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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

(19)

 

 ラハムは身をかがめ、マルドックの剣をぎりぎりでかわした。そのまま細身の剣に全体重をかけ、体当たりのように敵の心臓を狙った。

 力の強い相手と戦う為の捨て身の一撃である。

 だが、敵は上手だった。マルドックは間一髪で剣先を避け、肘から先を失った左の脇でラハムの腕を抱え込んだのだ。

 そのままラハムの身体を軽々と振り払った。バランスを崩し、背中を向けたラハムをマルドックは袈裟切りにした。

 魔力を帯びた剣先は、ラハムのなめし革の鎧に触れると炎を吹き、若い身体を深々と切り裂いた。革と肉の焦げる匂いは、致命的なダメージを負わせた証拠だ。マルドックはラハムに止めを刺す必要かどうか見極める為、しばし静止した。

 しかし、ラハムは斃れなかった。さっと振り向くと細身の剣を構え、再び敵に向かったのだ。

 ヌディンムトは、ラハムの身体が金色の光に包まれ、傷は回復しているのを見た。何らかの神憑り的な力が働いていると直感した。

 マルドックは剣先から火球を発生させ、ラハムにぶつけた。小柄なラハムの身体は弾き飛ばされ、迷宮の壁に激突した。それでも金色の光は消えることなく、ラハムを護っている。

 ヌディンムトはラハムの無事を確認すると、改めて左腕の腕輪をなぞり、呪文を唱えた。

「亡国の騎士よ、今こそ契約を果たすのだ!」

 ヌディンムトの目の前に白い煙のようなものが立ち上り、その中から騎士の鎧を身にまとい、顎に長い髭を生やした亡霊が出現した。

 ラハムは起き上がりざま、その亡霊の姿を見た。

 この亡霊はラフムとラハムの剣の師、アルベルト-レンドルである。(※1)

「最後の戦い、お見せいたす。」レンドルは長剣を構えた。

 マルドックは振り向き、この新たな敵を確認した。ヌディンムトには、そのときマルドックが少したじろいだように見えた。狂戦士であっても亡霊に恐怖を感じるのであろうか。

 マルドックは無数の火球をレンドルに向け発射した。

 亡霊の騎士は長剣を躍らせ、火球を弾き飛ばしながら風のように間合いを詰める。

 マルドックは幅広の剣を突き出した。

 レンドルはその剣筋を見切っていた。長剣を幅広の剣の下に這わせるように滑り込ませ、胴を抜いた。

 マルドックは絶叫し、身体を翻して上段からレンドルを斬りつける。

 一瞬の後、勝負は決した。

 マルドックの幅広の剣を持った腕は、ぼとりと地に落ちた。

 さらに、レンドルの剣は正面からマルドックの胸部を貫いていた。

 マルドックはゆっくりと、うつ伏せに斃れた。どす黒い血が、静かに広がっていく。

「レンドル卿!」

 ラハムは、師の下へ駆け寄った。

 レンドルは、視線をゆっくりと上げた。

「ラハムよ、逞しくなった。最後に会えて、わしは嬉しいぞ。」

 ラハムは近くに来たもう一人の師匠、ヌディンムトの顔を見た。

「そう、ここでレンドル卿とは別れだ。わしはかつて古戦場の遺跡で昇天できずにいた騎士の魂を見つけ、この世での思いを遂げさせる代わりに、わしの支配下に入るという契約を結んだのだ。

 あれから長い年月が経ち、今日、その契約は果たされた。強い剣士と一対一の勝負をする事がレンドル卿の最後の望みだったのだ。」

「それだけではない。」レンドルは静かに言った。「わしはラフムとラハムという二人の剣の弟子に騎士の心を伝える事ができた。それは、わし自身でも気づかなかった、この世に残した想いであった。

 ヌディンムトよ、感謝する。もう思い残すことは何も無い。さらばだ。」

「レンドル卿!」

 亡霊の騎士の姿は、空気に溶け込むように消えていった。

 

「さて、」ヌディンムトはラハムに向いた。「お前を護っていた者がおるだろう?」

「あ、そうです。」ラハムは振り向いた。「もう出てきていいよ!」

 洞窟の陰から、白い神官服を身にまとった若い娘が姿を現した。

「この人はイナンナ。“七惑星の巫女”です。」

 ラハムはヌディンムトにイナンナに出会った経緯を説明しようとしたが、イナンナが険しい表情をしていたので驚いた。

「どうしたの?」

「気づきませんか。あれは異形の者です。」

 イナンナの視線の先には、両腕をもぎ取られ、倒れ伏したマルドックがいた。

「どういうことだ?」ヌディンムトは聞いた。

「私はマルドック殿を見たことがあります。それは、あの者ではありません。」

「残念だが、確かにあれはわしの知っているマルドックではない。悪魔に心を冒され、狂戦士と化してしまったのだ。」

「いいえ。そういう意味ではありません。別人なのです。」

 すると、死んだと思われていたマルドックが顔を上げた。

「ケケケケ・・・今頃気付きおった・・・ケケケ・・・」

「貴様、何者だ!」ヌディンムトは叫んだ。

「・・・わしの名は、エヌルタ・・・すでに役目を終えた・・・」

 その身体は黒く変色し、ボロボロの皮膚を持つ異形の姿が現れた。

「このままでは死なさんぞ!」

 ヌディンムトは弱体魔法の呪文を唱えた。

 自ら死の淵へ向かっていたエヌルタは、弱体魔法に屈し、苦しみながら生き続けた。

「さあ、話すのだ! 貴様は何者だ! ここで何をしておった!」

「グググ・・・わしは、マルドック様に拾われた、同族・・・。わ、わしは・・・マルドック様へ永遠に尽くす為・・・一度死に、ドッペゲンガーとして生まれ変わった・・・」

 ドッペルゲンガーとは、どんな人間にでも生き写しのように肉体を変化させることができるといわれる伝説の怪物である。

「お前はマルドックに化けておったのか?」

「ケケケケケ・・その通り・・わしの勝ちじゃ・・・・・グググ、グェッ!」

 ヌディンムトは弱体魔法の強制力を強めた。「余計な事は言うな! ここで何をしておったのじゃ!」

「・・・・ケケケケ・・・さらばじゃ・・・・」

 エヌルタの身体は腐臭を発し、溶け始めた。

 イナンナは、背負っていた木の杖をさっと取り出し、エヌルタに向けた。

 “イリアステーム”である。

 ネルガルから聞いていた呪文を唱えると、杖の先端が光り始める。

 エヌルタの身体が溶け、完全に失われたとき、杖の光も消えた。

「この者の記憶は杖に封じられました。」

 イナンナは、今度は杖の先端をヌディンムトに向けた。

 ヌディンムトはそれがどういう意味かを悟った。

 記憶を受け入れる為、緊張をとき、目を閉じる。

 エヌルタが死ぬまで口にしなかった、彼がこの迷宮に居た理由がヌディンムトの頭脳に流れ込んだ。

「な、なんだと!」

 

※1 第一章(4)参照。

 

 

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