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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

(20)

 

 シャマシュは、夢を見ていた。

 ここは、懐かしい我が家の自室だ。ドアを開けて外に出ると、花が咲き乱れるテラスで、妻と娘が何か話し込んでいる。

 シャマシュが何をしているのか、と尋ねると、二人は顔を見合わせ、くすくすと笑った。

『そうだ、あのとき・・・』

 シャマシュはある事に気づいたのだ。それは何だったか・・・。

 景色は変わり、彼は君主に謁見していた。

 玉座に居るのはかつて仕えたリドン公、ゴードン三世である。

 ゴードン三世は何かをシャマシュに話しかけた。

『このときも・・・・』

 シャマシュは何かを思い出そうとしていた。いや、思い出さなければならないと感じていた。記憶の底にある何かを、感じた瞬間だったのだ。

 

 シャマシュは、暗闇の中で目を覚ました。

「大丈夫? 怪我は?」

 暗闇の中から女の声がする。

「アルか?」

「そうだよ。あ、見えないのね?」

 チッ、という小さな音の後、青白い明かりがアルカリンクウェルの姿を照らした。

「ここは、どこだ?」

 シャマシュは、そう言いながら思い出した。ここは魔人の洞窟のクレバスの底だ。

「あたしが洞窟に入ったときにはもう、あなたの戦いは終わっていたの。作戦は失敗ね。」

 アルカリンクウェルの口ぶりには感情が何も含まれていない。エルフの血なのだろう。

「そうだな。私は役目を果たせなかった。」

「それだけじゃない。天井で大きな爆発があったの。あっちも上手くいかなかったようね。」

「何があったのだ?」

「分からない。分かっているのは、魔人はまだ健在という事。」

 失敗という結果だけが確かな事か、とシャマシュは理解した。

 彼は立ち上がり、身体に大きな怪我が無い事を確認した。ここは深いクレバスだったが、彼が墜ちた時にはまだ神の加護はかすかに残っていたのだ。

「ここから出られそうか?」

「深いよ。だいぶ探したもの。でもあたしが降りてきたロープがあるから大丈夫。」

 ふと、シャマシュは思い出した。

「・・・父に会ったか?」

 アルカリンクウェルはかぶりを振った。シャマシュはそれ以上聞かなかった。

「私を助けに来てくれたのだな。すまぬ。」

「いいの、これはあたしの為でもあるのだから。」

「・・・どういう意味だ?」

「あたしは自分の手で魔人を斃したいの。秘策がある。」

「ならぬ。すぐに脱出するのだ。」

「じゃ、あなたはどうするつもりなの?」

 シャマシュは沈黙した。彼もまた、最後の戦いを挑むつもりだったのだ。

 しかし、勝算は無い。勝ち目の無い戦いになぜ挑むのか?

『そうか、それが記憶の底にあるモノの正体だ・・・。』

 夢に出てきた場面は、命を懸けてでも護るべきモノがあると心に刻んだ瞬間の記憶だった。彼らを護る為なら、たとえ勝ち目のない戦いであっても、シャマシュは立ち向かっただろう。

 しかし、それらを奪ったのは疫病や権力争いだった。シャマシュは戦う術を持たず、全てを失った。

 それからずっと、残ったのは無力感のみと思っていた。しかし、そうではなかったのだ。シャマシュの記憶の底には、命を懸けてでも戦うべきである、という意思、使命感が生きていたのだ。

 この意思はどこから来たのか。遠い祖先が我々に与えた使命ではないのだろうか。

 マルドックの血を引くアルカリンクウェルもまた、それを持っているのかも知れない。

 

 クレバスは深かった。その深さ故、魔人の結界の力は及んでいなかった。

 シャマシュは全身全霊の力で、神に祈りをささげた。ペトス神の力は二人の身体に宿った。 

 アルカリンクウェルの秘策とは、策といえるほど巧妙なものではなかった。シャマシュが囮となって魔人に戦いを挑み、アルカリンクウェルは背後から心理攻撃を仕掛けるというものである。

 ただ、通常の心理攻撃で魔人が斃せるとは思えない。アルカリンクウェルは、一時的に魔力を倍増するエルフの秘薬を使うという。

 その秘薬を服用した後、至近距離からの心理攻撃に懸けるというのだ。

 シャマシュは、その攻撃で魔人が斃れなかったらすぐに逃げる事を約束させ、アルカリンクウェルの申し出に応じた。

 

 シャマシュはロープを上り、再び魔人の洞窟に到着すると、周囲を見回した。

 魔人は、洞窟の入口付近に居た。なぜか前よりも力を増したようだ。赤黒いオーラを全身から発し、むやみに吠えている。

 先に上がっていたアルカリンクウェルがそっと魔人の背後の岩陰に隠れたのを確認すると、シャマシュは走った。

 魔人は彼の接近を知ったが、もう遅い。先制攻撃はシャマシュである。

 十分に接近し、魔人の左脛に長剣を叩き込んだ。

 神の力が、長剣の刃から発せられ、青白い光がスパークする。

 ここまで接近すれば、火球や熱線などの飛び道具は使えない。魔人は両手でシャマシュを挟み込んだ。

 魔人の爪がシャマシュの鎧に食い込む。今はまだシャマシュの身体は金色の光で護られていたが、耐え得る限界が来るのも時間の問題だった。

 アルカリンクウェルが魔人の背後に近づくのが見えた。心理攻撃を仕掛けたようだ。

 魔人の爪の力が少し弱まった。心理攻撃は、確かにダメージを与えたのだ。

 しかし、それだけだった。

 魔人は斃れない。そればかりか、シャマシュから手を放し、後ろを振り向こうとしている。

『アル! 逃げろ!』

 シャマシュは視線で訴えかけた。魔人の動きを抑える為、魔人の右膝に長剣の一撃を与えた。

 アルカリンクウェルは視界から消えた。

『そうだ。それでよい。』

 あとは、私が、始末する。

 

 ラフムが魔人の洞窟に到着したのはこのときだった。

 

 

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