは語った。

「お顔を見てあげてください。美しい女性です。」

「いいの?」フーレイは驚いてイナンナを見た。イナンナは頷いた。

 フーレイは、棺の蓋をそっと外した。

 湿った地下墓地に、冷気が広がった。

 棺には、黒い甲冑に身を包んだ18歳ぐらいの若い娘が横たわっていた。

「ほんと、綺麗な顔だね。」

「雪山で魂を失った方の肉体は朽ちないのです。」

「ウッ・・。」

 ネルガルはティアマトの顔を見たとたん、うめき声を上げ、片膝をついて頭を抱えた。

「どうしたの!? 兄さん!」

 ティアマトの顔は、マルドックの記憶にあった。

『実の娘のように思っていた・・・。』

 ティアマトの魂は、今はイリアスの下にある。マルドックの記憶に刻まれたその経緯は、今はネルガルの記憶になっていた。

 イリアスは、“最後の王”の召喚によって600年間、“東の大雪山”に封じられていた魔法使いである。“最後の王”は、契約によりティアマトの魂をイリアスに与え、イリアスは神の国に帰って行った。

「イナンナよ、ティアマトの肉体は灰ではない。甦らせる事はできないのか。」

「この方の魂もまた、神の国にあります。救済の必要はありません。」

「神の国?」

「そうです。」

 イリアスは、古代王朝時代の魔法使いだったという。

そして、古代王朝時代の魔法は、七惑星魔法と呼ばれていたといわれる。

とすれば、イリアスの信仰する神とは・・・?

「もう一度言う。ティアマトを甦らせる事はできないのか。」

「ですから・・・それは、」イナンナは口ごもった。

「本当は、できるのだな?」

 

 

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