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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

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 シャマシュが初めてこの迷宮を探索したのは、40年前の事である。そのときは、ヌディンムトと、今は敵であるマルドックが同行者だった。

 3人共、20歳前後の若者だった。自分たちの出自を探求していた時代である。

 探索の頼りにしていたのは、古代王朝時代の言語と、断片的な、いにしえの風景の記憶だけだった。

 それでも、記憶の風景から地形を探れば、調査しなければならない地域は数えきれないほど存在する。

 その中で、この山岳地帯を調査の対象に選んだのは、ここに存在するとされた遺跡が魔法王朝時代でさえ、古代の遺跡と称していたほど、歴史の古いものであったからだ。しかもこの場所は当時から近寄ってはならない地域とされていた。その事を、ヌディンムトは別の冒険で手に入れた古代の文献で知ったのだ。

 古代王朝時代の秘密の場所。そこに隠されているものは、もっとも優先度の高い捜索対象のひとつである。

 迷宮は山岳地帯の地下深くに存在するとされ、地上からの入口はどこにも見当たらなかったが、何週間にも渡る捜索の末、谷の岩壁に深い鍾乳洞を発見した。

 3人はそこから地下に向かった。

洞窟では多少の金目の物は見つかったが、目的の遺跡は何日も発見できなかった。

 それでもあきらめず、粘り強い調査の末、ダークストーカーの一群と一戦を交えたところで、この探索は急展開を迎える。

シャマシュ達は戦いに勝利し、ダークストーカーの一人を生け捕りにした。

驚いたことにダークストーカーの言語は、古代魔法王朝の言語、つまり3人の記憶に刻まれた古代語と同じものだった。

そのダークストーカーは、ヌディンムトの弱体魔法に敗退し、彼らの棲家である地下迷宮の入口に案内した。

こうして、3人は目的の遺跡を発見したのだった。

いったい誰が、何の目的でこのような地下に深い迷宮を建設したのか。それは、迷宮の最深部に到達したときに判明した。

そこには魔人が棲んでいたのだ。

人間の三倍はある背丈と曲がりくねった二本の角を持つ魔人は言った。この迷宮は、強い人間の魂を選別するために建設したものであると。つまり、迷宮の最深部に到達した強靭な人間の魂こそが、魔人の求めるものだというのだ。

迷宮に棲むダークストーカーは、魔法王朝時代に強い魔力を求めて迷宮に迷い込んだ古代人のなれの果てだという。だから、彼らは古代語を解し、ここは魔法王朝時代の禁忌の地だったのだ。

ここから先は前に述べたとおりである。

魔人は契約を持ちかけた。シャマシュとマルドックは将来娘を得る。その娘の死後の魂と引き換えに、不老の力を与えるという取引だった。

自分の子の魂を売り渡すなど、客観的には人間の所業と思えないだろう。

ただ、魔人のやり口は人間の弱い心を熟知していた。

目の前に巨万の富や不老不死の力を提示されれば、自らの魂との交換には応じない人間でも、将来生まれてくる子の魂なら応じてしまう。そのような人間は、過去に数多くいたのだ。契約後、親が告白しなければ、生まれた子はそれを知らずに成人し、いずれ死に至る。魔人はやすやすと強い人間の血を受け継ぐ魂を手に入れるのだ。

マルドックは魔人との取引に応じ、娘の魂と引き換えに不老の肉体を手に入れた。

シャマシュとヌディンムトはマルドックと対立し、一戦を交えた後、袂を分かった。

 その後、マルドックと“空中庭園”に住む女エルフとの間に生まれた娘が、アルカリンクウェルである。

 

 シャマシュとヌディンムトは、ギリアンゼルの森でアルカリンクウェルに会い、“空中庭園”を訪れた。彼女は自分の運命を知っていた。おそらくマルドックは、不死のエルフとして生涯を送る道を娘に与え、永遠に運命から逃れる事を願っていたのだろう。それを保障するには、“空中庭園”から出てはならない。この鉄則を守らせる為、真実を伝える必要があったのだ。しかし、彼女はその道を歩まなかった。シャマシュとヌディンムトに対し、運命と戦うつもりであると言ったのだ。

 シャマシュは、この娘に半分マルドックの血が流れている事を感じずにはいられなかった。マルドックもまた自らの運命に対して甘んじることなく、どんな手を使ってでも打破を目指す男だったからだ。

 シャマシュは、ヌディンムトと自分はその戦いに同行するべきであると考えた。アルカリンクウェルがこのような運命を背負う事になった責任の一端は我々にある。また、聖騎士となった今、かつて魔人との戦いを避けた事に対する後悔もあった。

 ヌディンムトはしばし思案し、この禍は魔人を斃せば解決する事は分かっている、と言った。しかし、下級の悪魔とはいえ、敵は人知を超えた存在である。何千年もの昔から地下に棲み、人間の魂を悪魔の国へ持ち帰る仕事を繰り返してきた。

 そんな魔人と戦って勝てるのだろうか。下手をすれば全滅しかねない。

 しかしシャマシュは譲らなかった。魔人とはいずれ戦わなければならなかったのだ。我々の年齢も60を過ぎ、この機会を逃せばさらに討伐は難しくなる。このまま魔人との戦いを避け、たとえマルドックを斃すことができたとしても、第二、第三のマルドックを魔人が生み出さないとは限らないと言ったのは、そなたではないか、と。

 この言葉で、ヌディンムトは魔人の討伐に同意した。

 

 シャマシュはラフムとラハムを迷宮の奥に案内しながら、以上の経緯をかいつまんで説明した。

 40年前の長い探索があったからこそ、シャマシュとヌディンムトはこの迷宮の構造を把握しており、ラフムとラハムに地図を送ることができたのだ。

 この迷宮にはダークストーカーですら知らない隠し扉や隠し部屋が数多くあり、現在シャマシュ達はその一部屋を拠点にしているという。

「魔人討伐の為に僕たちは呼ばれたのですね。」ラフムが言った。

「そうだ。討伐の作戦にはお前たちにも重要な役割がある。」

「でも、」ラハムが口を挟んだ。「マルドックは、アリア-サンを狙っていたはずです。僕たちはその為にあの町を監視していたのです。一人は残るべきだったのではないでしょうか。」

「魔人を倒せばマルドックの力は失われる。それに、」シャマシュは険しい目つきをした。「結果的に、その心配は必要無かったのだ。」

「ど、どういう事ですか。」

「マルドックは、この迷宮に潜んでおるからだ。」 

 

 

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