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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)          

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

(21)

 

 洞窟の奥に、魔人の黒く巨大な背中が見えた。シャマシュがそれに対峙していたが、魔人の爪の攻撃をかわすのが精一杯のようだ。

 ラフムは水晶玉をスリング用の革ベルトに包み、慎重に魔人の背後に近づいた。

 チャンスは一度きりである。確実に水晶玉を魔人に当てられる距離まで近づく必要がある。

『いけるぞ!』

 射程圏内に入ると、ラフムは踊る心を落ち着かせ、シャマシュにそこを離れるように叫ぼうとした。

「・・・・・?」

 声が出ない。緊張しているのか、と思ったが、違った。

 足も、手も、ピクリとも動かないのだ。

 冷たい汗が首すじをつたった。

 魔人の背中に何者かの顔が浮かんでいる。

『キシャルだ・・・』

 魔人の背中のキシャルは、“わしを裏切れば、未来永劫お前はその責を負うことになる・・・。”と、言った。

 キシャルが1年前にラフムに掛けた暗示は、解けていなかったのだ。(※1)

 魔人はシャマシュに火球を浴びせた。爆発した火球の爆風で、シャマシュは吹き飛ばされた。

 そして魔人は、ゆっくりとラフムの方に振り向いた。彼を見つけると、邪悪な笑みを口元に浮かべた。

 ラフムは魔人の目が赤く輝くのを見た。それでも身体は動かない。

『ごめん、ラハム・・・』

 ラフムは死を覚悟した。

「待ちなさい!」

 ラフムの視界に、小さな人影が入った。この小柄な背中はアルカリンクウェルのものに違いなかった。

『アル!ダメだ!』この叫びも、声にならない。

「目的はあたしの魂でしょう。この子は関係ないよ!」

 魔人は目を見開き、口元の笑みはいっそう歪んだ。

「汝、まさに運命の娘! 契約に従い、その魂、貰い受ける!」

 魔人は両手を開き、前に突き出した。

 その瞬間、轟音と共にアルカリンクウェルの足元の地面が盛り上がり、爆発を起こした。

 ラフムはアルカリンクウェルの小さな体が人形のように弾き飛ばされるのを見た。

 次の瞬間、ラフム自身の身体も宙を舞い、地面に叩きつけられた。

 不思議と、痛みを感じない。

 だんだんと視界が暗くなる。

 気を失う直前、ラフムは赤い鎧を身にまとった戦士を見た。

 

 ネルガルは息を飲んだ。

「くそう! 遅かったか!」

 魔人の洞窟に入った瞬間、少年戦士が目の前に転がり込んだのだ。

 少年の手には、革ベルトが握られている。そこから小さな水晶玉が覗いていた。

 ネルガルは、咄嗟にその水晶玉を掴み、走り出した。

 後ろでフーレイが何か言ったが、聞こえないふりをした。

 魔人は、倒れたアルカリンクウェルの前で満足そうに笑みを浮かべていた。

 ネルガルは怒りに震えた。

「うおおおおおっ!」

 魔人は、ネルガルに気づき、右腕から火球を発射した。

 ネルガルは構わず突進する。いくつかの火球が身体をかすめたが、熱さすら感じなかった。

 そして、渾身の力で水晶玉を投げつけた。

 水晶玉は、魔人に向かって弧を描くように飛んでいく。

 しかし、勢いが足りない。魔人の顔の前で落下を始めた。

 魔人は、その水晶玉に向けて破壊光線を放った。

 しかしその光線は、外れた。

 なんと水晶玉は落下を止め、空中で静止したのだ。

 ネルガルは、水晶玉はフーレイが召喚した風の精霊によって支えられている事に気づいた。

 魔人がさらに光線を放つが、水晶玉はランダムに空中をさまよい、当たらない。

 そのまま、漂うように進んでいく。

 そして、魔人の鼻先まで近づき、ついに、その額に・・・。

「当たったぞ! フーレイ!」

 その瞬間、水晶玉に封じられていた永久凍土の精の力が解放された。魔人が咆哮を上げたが、もう遅い。猛吹雪が魔人を覆った。

「アル!」

 ネルガルは、猛烈な風と氷の粒で視界を遮られながらも、前進した。

 アルカリンクウェルが倒れていたのは魔人の足元だったはずだ。

 ネルガルは、そこに小さな姿を見つけると、抱き上げた。

 すでに息をしていない。

「くっそう!」

 ネルガルはアルカリンクウェルを背負うと、向きを変え、走り出した。

 洞窟の入口には、フーレイが呆然と立っていた。

「何してる! フーレイ!」

「見て、兄さん!」

 ネルガルは振り向いた。

 そこには、凍土の精によって凍結され、氷の彫像と化した魔人の姿があった。

 吹雪は止みつつある。

 氷の中に赤い光が見えた。

 あれは、溶岩の精だ。内部からの急激な溶解が、魔人の身体を粉々に破壊する最後の仕掛けである。

 しかし、ネルガルはその光が小さくなっていき、魔人の腹に飲み込まれるように消えて無くなるのを見た。

「どういう事だ、あれは?」

「もしかして、」フーレイは自分自身に語るように言った。「あの溶岩の精は、魔人と同じ暗黒界に属する存在だから・・・」

「効果が無かったのか。」(※2)

 ネルガルは、フーレイの傍らに寝かされている少年を見た。

「ラフムは大丈夫。気を失っているけど息はある。」フーレイはネルガルが背負う小柄なハーフエルフを見た。「その娘は?」

「死んでいる。だが、」ネルガルは言葉を絞り出すように言った。

「まだ望みはある。おれたちには、“七惑星の巫女”がいるのだ。」

 

 

※1 第一章(12)参照。

※2 天井で発生した一個目の水晶玉の爆発の後、熱風と溶岩が階下に居た魔人に吸い取られたのも、同じ理由である。第四章(16)参照。

 

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