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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第三章 邪悪なるもの

 

(7)

 

イリアスは語り始めた。

「お前達が“最後の王”と呼ぶ魔法使いにわしは会ったことがある。」

 マルドックは動揺した。記憶を知られるとはこういうことか。イリアスは、マルドックが最も知りたい事の一つを口にしたのだ。思考の全てを他人に知られているという事実に、これまでの人生で感じた事のない違和感を覚える。

「こんな辺境までわざわざ訪ねてきてくれたのだ。お前の知りたい事は教えてやろう。なあに、隠し事などしても何の得も無い――わしはじきに黄泉の国に帰るのだからな。」

 イリアスは呪文を唱え始めた。台座に置かれた杖が鈍く光り始め、杖の力がマルドックに向かってきた。「楽にせい。わしの記憶を渡すだけだ。」

 マルドックはその魔法を受け入れた。それは、“忘却の魔法”の逆の力――“記憶の魔法”だった。

 マルドックの頭脳にイリアスの記憶が宿り、彼の記憶と解け合った。

 マルドックは、“最後の王”がこの力を欲した理由を少し分かった気がした。

 意思の伝達は通常、言葉や文字により行うものだ。それは送り手の言語の正確さや受け手の理解力に影響される為、意思を共有するところまでたどり着くのは困難で、時間のかかる作業である。しかし、この杖は一瞬にしてそれを超越し、人と人の認識の共有をもたらすのだ。

『素晴らしい力だ。』マルドックは素直にそう思った。

 イリアスがマルドックに与えた記憶は以下の内容である。

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 “最後の王”は、イリアステームをイリアスの子孫から得た。取り上げたと言った方がいい。彼はそれだけの権力を持つ王だったのだ。(しかし、イリアスは、なぜ“最後の王”がイリアステームにこだわりを持ったのかを知らない。)

 彼は、魔法使いとして――イリアスの時代の魔法使いほどではないにしても――優秀だった。しかし、イリアステームを完全に理解し、支配する事はできなかった。

 そこで、彼はイリアステームの最初の持ち主であったイリアスを現世に呼び出す事にした。ただ、イリアスはそのときすでに黄泉の国で、静かなる眠りについていた。現世に戻る意思は無かったのだ。

 しかし、“最後の王”は召喚士としての能力に長けていた。イリアスは9人の子をもうけたが、全て息子であり、娘を得る事ができなかった事が現世での唯一の心残りだった事を、様々な文献から推測したのだ。

 その推測は見事に当たっていた。その執着心を掻き立てられ、イリアスの魂は現世に呼び出されてしまった。そして、イリアステームに掛けられた“記憶の魔法”の強化方法を伝授する契約を結んだのだ。

 この神殿の建設を勧めたのはイリアスだった。マルドックが推測したように、ここは地上で七惑星の力(ルヒュー)の純度が最も高い場所の一つの為、魔法実験を行うのに最適な場所といえた。ここに“最後の王”は一人の“七惑星の巫女”を住まわせ、イリアステームの力を増幅する実験を行ったのだ。

 “七惑星の巫女”とは、魔法民族の中でも特別な知識を代々受け継ぐ一支族だった。特別な知識とは、七惑星の力を物質に与える能力の事である。

 七惑星の力をどんな順番で、どれだけの数与えればイリアステームが強化を続けるのかを計算し、指南するのがイリアスの役目だった。そして、巫女はイリアスの決定に従い、七惑星の力をイリアステームに与える事がその役目だった。

そしてある日、イリアスは強化の限界を“最後の王”に告げた。これ以上の増幅はイリアステームを破壊してしまうという事実は、イリアスの魔法使いとしての知識の限界でもあった。

 あのとき、“最後の王”は沈黙していた事をイリアスは覚えている。おそらくその事実に不満だったのだろう。その日から巫女と共にこの神殿を去り、二度と訪れる事は無かった。

 イリアスとの契約は果たされなかった。イリアスはそれから600年間、ここで彼への恨みを増幅させ、怨霊と化していったのだ。

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 マルドックは思った。その契約が果たされなかったのは、王朝が滅びてしまったからではないか。この神殿に封じられたイリアスはそれを知る術が無かったのではないか。

 マルドックはそれをイリアスに伝えようとした。――その時、

『!』

 イリアスの隣に、もう一つ、白い煙のようなものが沸き立っていた。

 透き通ったその煙は、徐々に人の形を形成していった。イリアスと同じ亡霊なのだ。

「マルドックよ、ご苦労であった。王は本日、契約を果たされたのだ。そなたにはその杖を与える。」イリアスは言った。

 マルドックは、イリアスの隣の亡霊の顔に見覚えがあった。

「ティアマト!」マルドックは叫んだ。前へ出ようとしたが、まだ束縛が解けていない。

 今や、出現した亡霊の姿ははっきりとマルドックの目に映っていた。それは、甲冑を身につけ、腰に剣を差したティアマトの姿だった。

「王の契約は、わしがイリアステームの秘密を伝授するという事と引き換えに、わしに娘の魂を与える事だった。」イリアスは淡々と語った。

 その事をイリアステームを介さずに、言葉で語りかけたのは、マルドックの衝撃を緩和する為のイリアスの配慮なのだろう。

「待て!ティアマト! お前はそれでいいのか?」

 ティアマトは、ゆっくりとうなずいた。そして、何故か自分の腰のあたりを指差した。

 ティアマトがこの旅に出る前に言った言葉――『私は、イリアスを解放する為に存在するのです。』――をマルドックはあらためて思い出していた。

「最後にわしからの忠告だ。お前は、自分がテームと呼ばれる存在から生まれたと思っているようだが、それは無い。わしの時代の魔法使いであっても、純粋な生物を生み出す事は神の領域と考えられていた――つまり、できなかったのだ。

 その事実を真摯に受け止めよ。さらばだ、マルドック。」

 二つの亡霊は、空気に溶けるように消えていった。

 

 マルドックの束縛が解けた。

 マルドックは部屋から飛び出した。そして一気に地上階まで螺旋階段を駆け上がった。

 地上階の部屋に入ると、足元にゴブリンの死体が2つ、転がっていた。その先にはトロールの巨体も倒れていた。

 マルドックは、頭上に気配を感じた。

 すばやく剣を抜き、襲い掛かってきたチャロンの頭蓋骨を叩き割った。

 おそらく、マルドックが呼び出したこれらの下僕たちも、イリアスの“忘却の魔法”でマルドックの指令を忘れ、本能のままに殺しあったのだろう。

 マルドックは、この部屋を去ったときと全く同じ場所にティアマトが横たわっているのを見つけ、駆け寄った。

 ティアマトは冷たくなっていた。魂は、やはりイリアスと共に現世を去ったのだ。

 マルドックは、剣を壁に投げつけた。そして、拳を何度も床に叩きつけた。

『私は、二度までも、娘の魂を・・・。』

 彼は嗚咽のような声を上げたが、涙腺から涙は出なかった。

 それは、とうの昔に涸れていたのだ。

 

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