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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第三章 邪悪なるもの

 

(5)

 

 階段は部屋の壁と同じ材質の白い石でできており、上下に螺旋状に続いている。部屋の光が差し込んでいる部分以外は暗闇だった。

 マルドックが短い呪文を唱えると、空中に青白い炎が現れた。ウィル・オー・ウィスプと呼ばれる異界の炎である。

 マルドックはその炎をランタン代わりに操った。

 螺旋階段を上るとすぐ扉があった。階段はそこで途切れ、上へは続いていない。外から見た構造から、おそらくこの扉の向こうは天球の中と思われた。ただ、その石の扉はかたく閉ざされていた。マルドックはその扉を開けることをあきらめ、階段を下る事にした。

 下への階段は長く続いており、下るにつれて気温が下がっていくのを肌で感じた。マルドックの呼び出したウィル・オー・ウィスプの青白い炎だけが、ちらちらと階段を照らした。

 どれだけ下っただろうか。階段に小さな踊り場があり、そこに石の扉があった。

 マルドックは慎重にその石の扉を引いた。

 扉は開き、中から冷気が流れ出てきた。

 マルドックが扉の中を覘くと、暗い部屋の天井の一点から赤い細い光が一筋伸びていた。その光は部屋の中心を照らしている。光に照らされた場所には、上の部屋にあった白い台座と同じものが置かれていた。

 マルドックはゆっくりとその部屋に入った。危険は無いようである。ただ、部屋の隅々まで調べてみても、ここには台座以外に何も無かった。

 マルドックは部屋を出て、階段をさらに下った。

 しばらくするとまた踊り場に石の扉があり、中には先ほどの部屋で見た台座と同じものが配置されていて、天井から一筋の光がそれを照らしていた。

 ただ、光の色は上の部屋で見た赤い光とは違い、青白い光だった。

マルドックは、この青白い光は月の色である事に気づいた。

『そうか、この光は・・・。』

 マルドックは部屋を出て、捜索を続けた。その先にもいくつかの踊り場に扉がある事が分かった。部屋の中心には必ず台座があり、天井から光が射している部屋と暗闇の部屋があった。

 螺旋階段の終点の石の扉の前に立ったときには、マルドックはこの神殿の目的を理解していた。

 部屋の天井からの光は地上に届く星々の光をフィルターし、特定の惑星の光だけを抽出したものだ。赤い光は火星、青白い光は月の光だったのだ。暗闇の部屋は、今その惑星は夜空に出ていないのであろう。

 地下にある部屋は全部で六室あり、六つ目の扉のところで螺旋階段は途切れていた。

 おそらく六つの部屋は、火星、月、木星、水星、金星、土星の光を集める為に存在し、最初に入った地上階の部屋は、太陽の部屋なのだろう。

この神殿全体が、七惑星の光を抽出する装置となっているのだ。

かつて“最後の王”は、台座に魔導器を置き、天井から降り注ぐ惑星の力を与えていたのではないだろうか。

 マルドックは最後の石の扉に触れた。

「むっ!」

 マルドックは手を扉から離した。精神に違和感を感じたのだ。

 すばやく革袋から亜人の牙を取り出し、床に投げた。

白煙とともに現れたゴブリンに、石の扉を開けるように命じた。ゴブリンは躊躇無く扉を引いた。罠は仕掛けられておらず、扉は床と擦れる音を立てながら開いた。中からは生暖かい空気が流れ出てきた。

 その部屋には黄土色の光が天井から差し込み、他の部屋と同じように中心に置かれた台座を照らしていた。この部屋は、土星の光を抽出する場所だ。

 ただ、他の部屋と違うところがあった。

 台座の上に、古い木の杖が配置されていたのだ。

 マルドックは、ゴブリンにその杖を取りにいくように命じた。

 ゴブリンは、部屋の中心まで歩いていき、杖に触れたように見えた。

 しかし、ゴブリンは杖を手に取らなかった。くるりとマルドックの方に向き直り、奇声を上げながら襲い掛かってきたのだ。

 マルドックは、腰に下げた鞘から幅広の剣を抜き、ゴブリンを一刀両断にした。

 この部屋には何かある、とマルドックは思った。彼の足元に転がるゴブリンは主人であるマルドックの命令を破棄し、向かってきたのだ。

 マルドックは剣を手に持ったまま、慎重に部屋に足を踏み入れた。

 その途端、マルドックに強烈な心理攻撃が降り注いだ。

『これは、怨念だ。』

 怨念のような負の心理攻撃は、マルドックには効果が薄い。それは、人間でありながら悪魔の力を手に入れたマルドックの特性だ。

マルドックはその攻撃を耐え抜いたが、この部屋には怨念を発する何かが存在することは間違いない。そいつを倒さない限り、またいつ攻撃を受けるか分からない。

 マルドックは、ゆっくりと台座に歩み寄った。

 土星の光に照らされた木の杖には古代文字が刻まれていた。

「イリアステーム・・・。」

 マルドックが数々の困難の乗り越え、求めていたものが目の前にある。ついに、イリアスの秘宝に手が届くところまで来たのだ。

 マルドックは、台座の上に左手を伸ばした。

 手が杖に触れようとしたとき、杖は少し光ると、マルドックに痺れるような衝撃が走った。その衝撃は手から腕、肩、首に上り、脳に達した。

 マルドックは脳の一部が攻撃を受けているのを感じた。

『むう、“忘却の魔法”。』

 あのゴブリンは、この魔法によってマルドックの命令を忘れ、本能のまま襲い掛かってきたのだ。

 マルドックは精神を集中し、杖の魔法攻撃に耐えた。

 しかし、イリアステームの魔力は強力だった。マルドックの精神集中が弱くなる隙を狙って、波状攻撃を仕掛けてくる。

 マルドックの記憶は、イリアステームにかなり吸われたようだった。ただ、マルドックは魔法防御によって、脳の記憶が消されることは防いでいた。

 長い攻防の末、イリアステームの攻撃は止まった。

 そのとき、虚ろな声が部屋全体にこだました。

「600年・・・長き年月・・・このようなところに封じ込め・・・」

 マルドックは剣を握りなおした。これは怨念の正体だ。

 その声の主は、部屋の片隅に煙のような姿で渦を巻いていた。その渦は形を変え、赤く光る二つの目をマルドックに向けた。

 

 

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