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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第四章 七惑星の巫女

 

(1)

 

 ネルガルは、マルドックを呆然と見送った。

 彼は最初の一撃に懸けていた。敵の呪文を封じ、動きを止めた上での渾身の一撃だった。

しかし、それはやすやすとかわされた。しかも剣ではなく、木の杖で。

その後の攻撃も致命傷を与える事はできなかった。あのまま戦い続けていたら返り討ちに遭っていただろう。そのくらいの実力差はあるようだった。

 ところが、敵は召喚した怪物と共に飛び去ったのだ。

 去り際に、持っていた杖を落としていった。ネルガルには、わざと手放したようにも見えた。

「兄さん!」

 女の声がした。木陰から姿を現したのは、ネルガルの義理の妹、フーレイである。

 

 兄妹は1ヶ月前、再会を果たしていた。

 ネルガルは“空中庭園”のヴォジャノーイが棲む泉で、自分と同じ賞金稼ぎになっていた妹の姿を見た。

 兄妹を育てた父親は山中に住む精霊使いだった。兄妹は別の場所から貰われてきた子で、3人に血の繋がりは無い。

フーレイはその父の技を継いでいた。

 しかしなぜ、山を下り賞金稼ぎなどになったのか。かつて何も言わずに家を出た負い目もあり、ネルガルはその事情が非常に気になった。

 フーレイは賞金稼ぎギルドに所属していた。ギルドのネットワークを利用すればフーレイに接触するのは容易である。ギルドの支部がある町でカネを払えば、彼女が何処にいようと仕事を依頼できるのだ。

 こうして20年ぶりに再会したフーレイは、当たり前だが立派な成人となっていた。ネルガルが家を出たとき、妹はまだ7歳ぐらいの頼りなげな娘だった。目の前に現れた、気の強そうな女にその面影は無い。

 女一人で賞金稼ぎ稼業をやってきたのだ。相当な危険や苦労を経験してきたのだろう。そう思うとネルガルの心は痛んだ。

 父は病で死んだという。フーレイはその事を出奔した兄に知らせる為、山を下りた。

 6年前の事だそうだ。フーレイはネルガルが賞金稼ぎで名を馳せていた事を知っていた。しかし、そのときにはすでにネルガルはギルドを脱退しており、探し出す事はできなかったらしい。

 だから自分も賞金稼ぎで生計を立てる道を歩み、いつかネルガルに会える日を待っていたのだという。

 ネルガルがギルドを脱退したのは10年前だ。その4年後となると、そろそろ賞金稼ぎの仕事に行き詰まり、傭兵稼業に移っていた頃である。

 だが、義理の兄に父の死を知らせるためだけに、賞金稼ぎなどになるものだろうか。

 ネルガルはその疑問をぶつけた。何か他に理由があるのではないのか、と。

 フーレイは、目を逸らし、少しうつむいた。その仕草を見て、ネルガルは自分の知る幼子だった妹とこの女は同一人物だと初めて実感した。

 フーレイはよく父に、ネルガルはいつ帰るのかと尋ね、困らせていたようだ。

 父は死の床に就いたとき、フーレイに初めてネルガルの事を語った。

 ネルガルを育てながら、息子は普通の子ではなく、何か宿命を持って生まれた特別な存在だと父は感じ取っていた。その宿命が何であるかは分からないが、一生を懸けたものである事は確かであり、いずれはこの家を去るだろうと思っていたという。

 もしネルガルが宿命との戦いを終えた後もなお生きていたら、生きる意味を失い自ら命を絶つかもしれない。ネルガルがそれを乗り越えたとき、フーレイは兄の傍らにいて、次の人生に導くのだ、と父は言ったという。

「次の人生って、何だ?」

 フーレイはうつむいたままそれに応えた。要するに、二人は夫婦となり、故郷の山で精霊使いとして生きる事が父の望みだという。もともとフーレイはそのつもりで連れてきた娘だったらしい。

「それが遺言か。」ネルガルは冷たく言い、おし黙った。

 すっきりしない結末だった。

 血が繋がっていないとはいえ、妹は妹である。愛おしい感情はあるものの、妻として迎えるには抵抗がある。ネルガルが死を求めている事を何年も前から父に見透かされていた事実も複雑な気分だった。

 それに、ネルガルの戦いはまだ終わっていない。

 そのとき二人が出した結論は、この問題は先送りとし、当面は賞金稼ぎの兄妹として旅を続けるというものだった。ネルガルはマルドック討伐の為に魔法を封じる力が必要だったし、フーレイは父の遺言に従い、兄の側にいたかったのだ。

二人とも複雑な問題を心に抱えていても、仕事に集中できる賞金稼ぎだった。

 

 ネルガルは、二つの課題をこの旅で一挙に解決するつもりだった。

 一つは、七惑星神の寺院に住む巫女に会い、自分の記憶の謎を探る事である。

5年前、力ずくで寺院に押し入ったが、5人の神官との戦いに敗れ、二度と近づかないように恐怖を心に刻み付けられた。この屈辱を晴らさなければ死に切れない。

 二つ目は、マルドックの討伐。これは、賞金稼ぎとしての仕事である。悪魔の力を得ているマルドックに一対一では勝てない事を、ネルガルは知っていた。まとも戦って勝てない相手に勝利するには、特別な戦略が必要である。

ネルガルは、アルカリンクウェルの手紙を使ってマルドックに寺院の場所を漏らし、神官たちとマルドックを戦わせる謀略を思いついた。

神官たちは、魔人の息のかかったマルドックを巫女に会わせることはしないだろう。ネルガルは自分が押し入ったときと同じように、神官たちとマルドックは一戦交えるはずと考えた。

ネルガルはマルドックが勝つとみていた。しかし、神官たちの力も侮れない。勝ったとしても相当なダメージを受けるはずである。

ネルガルは、どちらが勝っても決着が付いた後の隙に勝機があるとみていた。

聖騎士であるシャマシュなどには思いもつかぬ戦法だろう。だが、これは騎士の戦いではない。どんな手を使ってでも勝利さえ得られればよい賞金稼ぎの戦いなのだ。

 しかし、ここまで周到な作戦を持ってしても、マルドックを斃す事はできなかった。

 

「兄さん。大丈夫?」

 フーレイは呆然としているネルガルの顔を覗き込むように訊いた。

「おれは大丈夫だ。お前の方こそどうなのだ。鷹に襲われただろう?」

「最初やられたけど、風の精が絡め捕ったよ。」フーレイは不思議そうな顔をした。「でも鷹ってよく分かったね。見えたの?」

「いや、見えなかった。でも、何故か知っている。」

「どういう事? 大丈夫?」

「とにかく、捕らえた鷹は解放してやれ。害は無い。」

「分かった。」

 ネルガルの言動に訝しさを感じながらも、フーレイは風の精霊に解放を命じた。

 それと同時に、茂みの奥の岩場の陰から大鷹が空に舞い上がった。

 ネルガルは、左手で何かのサインを大鷹に送った。すると大鷹は、旋回しながら高度を下げ、二人の近くの巨木の枝に、静かに舞い降りた。

 フーレイはきょとんとして、ネルガルを見た。「何、今の?」

ネルガルは独り言のように言った。

「どうもおれはマルドックからいろいろなものを託されたらしい。」

 

  

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