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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

(4)

 

「“奈落の門”を封じる・・・。そんな事ができるのか?」

 ネルガルは、その意味を理解していなかった。そもそも、“奈落の門”の実体を知らないのだから無理も無い。

「シンは、今の時代に文明が発展を遂げないのは、成長した都市がある時点で“奈落の門”に丸ごと飲み込まれてしまう為、継続した文明が維持されないからだと考えていました。“奈落の門”こそが、この時代の災厄の元凶と断言していました。」

 ネルガルの頭は混乱した。マルドックは、“奈落の門”を我々の祖先である“最後の王”が住まう聖なる場所、テームだと考えているのだ。ただ、確かに“奈落の門”という言葉は一般的にも災厄を表す言葉として使われる場合が多かった。

 考えを整理しようとするネルガルを横目に、イナンナは話し続けた。

「かつての魔法文明を支えていたのは、七惑星神の力でした。王族を頂点とした魔法民族が使う魔術は、七惑星魔法と呼ばれていました。

 七惑星魔法は、魔導器に掛けられた七惑星の力の均衡を制御する事によって、さまざまな効果を引き出す魔法体系です。これは、神や悪魔などの人知を超えた存在の召喚を必要とせず、しかも魔法を失敗しても魔導器が破壊されるだけの為、人体への危険が少ない極めて合理的な体系でした。

呪文を覚える知能さえあれば、その魔導器の持ち主となるだけで、戦士やドワーフであっても魔法が使えたのです。七惑星魔法のおかげで魔法文明は発展を遂げたと言えるでしょう。」

「分かるぞ。」ネルガルは口を挟んだ。「その七惑星の力の均衡を制御する術を持つ一族が、“七惑星の巫女”だというのだな。」

 イナンナは静かに頷いた。

「だが、なぜそれが“奈落の門”封じる手段に・・・。」

ネルガルは、そこまで言って気が付いた。

古代民族の使う魔法が七惑星魔法であったのなら、魔法文明の遺物であり、“最後の王”が創造したと言われる“奈落の門”=テームの製造には、七惑星魔法が使われているに違いないのだ。

「つまり、巫女の力をもって“奈落の門”の力の均衡を崩す事ができれば、“門”は力を失うという事か・・・。」

イナンナは続けた。

「シンは七惑星神に帰依した神官でしたが、神を信じるものだけを救うのではなく、全人類を救いたいと願っていました。その最終目標が、“奈落の門”の破壊だったのです。“奈落の門”さえ無ければ、人間の文明は発展すると信じていました。」

 ネルガルの頭にあるシンは、徹底して寺院を護ろうとする神官のイメージのみであった。その裏ではこのような大それた夢を持つ男だったのだ。

 そんな男を己の策謀で死に追いやってしまった。ネルガルは、テームの出現を待つマルドックと、テームの破壊を目指したシンのどちらの行動が正しいのかは分からない。ただ、どちらの人間にも最後まで思いを貫き通し、精一杯生きて欲しかった。

今更ながら、ネルガルは悔恨の念を抱いていた。

「すまない。マルドックをここへ導いたのはおれなのだ。おれは自分の仕事を完遂する為にシンとマルドックを戦わせた。人類を救おうとしていた男を、殺してしまったのだ・・・。」

 ネルガルは膝を付き、頭を垂れた。

 イナンナはネルガルの前に屈みこみ、そっと肩に手をやった。

「あなたのせいではありません。5年前、あなたがここにやってきたとき、シンと4人の神官は怯えていたのです。そして私はまだ幼かった。回復の魔法であなたの攻撃を防ぐ事だけではシンの恐怖は払拭できませんでした。だから、神官たちはあなたが二度とここに来ぬよう、呪いを掛けたのです。これはやりすぎでした。

 恐怖で人を支配する事はできません。それは神の教義にも反する事です。

 あなたの恐怖は魔法戦士に姿を変え、シンはその代償を支払ったのです。」

「いや。おれが5年前、ここに押し込まなければそれも無かったはずだ。」

 イナンナは何も応えなかった。

 ネルガルは顔を上げた。

「イナンナよ。シンは死んだがおれは生きている。お前に戦う意思があるなら、“奈落の門”を封じるというシンの遺志をおれが継いでもいい。せめてもの償いだ。」

 イナンナは目を伏せ、立ち上がった。フーレイは何か言いたそうにネルガルを見ている。

「どうした。おれでは無理か?」

「違うのです。あなたのせいではありません。」イナンナは背を向けた。「話を聞いてください。」

 

 イナンナがこの寺院に来たのは15年前の事だったという。

 そのときイナンナは3歳程度の幼子だった。シンと4人の神官はすでにこの寺院で修行を行っていた。シンの名は月神の意味である。他の4人の神官もアダト、アプスー、ナムタル、アヌという古代神の名を持っていた。

そして、イナンナは金星神の名である。

皆、誰に教えられる訳でもなく、記憶に導かれてこの寺院に集まった。

 イナンナは、3歳にしてすでに蘇生・浄化の術を身に付けていたらしい。生まれ持つその強力な魔力により、シンたちは彼女が“七惑星の巫女”であると確信したという。

 ここに集った神官たちは“七惑星の巫女”がどんな存在であるかを知っていた。そして彼女を護る為に自分たちはここに集ったのだと、イナンナの出現で悟ったという。

 彼らは当時15歳から20歳の若者だった。イナンナを護る為に彼らが出した結論は、これまでのように寺院の中で修行をするのではなく、里の人々と積極的に交流し、七惑星神を恐れ崇める存在とする。そうする事で周辺に危機が迫った場合もいち早く情報がつかめるし、神官たちの身に万が一の事態が起こっても、人々が助けてくれるだろう。

 その方が、怪しげな寺院に引きこもっているより、イナンナの将来にとってよい結果をもたらすと判断したのである。

 かくして、修行僧だったシン達は開山と称して山を下り、里の村で病気や怪我を治す活動を始めたのだ。

今から15年前の事である。

 そしてその間、イナンナは寺院の中でひっそりと修行を続けていたという。修行の成果は、彼女の成長と共に七惑星神の神託という形で顕れた。

 イナンナが10歳になる頃には、彼女は七惑星の力を物質に与える秘術を身につけていた。

 星の掛け合わせ――これこそが七惑星魔法の奥義である。しかし、その術はいつでも使える訳ではないという。

物質に星の力を与えるには惑星の動きを正確に予測し、星が最も地上に影響を与える期間に術を使う必要があるという。その期間とは、1年に数日という少なさだ。

 そして、惑星の動きを予測する為の道具――天球儀と呼ぶらしい――の設計図は、彼女の記憶にあった。天球儀の構造は複雑だった。自らの記憶から部品一つ一つを書き出し、その型を真鍮で鋳造し、彼女は何年もかけて天球儀を完成させたという。

「でも、だめなのです。」イナンナはため息混じりに言った。

 そこまでしても、物質に星の力は与えられず、これまで一度も魔導器が完成したことは無いという。

 

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