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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

(3)

 

 ネルガルは咄嗟に剣の柄に右手を置き、低く身構えた。

「戦うの?!」フーレイが叫んだ。

 5年前、ネルガルはここであの巫女の術に敗れた。しかも、戦いに敗れただけでなく、ここに二度と近づかないよう、恐怖を心に植えつけられたのだ。巫女を見ただけで身構えてしまうのも、記憶の底の恐怖が払拭できていないからだ。

 マルドックとの戦いにおいても寺院の中から強力な回復魔法を用いて盛んに神官達を蘇生していた。マルドックもこの巫女の術に苦戦したと言ってよい。

 5人の神官たちが命を懸けて護ろうとした存在――七惑星神の巫女。

 ネルガルは、ここに来た目的の一つはあの巫女に会う為だった事を思い出していた。

巫女の存在は、“空中庭園”のウィルラスから聞いた。

古代王朝の時代、巫女は七惑星神の力を代々受け継ぐ存在だったという。その力は古代語でルヒューと呼ばれ、巫女は魔術・呪術を自在に操り、死者をも甦らせる力を持っていた。

 ルヒューとは人類の祖先がディンギルから与えられた魔力だ。魔法文明が興ったのは、それに起因するらしい。

 つまり、ルヒューの力を持つ巫女の一族は、古代魔法王朝に大きな影響を与えた者達という事だろう。ネルガルは、巫女に封じられている記憶を知れば自分の存在の意味も分かるのではないか、と考えていた。

 だが、実際には巫女に会う前から薄々感じていた事もある。

『おれは、あの巫女を護る為に生まれてきたのではないだろうか。』

 ネルガルは5年前、紋章に引き寄せられるようにこの寺院にやって来た。あのときは巫女の存在は知らなかったが、シンはネルガルが来る事を知っていたような口ぶりだった。つまり、ここに集う者達は皆、一つの記憶によって集められたのではないか。

 ネルガルは身震いした。巫女を護っていた神官たちは全滅した。次は自分が死ぬまで巫女を護る運命にあるのではないか、と想像したのだ。

 巫女は、そんなネルガルをじっと見ていた。そして、呪文の詠唱を始めた。

 巫女の手に金色の光が宿った。同時に、ネルガルとフーレイの身体も同じ金色の光を放っていた。それは、先ほどの戦いで神官たちが帯びていた光と同じ色だった。

 戦いで受けた傷が癒え、体力が回復していくのが分かる。

 その後、ネルガルだけには紫色の光が宿った。その光は、ネルガルの足元から徐々に上昇し、最後に彼の頭上を越えたところで消滅した。

「何?それ?」フーレイが心配そうに声をかけた。

「呪いが解かれたんだ。おれはあの巫女に呪われていたらしい。」

紫の光が去った後、ネルガルの心にあった巫女に対する恐怖が無くなった。これは、5年前この寺院で巫女がネルガルに掛けた呪いを自らの手で解いたという事だろう。

ネルガルがすでに敵では無い事を巫女は見抜いているのだ。

ネルガルは剣から手を離した。

 それを見ていたフーレイが、さっと巫女の方に駆けていった。

「おい、待て!」

フーレイは振り向かない。ネルガルは後を追った。

「あんた、どういうつもりなの?」

フーレイは巫女に詰めより、まくし立てた。

「よせ、フーレイ!」ネルガルが後ろから叫んだ。

「兄さんを好きにはさせないよ!」

「愛しているのですね。」

巫女はぽつりと言った。

 フーレイは、その幼い声に驚いた。白いローブを着ていて、長身だった為、遠くから見ると大人びて見えたが、近くで見るとその顔にはまだ幼さが残っている。巫女は、青い目、白い肌、ブロンドの髪の美しい娘だった。

「だったらどうなのさ。」

「私は、ずっとひとりぼっちでした。あなたがうらやましい。」

 そのズレた回答に、フーレイは怒りを削がれてしまった。

ネルガルがフーレイの肩に手を置いた。「死んだ神官たちの気持ちも考えてやれ。やつらはこの巫女を命がけで護っていたのだ。」

「何よ。呪いを掛けられたり解かれたりして、黙っているの?」

「そんな事はいい。おれが悪かったのだ。」ネルガルはフーレイが落ち着いたのを見て、巫女に向き直った。「おれの名はネルガル。これは妹のフーレイ。兄妹だが血は繋がっていない。妹は同族ではないのだ。」

「私はイナンナと申します。」巫女は兄妹を見比べた。「分かります。でも、同族かどうかは、あまり関係ないのです。問題は同じ記憶を持っているかどうかなのですから。」

「同じ記憶・・・」

 ネルガルは、イリアステームの力によってマルドックと同じ記憶を共有した。もしフーレイに同じ記憶を注入したら、同族になるという事なのだろうか。

「ひとつ尋ねたい。」

「なんでしょうか。」

「おれ達一族は何の為に存在しているのか、知っているか。」

「私は、生まれながらにして七惑星神の力を授けられています。その力を発現する事で、七惑星神のご意思をこの世に広める為に存在するのです。」

「ごまかすな。それは神官の使命だろう。おれやシンは、なぜここに集い、戦ったのだ? なぜおれたちだけ、記憶に苦しめられなければならないのだ?」

「記憶に苦しめられているのは、私たちだけではありません。」イナンナは少し考えた。「人々は皆、この世に生きている限り、過去の人間の業、記憶に苦しめられています。私たちはそれに気付く事ができただけなのです。」

 ネルガルは、この宗教家独特の問答は嫌いだった。自分の頭が悪いのか、ごまかされているのか分からなくなるのだ。

 話を変えてみた。

「ではシンは、なぜおまえを命がけで護ろうとしたのだ。それは聞いているか。」

「ええ。聞いています。私はそのためにここで何年も修行しているのですから。」

「教えてくれ。どうしても知りたいのだ。」

 イナンナは、ネルガルとフーレイの瞳を一度ずつ見た。話してもいい人間かどうか確かめるように。

「シンは、私の術が“奈落の門”を封じる事のできる唯一の方法だと信じていたのです。」

 

 

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