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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

(11)

 

 ヌディンムトは焦りを感じ始めていた。

 シャマシュ、アルカリンクウェルと共にこの迷宮の探索を始めて、すでに35日が経過している。

 拠点とする隠し部屋までは、予定通り探索開始から10日で到着した。

 しかし、それから25日間も足止めされているのだ。

 その理由は、隠し部屋から魔人の棲む洞窟までの長い通路に、何重にも魔法結界に構築されていたからである。

 魔法結界とは、空間を遮断し、人やモノ、霊的な存在の通行を妨げる魔術の総称である。その中には、神々の力を利用し広い範囲を守護する聖域と呼ばれるものや、四大元素を利用した比較的短期間で構築できる魔法障壁、召喚術に使用する魔法陣など、さまざまなものが存在する。

ヌディンムトは、この迷宮に構築された結界一つ一つについて調査を行い、仕掛けを解除する作業を強いられた。

幸いな事にこの迷宮の結界は短期間で構築されたものばかりで、1日あれば仕組みを理解し解除できるものがほとんどだった。

 しかし、ここでは解いた翌日にまた同じ結界が張られていたり、無駄と思えるほど同種の結界が並んでいたりしており、結果的に長い時間足止めされてしまうのだ。

 ヌディンムトの焦りは、魔法結界による時間の浪費だけではなかった。ヌディンムト達の拠点から魔人の洞窟までの通路にのみ、狙ったかのように結界が構築されている事に、何者かに行動を見透かされている事を感じているからだった。

 ヌディンムト達の拠点は、40年前の迷宮探索で発見した隠し部屋だった。迷宮に暮らしているダークストーカーですら、知らない場所である。

 ヌディンムトとシャマシュ以外にそこを知っているのは、マルドックだけのはずだ。

 つまり、この迷宮に彼が居るという推測が成り立つ。仮にそうだったとすると、ヌディンムトたちは敵に知られている危険な場所を拠点にしているという事になる。

 ヌディンムトは、周辺の警備に当たっていたシャマシュとアルカリンクウェルにその推測を告げた。彼らは黙って話を聞き、それぞれの持ち場に帰って行った。

 ヌディンムトは、アルカリンクウェルにはつらい戦いになるかもしれぬ、と思った。

 実の父との戦いなのだ。

 ただ、腑に落ちないところもあった。結界の構築を続けていても、マルドックは自分たちを斃すことはできない。迷宮で時間を消費させれば、食料や水が尽きて消耗していく可能性はあるが、そんなことで探索を諦めるほど我々が軟弱ではない事は敵も知っているはずだ。今回の場合、ヌディンムトは“空中庭園”のウィルラスから、栄養価が高くかさばらないエルフの食材を大量に調達しており、食糧の心配はなかった。

 ヌディンムトはマルドックが何を考えているのか、読み切れていなかった。

 

 現在ヌディンムトは隠し部屋に引きこもり、通路に新たに出現した魔法結界の分析を行っていた。

 通路の壁には黒い錆びた砂鉄がこびりついており、そこに見えない何かが存在する事を示していた。ヌディンムトはゴブリンを召喚し、そこを通るように命じたところ、不幸なゴブリンは一瞬で焼死した。

ゴブリンの死体の状況は落雷で死んだときのような感電死だった。砂鉄を引き寄せている事から、この結界は電磁障壁であると判断した。

電磁障壁は四大元素の内、風と水と火を組み合わせたものである。水分を含んだ大気に熱を与え、摩擦させる事で、電気的な性質を持った雲が出現する。その雲を通路上に配置する事で、そこを通過する者に放電し、感電させる仕組みである。

 障壁の分析を終えたヌディンムトは解除の準備を整え、隠し部屋から出た。シャマシュとアルカリンクウェルは留守だった。一人で迷宮に出るのは危険だったが、ヌディンムトはすぐにでも障壁を解除したかったのだ。

 幸いにも、敵には遭遇しなかった。ヌディンムトは、準備した白い粉を障壁の手前に撒き、呪文を唱えた。

 白い粉は、石灰であった。石灰は水分を吸収する。魔法によりその力を促進する事で、放電の発生に必要な水分は吸収され、障壁は力を失う。

 その瞬間、ヌディンムトの目の前に、今度は“見える壁”が下りた。電磁障壁を解除すると石の壁が下りる仕組みになっていたのだ。

 ヌディンムトは背後に気配を感じ、振り向いた。

「むうっ!マルドックか!」

 そこには紫紺の鎧と兜を身に着け、幅広の剣を腰に下げた魔法戦士が立っていた。

 ヌディンムトは、すかさず腕輪をなぞりながら呪文を唱えた。

 金色に光る矢がヌディンムトの手に宿った。

 それは、ヌディンムトが念じれば、一直線に敵へ向かう“魔法の矢”だった。

「!」

 しかし、ヌディンムトは矢の発射を思いとどまった。マルドックの態度に違和感を覚えたのだ。

 マルドックは声を上げて笑った。

「ヌディンムトよ、覚えているか。次に会うときはどちらかが消える時だと言っただろう。私の勝ちだ。」

 そう言うと、マルドックはさらに高らかに笑った。

 ヌディンムトは、その笑い声に若干の狂気が含まれているのを感じた。

 マルドックの姿は徐々に薄くなり、消えていった。

 ヌディンムトが見ていたマルドックは幻影で、実体ではなかったのだ。

 敵の姿が消えると同時に、迷宮に冷たい、緩やかな風が流れた。

 風の流れは、通路上の全ての障壁が解除された事を示している。目の前に下りた石の壁も消えていた。

「あ、いた!」暗闇の中から、アルカリンクウェルの声が聞こえ、小柄な人影が見えた。

 魔法の矢を発射していたら、彼女を傷つけていたかもしれない。

『マルドック・・・』

 ヌディンムトは、マルドックは悪魔に心を冒され、迷宮を徘徊するダークストーカーのように狂人になってしまったのではないかと思った。自分の知るマルドックは無駄な駆け引きをする男ではない。重要な戦いであればあるほど、正面から立ち向かう人間である。

自分を殺したいなら、このようなまわりくどい演出などせず、無言で斬るはずだ。

 

「基地に居なかったからさ、探したんだよ。・・・どうしたの?」

 アルカリンクウェルは、子供のようにヌディンムトの顔を覗き込んだ。

ハーフエルフは暗闇でも目が利く。この特殊能力(※1)を生かし、先頭を歩いてきたのだ。

「師匠!」

 通路の奥から双子の少年が現れた。ラフムとラハムである。

 二年ぶりの、師弟の再会であった。

 

※1 この特殊視力は、インフラビジョンと呼ばれる。

 

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