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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

(15)

 

『二人とも、十分な働きだ。』

 シャマシュは心の中でラフムとラハムをねぎらった。

 少年戦士達は、5人のダークストーカーと1頭のジャイアント・リザードを引き連れて、洞窟の奥へ消えた。残っているのは、3人のダークストーカーとジャイアント・リザードが1頭だった。

 シャマシュは隠れていた岩陰から出た。一寸の後、ダークストーカー達の断末魔の悲鳴が洞窟に轟いた。

 ラフムが逃走前に放った煙幕の中にいたはずのジャイアント・リザードを斃す必要はなかった。主人を失い、どこかへ走り去ったようだ。

 

 シャマシュは魔人の洞窟に向かった。

 洞窟の先は、悪魔の領域である。

 暗い通路で、シャマシュは長い祈りの歌を詠唱した。

 彼の身体に金色の光が宿る。さらに、彼の長剣の刃は青白く輝き始めた。

 ペトス神は信仰に応え、彼に神聖な力を与えたのだ。

 今のシャマシュには、悪魔の力を無効にする力が宿っている。さらに彼の長剣には通常の武器では貫く事のできない魔人の皮膚を突き破る攻撃力が備わっていた。

 洞窟を抜けると、巨大なホール状の部屋に出た。

その部屋の中央にはダークストーカーが造った祭壇が設置され、祭壇の上には何かの生き物の内臓のようなものが供物として捧げられていた。

 そして、その祭壇の向こうには巨大な鍾乳石の柱があり、その柱の根元に腰かける姿で、40年前と変わらず・・・奴は居た。

 シャマシュの3倍はある背丈、暗闇と同化する真っ黒な身体、醜悪な顔に曲がりくねった2本の角、そして、通常の人間なら見ただけで発狂する赤い二つの目。

 魔人はここから動く必要はないのだ。妬み、謗り、憎しみ、悪徳など、ありとあらゆる邪悪な感情は、ここから発信されていた。シャマシュ達が生まれる何千年も前から、魔人は地上を呪い、悪を振りまいていたのだ。

 シャマシュは40年前のあのとき、なぜ魔人と戦わなかったかと考えていた。

 世界を救うなどという奢った考えからではない。おそらく同種の悪魔は世界中の地下に潜んでいる事だろう。下級の悪魔を一人斃したとしても、邪悪はこの世から消滅しない事は理解している。

 しかし、それでも、戦うべきだったと思う。

 魔人と戦っていたら、死んでいたかもしれない。しかし、あのときここで死んでいたら、娘を失い、さらに悲しみに暮れる妻をも失う経験も無かった。さらに、娘の魂の行方について、深い心労を背負う事も無かったのだ。

シャマシュの人生の大半を占める苦しみは、あのとき魔人との戦いを避けた事に起因する、と考えていた。

 だから、今こそシャマシュは人生を懸け、魔人に戦いを挑むのだ。

 シャマシュが足を止めると、魔人と向き合った。

 魔人は低い、地面が震えるような声で話しかけた。

「死すべき定めの者よ・・・老いたのう。・・・汝の友はわしと同じ永遠の命を得た・・・。口惜しかろうな。」

「言うな、邪悪なるものよ。」

 シャマシュの声もまた、洞窟に響き渡った。そして、彼は剣を抜いた。

 剣の青白い光が洞窟を照らす。魔人は、それが闇と敵対する勢力から得た力である事を理解したようだ。

「愚かな・・・、そのような物でこのわしを斃せるとでも思っておるのかあああぁ!!」

 魔人は立ち上がりざま、二つの拳で祭壇をシャマシュに向けてなぎ倒した。

 シャマシュが長剣を振るうと、青白い光が祭壇と邪悪な供物を一瞬にして焼き消した。

 魔人は両手から火球を発射した。シャマシュはそれに構わず突進する。

 火球はシャマシュの身体に当たったが、彼を包む金色の光は火球を弾き飛ばした。

 シャマシュは魔人に向かって剣を薙いだ。

 長剣から青白い閃光が発射され、鞭のように魔人の身体に巻き付いた。光る鞭は魔人の身体を焼き、皮膚に食い込んだ。

 魔人は苦悶の声を上げ、目を大きく見開いた。

 二つの赤い目から、熱線が放たれた。

 シャマシュは左腕に装着された盾で熱線の直撃を防いだ。盾は破壊され、その衝撃でシャマシュは弾き飛ばされ、転がった。

 神の加護の下にあるシャマシュの肉体にダメージはない。すぐに立ち上がると魔人に向けて、再び長剣を振るった。

 しかし、剣から発射された青白い閃光は細く、輝きが少なかった。魔人にダメージは与えたようだが、一撃目には劣っていた。

 この洞窟は結界の中にあり、魔界と同じ環境が構築されている。ここには神の力は及ばない。シャマシュがペトス神から得たその力は、薄れていく一方なのだ。

 魔人はそれを覚ったようだ。牙の生えた口を開けると、大音響の咆哮を洞窟内に轟かせた。

 魔人の咆哮には魔力を無効にする力が含まれていた。神の力も例外ではなく、シャマシュの身体を守っていた金色の光と、長剣が帯びていた青白い光は消滅した。

 再びこの力を得るには、この結界の外に出て、神の祝福を得るための祈りを詠唱しなければならない。

 魔人は火球を放った。シャマシュは魔人の左に回り込み、それを避けた。

 シャマシュは、魔人の側を通り抜け、洞窟の奥へと走った。

 魔人の力は強大だった。このまま一人で戦い続けても斃す事はできない。それがシャマシュの率直な思いだった。

 ここはヌディンムトの作戦通り、魔人を洞窟の奥に誘い込み、上からの奇襲攻撃に懸けるべきだと考えたのだ。

 しかし、魔人が追ってくる気配はない。奥に逃げた敵は仕留めたものと考えているのか、シャマシュとの距離は離れ、魔人の姿は闇に紛れた。

 シャマシュは立ち止った。洞窟の奥、魔人と反対の方角に気配を感じたのだ。

「マルドックか・・・。」

「その通り。ここで再び相まみえるとは、運命とは数奇なものよ。」

 暗闇に二つの赤い目の光が見えた。魔人と同じ目の光である。

「私はお前の娘と同行している。何か伝えたい言葉はないか。」

 暗闇の目が一瞬揺らいだように見えた。が、それは笑い声にかき消された。

「ハハハハ・・・娘などに用はないわ。それとお前にもなあ、シャマシュ!」

 シャマシュは身構えた。

 暗闇に一瞬閃光が走った。

 爆発音とともに、足下の床が大きく割け、崩れていく。罠だったのだ。

 シャマシュの身体は暗闇に飲み込まれるように、静かに墜ちていった。

 

 

 

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