Salvador'sCabintrival_dragon_red.gif

 

はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

→Home    →小説    →作者について    →写真館    →リンク

小説「七惑星の記憶」

 

第三章 邪悪なるもの

 

(8)

 

 こうしてマルドックは、“イリアステームの杖”を手に入れた。

 

 この杖は、人の記憶を制御する力を持っていた。人間の記憶を吸い出す、いわゆる“忘却の魔法”が使用できるだけでなく、その吸い出した人の記憶を杖に封じる事ができた。そして、その記憶を他の人間に与える事も可能であるのだ。

もともとは王宮内の意思伝達を目的として創られた為、この杖の力は一人の記憶を封じる事ができる程度のものだった。しかし、その後イリアスと“七惑星の巫女”がこの神殿で行った魔法実験によって、現在この杖は何十人もの人の記憶を封じる容量と武器としての使用に耐えられる攻撃性を兼ね備えている。

 それでもなお、“最後の王”は満足しなかったという。いったい、彼は何の目的でこの“イリアステームの杖” を使おうとしたのか。

 マルドックは、自分がこの杖を必要とした理由と“最後の王”が拘った理由は同じではないか、と推測していた。とにかく、なるべく多くの記憶を正確に伝達する力が欲しかったのだ。

 しかし、この杖を得た事による代償は大きかった――と、マルドックは想う。

 ティアマトの魂は、イリアスとともにこの世を去った。この杖を強化する代わりに、“最後の王”がイリアスに約束したものは、娘の魂だったのだ。

 その約束は600年後の今日、果たされた。“最後の王”は、ティアマトをその目的でこの世に送ったのだ。

 マルドックは、“空中庭園”に住む実の娘の顔を見たことが無い。手紙のやり取りはあるし、自分が過酷な命運を与えた子であるが故に娘に対する想いは人一倍だ。しかし、父としての実感は薄かった。

それに対してティアマトは、幼児としてマルドックの元を訪れてから15年の間、彼の側で育ったのである。マルドックはティアマトに対し、実の子以上に父のような気持ちを持っていた。その結果、魂が抜けたティアマトの姿を見たとき、マルドックはこれまでの人生で経験したことの無い喪失感を味わう事になった。

 マルドックはその気持ちを捨て去ることはできなかった。心の奥底にしまい込み、その扉には幾重にも釘を打った。

『この釘が外れ、心の扉が開いたとき、おれは自滅するだろう・・・。』

 彼にとってこの作業は、発狂しない為の儀式だった。

 

 冷静になって最期のティアマトの姿を想い出すと、彼女自身はその運命を受け入れている様子だった。その表情は毅然としており、キシャルやエヌルタに“役立たず”と言われていた頃のティアマトではなかった。

 彼女自身は、自分の魂の目的を達成し、満足して旅立ったのだろう。

 マルドックの心は少し軽くなった。そして、自らもそのような死を迎えたいと思う。

しかし、マルドックは不老の肉体を持っている。彼は、魔人との契約で最も大事なものを手放してしまったかもしれない、と今更ながらに思った。

 ふと、ティアマトの最期の動きを想い出した。

 彼女は、マルドックの呼びかけにうなずいた後、自分の腰の辺りを指差していた。

 ティアマトの腰には革のポーチが巻かれていたはずだ。あの行動はその中を見よ、という意思表示と思われた。

 マルドックは、横たわるティアマトのポーチを開けた。

 その中には、いくつかの道具とともに、折りたたんだ羊皮紙が二枚入っていた。

『これは・・・遺書だ。』

 一枚目の羊皮紙には、マルドックに対する感謝の気持ちと、ティアマトがすでに死を予感している事、そしてそれを悲しまないで欲しいという事が綴られていた。

 そして、一枚目の手紙の後半には、以下のような記述があった。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 ここでひとつお詫びをしなくてはなりません。

 “東の大雪山”への旅に出る一ヶ月前、カル・サーデュはアルカリンクウェル様からの手紙を持ち帰ったのです。

 その事を私はマルドック様に隠していました。なぜならその手紙には、いつものアルカリンクウェル様の、無垢で瑞々しい、花の咲き乱れる庭園を流れる小川のような言葉の羅列は無く、その後ろに何やら怪しげな意図、謀略が潜んでいると感じたからです。

 これまでに一度たりとも、アルカリンクウェル様はあなた様をどこかに誘い出すような事はしませんでした。手紙の内容は、いつもあなた様への思いやりと自分の置かれた境遇、そしていつかあなた様に会いたいという純粋な想いに満ちていました。

それなのに今回の手紙に限っては、“七惑星神の寺院”の場所やそこにあなた様の求めているものが必ずやあるはず、といった、思わず目を背けたくなるような言葉が書かれているのです。

大げさに思えるかも知れません。この事は手紙を普通に読んでいては気づかないのです。

私はアルカリンクウェル様に会ったことはありませんが、マルドック様への想いを分かち合った姉上のような存在としてとても身近に感じていたのです。だから分かるのです。姉上は、マルドック様を裏切ろうとしています。もしかすると、あなた様より大事な方が側にいるのかも知れません。

でも、この事を隠したまま、私はこの世を去ることはできませんでした。それが、どんな内容であってもあなた様に知らせるべきであったと思い直したのです。姉上だけが、あなた様の血を引く娘様なのですから。

最後になりました。私はどこへ行ってもあなた様の事を忘れません。

 あなた様の思いが達せられるよう、祈っております。

さようなら。

                      あなたの娘 ティアマト

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 マルドックは、すぐさま二枚目の羊皮紙を開いた。

 それは、アルカリンクウェルからの手紙だった。そこには、ティアマトの手紙にあったように、“七惑星神の寺院”の詳細な位置とそこに“七惑星の巫女”が住んでいる可能性がある事が書かれていた。

『確かにこれは罠だ。』マルドックは思った。『しかし、行かなくてはならない。』

 なぜなら、アルカリンクウェルの裏にいるのはヌディンムト本人か、その仲間であるに違いないのだ。

 マルドックの存在と活動を知っている者はこの世にほとんどいない。しかもその動きを察知できる人間は、ヌディンムトしかありえない。

 ヌディンムトが挑んでくる事は、マルドックの願っている事でもあった。

 やり方は違えど、お互い自分達の出生と“奈落の門”の秘密を探っている者同士だ。

 どちらの行動が正しいかの判定が下されるのは、ずっと後の世になってからだろう、とマルドックは考えていた。

その為に、彼は“イリアステームの杖”を手に入れたのだ。

 

 

 

→NEXT