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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

(18)

 

 ラハムは気ばかり焦っており、その言動には意味不明なところもあったが、とにかく双子の兄であるラフムを追い、力になって欲しいという思いを訴えていた事は確かだった。

 そのラフムの目的地は魔人の棲む洞窟である。それはまさにネルガルが目指していた場所でもあった。

 ネルガルは、マルドックから注入された記憶を頼りに、この迷宮にやってきた。

 マルドックの記憶にあった魔人の洞窟への道は、ヌディンムト達の通った通路とは別のルートだった。

 それは、40年前、マルドックとヌディンムト達が魔人の洞窟で袂を分かち、別々の道を歩み始めたことに由来する。マルドックは、魔人との邂逅の後、別の通路を探し出していたのだ。

 しかし、迷宮は40年の間にダークストーカーによる掘削が行われたせいか、記憶は奥に進むほど曖昧になり、ネルガルはついに道を失った。

 じっくりと迷宮の構造を調査するほどの余裕は無かった。どうしたものかと思案していたとき、2頭のジャイアント・リザードに遭遇した。その1頭を倒したとき、ネルガルはこの生き物はかつて、魔人の洞窟を守っていたダークストーカーの家畜であった事に気付いた。(※1)

 そこで、残りの1頭を逃がし、後をつける事で迷宮の最深部を目指す事にしたのだ。

 その計画は思わぬ形で達成された。ラハムと出会い、魔人の洞窟への道を聞き出す事ができたのである。

「よし分かった。おれとフーレイはラフムを追う。イナンナは、このラハムと一緒に行くのだ。」

「でもこの娘、迷宮探索は初めてだよ。」フーレイが言った。

「いや、イナンナの神聖魔法があるに越した事はないが、洞窟にはシャマシュもいるらしい。おれは前に旅した事があるから知っているが、あの親父も神聖魔法の使い手だ。

 ヌディンムトが怪我を負っている可能性を考えると、イナンナはラハムについて行った方がいい。」

 これは、イナンナの経験不足を気遣ったフーレイの意見への答えになっていない。

 ネルガルの本心は、イナンナを魔人との戦いに参加させたくなかったのである。

 ネルガルは一族の記憶を結集するためにイナンナをここまで同行させたが、内心いつこの戦いから引き離そうかと考えていたのだ。

 魔人との戦いでは全滅する恐れがあるからである。“七惑星の巫女”であるイナンナだけは、このリスクを避け、生存させなければならないという責任を感じていた。

 ラハムの話によると、ヌディンムトはマルドックに襲われた可能性が高いという。ラハムとイナンナがその戦いに追いついたとしても、これだけ時間が経過してしまっては、すでに戦いは決着しているか、膠着状態であろう。

 たとえヌディンムトが斃され、マルドックが生き残っていたとしても、イナンナに危害は加えまい、とネルガルは読んでいた。

 なぜなら、マルドックはイナンナが住んでいた寺院に押し込んだが、それはイナンナを殺すために訪れた訳ではないからだ。彼はただ、ティアマトの復活を望んでいただけである。

「これをヌディンムトに届けてくれ。」

ネルガルは、“イリアステームの杖”をイナンナに託した。

「分かりました。」イナンナが静かに言った。

 

 ネルガルの予想は、半分当たっていた。

 このとき、ヌディンムトとマルドックの戦いは膠着状態に陥っていたのだ。

 物語は少し時間を遡る。

 水晶玉から溶岩の精の力が解放されたとき、ヌディンムトは死を覚悟した。真っ赤に焼けた無数の岩の塊が、迷宮を埋め尽くしたのだ。

 しかし、彼は生きていた。不思議な事に溶岩と熱風は力を失ったのだ。

 ヌディンムトはマジック・シールドの陰で、どろどろの溶岩が床の裂け目に吸い込まれ、最後には冷えて固まり、裂け目を塞ぐのを見届けた。

 裂け目の下には魔人が居たはずである。溶岩の精の力は、そこに吸い取られるように消えていったのだ。

『わしは、大きな間違いを犯していたのかもしれない・・・』

 しかし、その事について検証している時間は無かった。

 マルドックもまた、生きていたのである。

 溶岩の直撃を受けたのか、マルドックは左腕を肘の付け根から失っていた。それでもなお、残った右腕一本で幅広の剣を構え、ヌディンムトに襲い掛かってきた。

 左腕から大量の出血をしながら剣を振り回すその姿は、血を見ると痛みすら感じなくなり、死ぬまで攻撃を続けるといわれる狂戦士を連想させるものであった。

『いや、狂戦士そのものだ!』

 この迷宮で最初に遭遇したときから薄々感じてはいたが、マルドックはついに悪魔に心を冒され、発狂してしまったのだ。

 その事実にヌディンムトの心は痛んだ。しかし、心を鬼にしてこの狂戦士に対処しなければ、自身が殺されてしまう状況だった。

 ヌディンムトは、杖の先端に張られたマジック・シールドでマルドックの繰り出す剣をかわしながら、迷宮の奥へ退避を開始した。

 マルドックの左腕からの出血は止まっておらず、血を床に点々と滴らせながら追ってくる。このまま退避を続ければ、いくら不老の力を得た人間とはいえ、自滅するだろうと考えた。

 しかし、その策は裏目に出た。

 ヌディンムトが何度目かに選択した別れ道の先は、袋小路だったのだ。

 まだマルドックは姿を見せていない。今のうちに対策する必要がある。

 ヌディンムトは息を整えると、左腕に付けられた腕輪をさすりながら呪文を唱えた。

「・・・・?」

 声が出ない。息が上がっているのかと思ったが、違った。異様に高い声になっているのだ。これは、マルドックの大気変質の術だった。この魔法を使うとマルドックも呪文が禁止されるが、魔法使いと魔法戦士の戦いにおいては剣の使い手の方が有利であろう。

 ヌディンムトは、別の手を打つ必要に迫られた。

 手に持つ杖の先端からは、度重なる攻撃で力が弱くなっているものの、見えない壁であるマジック・シールドが依然として効力を発揮している。 マジック・シールドは、術者の精神力を具現化したもので、いわゆる念力によって防御力と持続時間が決定される。念力なら呪文を必要としない。

 ヌディンムトは両手で杖を持ち、精神を集中した。

 マルドックが姿を現したときには、マジック・シールドは薄紫の光を発する障壁として立ちはだかっていた。マルドックが何度か剣を振るったが、その壁の破壊はできなかった。

 

 こうして、ヌディンムトとマルドックの戦いは両者が睨み合う膠着した状態に陥ったのである。

『マルドックの魔法効力が切れるのが先か、わしの精神力が途絶えるのが先か・・・』

 時間は静かに経過していく。

 永遠に続くとも感じられたその沈黙は、突然打ち破られた。

「!」

 突然、大気変質の術が解かれた。マルドックの集中力が途切れたのだ。

「師匠!」

 通路に走り込んできたのは、ラハムだった。細身の剣を抜き、マルドックに向かっている。

「来るな! ラハム!」

 ヌディンムトは叫んだが、それより早く、マルドックの剣は振り向きざま一閃した。

 

 

※1 この事は40年前のマルドックの記憶に刻まれていた為に、ネルガルが思い出したように感じたのだ。

 

 

 

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