Salvador'sCabintrival_dragon_red.gif

 

はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

→Home    →小説    →作者について    →写真館    →リンク

小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

(16)

 

 ヌディンムトは、階下からの地響きのような咆哮を聞き、思わず立ち上がった。

 計画ではアルカリンクウェルが階下の動向――つまりシャマシュが首尾よく洞窟に入ったかどうか――を知らせに来る手はずとなっていたが、彼女はまだ来ない。

 ただ、魔人の咆哮は洞窟で闘いが始まった事を意味していた。

 厳密には魔人の相手がシャマシュかどうかは分からないが、状況から、九分九厘間違いはないだろう。

 そう判断すると、ヌディンムトは杖を左手に持ち替え、懐から小さなワンドを取り出した。

呪文を唱えながらワンドを一振りすると、その先端から小さな灰色の煙が発生した。その煙は渦を巻きながら集まっていき、小さな翼を持つ小悪魔を形作った。インプである。

 ヌディンムトは、今は迷宮の壁と同化しているゴーレムに一言呟いた。

 間もなく壁が波打ち、ゴーレムの腕が突き出て、開いた手のひらには一つの水晶玉があった。これは、氷の精と溶岩の精が同居する、魔人討伐の切り札である。

 インプはくるくると回りながらゴーレムの手に近づき、水晶玉を両手で掴むと、ゆっくりと持ち上げ、飛び立った。ゴーレムの腕は再び壁の中に戻っていった。

 ヌディンムトは、インプに空中で待機するように指示すると、今度は赤い宝石がはめこまれた指輪をさすりながら、長い呪文を唱えた。

 赤い宝石から妖しい光が放たれ、2体のジャイアントが召喚された。

 ジャイアントは頭が天井に届きそうな上背である。インプはジャイアントの頭に当たりそうになり、くるくると飛び回った。

 ヌディンムトは、すぐさま酸で脆くなった床の破壊を指示した。

 ジャイアント達はのっそりと歩き出し、岩盤の上で跳ねた。

 ズシン、ズシンと振動が迷宮に響き渡る。

しばらくの間、それを繰り返すと、ミシミシ、バリバリという軋む音がヌディンムトの耳に入った。

 ヌディンムトは、ジャイアントに跳ねるのをやめさせ、拳を使うように命じた。

 巨人たちは指示に従い、床にパンチを浴びせた。すると、床に亀裂が入り、ジャイアントの拳が床にめり込んだ。

 そこにさらに激しく拳の雨を降らせると、ガラガラという音と共に岩盤が崩れ、大人が一人入れそうな隙間ができた。

「おお、でかした。」

 ヌディンムトは思わず声を出し、隙間から中を覗き込むジャイアントに近づいた。

 その時。

 隙間から赤い光線が掃射され、ジャイアントの顔面を撃ちぬいた。

 光線は一瞬でジャイアントの頭部を焼き、天井に達した。彼は岩盤の裂け目に覆いかぶさり、ドスンと転がった。

「ムッ!」ヌディンムトは足を止めた。

 ジャイアントの身体は赤みを帯び、次の瞬間、バラバラに粉砕した。続いて、裂け目からは無数の火球が噴出した。

 たちまち迷宮は火の海と化した。通路の前後にゴーレムの障壁を形成していたため、すぐに煙が充満する。

「いかん!」

 ヌディンムトはすぐさま通路を塞ぐ2体のゴーレムを人型の姿に戻らせ、いまだに火球が止まらない岩盤の裂け目を塞ぐように命じた。

 残った1体のジャイアントには消火活動を命じた。彼は巨大な手でバンバンと火を消す。

 ゴーレム達は自らの身体を変形させ、岩盤の裂け目に覆いかぶさった。彼らの石の身体は火球を防いでいるようだ。

 しかし、ゴーレムの身体は破壊光線には耐えられなかった。

先ほどジャイアントを一撃で斃した赤い光線が再び掃射されると、ゴーレム達の身体は粉砕され、石の礫になってバラバラに飛び散った。

 ヌディンムトは、この下に魔人が居る、と直感した。

 何者かが、この場所に引き込んだのだ。

『シャマシュか? もしや・・・』

 見上げると、インプは天井付近で右往左往している。その手にはまだ水晶玉があった。

 ピンチではあるが、チャンスでもある、とヌディンムトは考えた。

 断続的に火球は隙間から上がってくるが、火球の嵐が過ぎ去った瞬間にタイミングよくインプを滑り込ませれば、魔人に水晶玉をぶつける事ができるかもしれない。

 ヌディンムトは、ワンドを振るい、インプに進むべき道を示した。

 インプは小さな翼をパタパタさせながら、慎重に裂け目の付近に降りていき、主人の指示を待った。

 充満する煙で視界が悪くなっている。降りかかる火の粉を払いながら、ヌディンムトはワンドを構え、次の火球を待った。

 そのとき、インプの横に一本の光の柱が出現した。これは、ダークストーカーがよく使う、瞬間移動の魔法陣である。

「この忙しいときに!」

 ヌディンムトは、インプに上昇するよう指示し、自身は少し距離を取った。

光の中から敵が姿を現した。しかし、それはダークストーカーの赤いローブではなかった。

 出現したのは紫紺の鎧の魔法戦士である。

「ぬうっ! マルドックか!」

 ヌディンムトの悪い予感の通り、魔人を引き込んだのはマルドックだったのだ。

マルドックは呪文を唱え始めた。左手に雷のような閃光が宿る。

ヌディンムトは杖を構え、マジック・シールド(※1)を張った。

 しかし、攻撃の的はヌディンムトではなかった。マルドックは天井に向かって雷撃を放ったのだ。

 魔法の閃光は迷宮の天井付近に待機していたインプに命中した。

 インプは黒こげになり、床に落下した。

水晶玉がマルドックの足元に転がる。

「い、いかん!」

 ヌディンムトは、後ろに居たジャイアントにマルドックへの攻撃を指示した。

 しかし、それより早く、マルドックの幅広の剣は水晶玉を叩き割った。

 水晶玉から青い光と共に、吹雪が噴出した。

 氷の精の力が解放されたのだ。マルドックに向かおうとしていたジャイアントは一瞬にして凍結された。さらに床から天井まで、水分を含んだ迷宮の壁を這うように氷が広がっていく。

 ヌディンムトはマジック・シールドの陰で氷点下の風を何とか凌いだ。マルドックの姿は猛吹雪で見えない。

 破壊された水晶玉は氷の下に沈んでいた。そこが徐々に赤い色を帯び始めた。

仕掛けを作ったヌディンムトは知っている。次に解放されるのは、溶岩の精だ。

 だが、ヌディンムトは意外に落ち着いていた。彼の心には、

『マルドック共々、死ぬのなら・・・』

という思いがあったのだ。

 成長した溶岩は凍結した床を山のように盛り上げ、赤い光を放って噴火した。

 周囲の氷は一瞬にして蒸発し、迷宮は高温の水蒸気と真っ赤に焼けた溶岩で満たされた。

 

 

※1 人ひとり分を護る魔法の障壁。

 

 

 

→NEXT