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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

(12)

 

 ラハムは、この二年間の出来事を師匠に話したかったし、聞きたい事もたくさんあった。

 しかし、今の状況はそれを許さなかった。

 隠し部屋に戻るとすぐに、ヌディンムトの魔人討伐作戦が始まったのだ。

 

「魔人の力は強力だ。決して侮ってはならぬ。まともに対決しては、魔界の存在を人間が斃すことはできない。しかし、魔人が人間の住む物質界に居る場合は、我々にも勝機がある。今からその説明をする。」

 ヌディンムトは、部屋の壁に黒炭を使って迷宮の階層図を描き始めた。

「わしらは今、魔人の棲む大洞窟の真上にいるのだ。魔人の洞窟に降りるにはあと二階層下らねばならぬ。

 一階層下へつながる回廊の障壁は、本日全て解除された。理由はよく分からぬが、マルドックの意思が働いたものと思われる。」

「このまま進むのか?」シャマシュが言った。

「そうだ。」

「マルドックの誘いなのは明らかと思うが。」

「それは間違いない。しかしな、魔人の洞窟への通路がここしかない以上、進むしかないのだ。」

 このときヌディンムトは、マルドックはすぐには攻撃して来ないと読んでいた。

 マルドックと通路で遭遇したとき、彼は自分との対決をなぜか避けた。誘っているのかもしれないが、本気で殺す気があるのなら、ヌディンムトが単独行動していたあのときは、最大のチャンスだったはずだ。

 そこで攻撃しなかったという事は、何か、自分との対決を避ける理由、今日まで結界を守っていた理由があるはずなのだ。

 その理由は彼に会ってみなくては分からないだろう。その事は、ヌディンムトをなるべく早く洞窟に向かわせる動機となっていた。

 ヌディンムトは一階層下の迷宮を黒炭で指した。

「一階層下ると、そこからは一本道ではなく、入り組んだ迷宮になる。ここまで来れば、敵の一群に遭遇しても身を隠すところはあるし、逃走も可能だ。ここまでは5人離れずに移動する。

 その先の魔人の洞窟へは、二つのルートがある。

 一つは、さらに一階層下に降りた所にある正面の門である。ここはダークストーカーが厳重に守っている。

 二つ目は、洞窟の天井だ。40年前の調査で、天井の岩盤には薄いところがある事が分かっている。この岩盤を打ち抜く事ができれば、敵の守りが無い天井から魔人への攻撃が可能だ。

わしはジャイアントを2体、指輪に封じてきた。こいつらの力を持ってすれば、天井を打ち抜けるだろう。」

「天井からどうやって攻撃するの?」アルカリンクウェルが言った。

「それは、あれだ。」

 ヌディンムトは、部屋の片隅の台座に配置されていた二つの水晶玉を指差した。アルカリンクウェルは、それらはヌディンムトがこの迷宮に持ち込んだものである事を知っていた。

その水晶玉は手のひらに乗るほどの大きさで、中に赤と青のすじ雲のようなものがうごめいている。

「この水晶には永久凍土に棲んでいた氷の精と、火山に棲む溶岩の精が封じてある。水晶玉を破壊すると、氷の精、溶岩の精の順に解放される仕掛けになっておる。

 いくら魔人であっても、我々の住む物質界に実体化している場合は、物質の最小単位である元素の性質の支配下に置かれるのだ。すなわち、温度を極限まで低下させれば元素は結びつきを強め、動きを停止させる。要するに、凍結するのだ。その上で、内部の温度を急上昇させると、突如として元素同士の衝突による膨張が始まり、溶解が追い付けない外郭はバラバラになる。

 この性質を利用し、魔人を粉砕するのがこの作戦だ。」

二つある水晶玉のうち一つは、予備だと言う。さらにヌディンムトは続けた。

「この玉は、インプ(※1)を召喚して天井から運ばせる。インプはわしが操り、下に降ろす。命中の精度を高める為、天井を打ち抜いた穴に魔人を引き付ける必要がある。魔人の洞窟でその誘導を担うのは、この作戦で最も危険な役目だ。」

 ヌディンムトはひとつ間を空けた。

「その役目は、シャマシュに担当してもらう。よいな。」

 シャマシュは表情を変えず、当然のように頷いた。

「ラフムとラハムは、洞窟までシャマシュと同行するのだ。入口にはダークストーカーが群れを成して門を守っている。お前たちは囮となり、敵を引き付けるのだ。

 つまり、お前たちはシャマシュを魔人の洞窟に送り込む役目だ。」

「その必要はない。」シャマシュが言った。「二人はヌディンムトの護衛にまわれ。私は一人で行く。」

「そうはいかん。わしの護衛は召喚獣を準備しておる。必要ないのだ。」

少し考えた後、シャマシュは、分かった、と言った。そして、次のように付け加えた。

「ラフムとラハムは門前の敵をなるべく多くひきつけ、逃げるのだ。その間に私は洞窟に入る。無事、逃げ切れたらヌディンムトに合流するがいい。

 決して、私を追うな。」

 ラフムは、分かりました、と言った。しかし、状況によっては、自分も洞窟に入る事はある、と考えていた。

「あたしは、どうすればいいの?」

 アルカリンクウェルが言った。

「おぬしは連絡役として、天井裏と洞窟を行き来し、作戦の進み具合と変更を伝達する役目だ。」

「これはあたしの戦いよ。そんな役目は嫌です。」

「魔人が狙っているのはおぬしの魂だ。なるべく表に出ない方がいい。それに最も足が速く、暗闇でも目が利くおぬし以外に連絡役は務まらぬ。」

 アルカリンクウェルはしぶしぶ承諾した。

「マルドックが来たら、どうする?」シャマシュが言った。

「そうだのう。」ヌディンムトはしばし、沈黙した。「この戦いは、魔人討伐が目的だ。ラフム、ラハム、アルカリンクウェルは、マルドックと遭遇したなら、とにかく逃げるのだ。」

「師匠とシャマシュ卿が出会った場合はどうするのですか。」ラフムが聞いた。

「わしらとマルドックは、兄弟のようなものだ。どうなるかはそのときにならねば分からぬ。」

「戦うのね。」アルカリンクウェルが言った。「あたしには遠慮しないで。」

「万が一、わしかシャマシュが斃された場合は、おぬしは連絡役として皆にその事を伝えよ。それを聞いた者は、それぞれすぐに迷宮から脱出するのだ。」

 部屋に沈黙が流れた。

「ひとつだけ、お聞かせください。」

 それまで黙っていたラハムは、声を上げた。

「この戦いに勝利する為に、僕は命を懸けるべきでしょうか。」

 

 

 

※1 有翼の小悪魔。いにしえより魔術師の召使いとしてよく利用される。

 

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