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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

(2)

 

 マルドックは自分を斃す事もできたはずだ、とネルガルは想う。

 しかし、それをしなかった。なぜか。

 その理由を、ネルガルは知っていた。

 それは、マルドックが二つの願いをネルガルに託したからだった。

 

その一つは、マルドックが調べ上げた同族――古代神の名を持つ者――の存在理由についての調査結果と彼の推論を、ヌディンムトに伝えて欲しいという事だった。

 “奈落の門”と呼ばれる魔法の重力場は“最後の王”が姿を隠したとされるテームの事であり、“王”はテームで生存している。その証拠に、我々の同族は必ず“奈落の門”が出現した年に現れ、明らかに“最後の王”しか知りえない記憶を引き継いでいる。

その記憶は我々の潜在意識の中に封じられており、突然行動に表れる。知覚出来ない潜在意識の中を覗く事ができれば、謎が解けるかもしれない。

テームは、人口が1万3千人を超え、周囲を魔法結界で囲まれた都市に出現する。そして、町の全てを飲み込み、後には何も残らない。これは、“最後の王”が目指し、挫折した“永遠の王国”の建設を、今に甦らせる為の布石ではないか、とマルドックは考えている。

しかし、まだ全ての謎が解けたわけではない。

テームは強力な重力場である。全ての物質は吸収され、生身の人間はその力に耐え切れず、肉体は粉砕されると言われている。“最後の王”は、テームの中でどのように存在しているのか。

また古代の魔法使いであったイリアスの亡霊は、王朝全盛期の魔法をもってしても神の領域である、“人の生命”は創り出せなかったと語った。では、我々はテームでどのように製造されたのか。

マルドックは不老の肉体を持っていながら、近付く死期を感じていた。それは、肉体の死ではなく、精神の破綻である。彼の残り時間は少なかった。

だからマルドックは、自分とヌディンムトの調査を融合すれば、謎の答えが得られるかもしれない、という可能性に懸けたのだ。

 その為に自らの記憶を“イリアステームの杖”に封じ、ネルガルに託した。そして、ネルガルの心には、その杖をヌディンムトに渡し、彼の思いを伝えて欲しいという願いが伝達されていた。

 

もう一つの願いは、マルドックの娘、アルカリンクウェルの事だった。

マルドックは、娘の魂を魔人に売り渡した事を心底、後悔していた。

アルカリンクウェルは、ヌディンムトとシャマシュに魔人が棲む洞窟の場所を聞き、彼らと共に旅に出ただろう。マルドックは、魔人の陣営にいながらその戦いでアルカリンクウェルが魔人を倒すことを願っていた。それを果たせば、マルドックと魔人の契約は破棄され、娘の死後の魂は解放される。

その願いは矛盾を孕んでいる。アルカリンクウェルが契約を破棄した暁には、マルドックには死が訪れるだろう。しかし彼は、それまでに成すべき事を達成すればそれでよい、と考えているようだった。その“成すべき事”が具体的に何を指すのかはネルガルに伝達されていない。マルドックが残りの人生をそれに懸けるつもりである事は間違いないであろう。

マルドックは“イリアステームの杖”の力で、ネルガルのアルカリンクウェルに対する思いを知った。だから、ネルガルにはアルカリンクウェルの戦いに参加し、娘を護って欲しいと願ったのだ。

マルドックはまた、カル・サーデュを操る方法(指サイン)と魔人の棲む洞窟の場所をネルガルの記憶に注入していた。これは、魔人の洞窟に向かったアルカリンクウェルの元へネルガルがすぐにでも飛んで行けるようにする為の配慮である。

 

ネルガルの気持ちは、マルドックの思いに応えようとしていた。

 この戦いに赴くという事は、騎士の戦いに足を踏み入れる事を意味している。それは、リドンでヌディンムトから懇願された戦いへの参加と結果的に同じである。

 なぜ、ヌディンムトの依頼は断り、マルドックの願いは聞き入れるのか。

その違いは、“イリアステームの杖”にあった。

ヌディンムトは、リドンの町の酒場で言葉を使ってネルガルを説得しようとした。ヌディンムトの思いは、言葉として耳に入り、ネルガルの心に届く前に、主観というフィルターを通される。ネルガルの主観は、ヌディンムトの言葉を変形させ、心に到着する頃にはその思いは破壊されているのだ。

それに対してマルドックは、“イリアステームの杖”の力、すなわち“記憶の魔法”で直接ネルガルに思いを注入した。この方法なら、マルドックの願いはネルガルの心に直接響く。

その願いが真摯なものであれば、人間の心は動くのだ。

これが、“イリアステームの杖”の真の力なのかもしれない、とネルガルは思った。

 

「兄さん・・・。」フーレイが物思いに耽るネルガルの背に手を置いた。

「・・・おれはあの鷹に乗り、戦いに出る。」ネルガルは呟くように言った。

「あたしも行くよ。」

「いいや。これは賞金稼ぎの戦いじゃないんだ。」

「分かってるよ、兄さんの宿命なんでしょ。だから付いていきたいんだよ!」フーレイは目を潤ませている。「だって、また命を投げ出されちゃ、こっちはたまったもんじゃないよ。」

 “また”というのは、エンリルという男の行動の事を指しているのだろう。

 ネルガルは、フーレイからアリア-サンの賞金稼ぎエンリルの話を聞いていた。その男も、ネルガルと同じ古代神の名を持つ同族だったという。エンリルは、マルドック配下の魔法使いを道連れに爆死したのだ。

「おまえ、エンリルとは深い仲だったのか?」

「そんなんじゃないよ。」フーレイはため息をついた。「今思えば、どこか兄さんに似てただけ。同族って聞いて、理由は何となく分かったよ。」

「・・・。」ネルガルはまた黙り込んだ。

これから赴こうとしている戦いは、魔人の討伐である。下級の悪魔といっても人間の能力を遥かに凌駕した存在だ。いったい魔人がどれだけの力をもっているか、ネルガルにも分からなかった。そんな戦いに古代民族とは無関係のフーレイを巻き込む訳にはいかない。

「ちょっと、兄さん。」

「もうこの話は終わりだ。」

「違うの。あれ・・」

ネルガルはフーレイを見た。

彼女の視線の先には、白いローブを着た一人の巫女が立っていた。 

  

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