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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第三章 邪悪なるもの

 

(4)

 

イリアスは古代王朝中期の人物で、“最後の王”とは生きた時代が異なる。古文書の記録によると、“最後の王”はイリアスに強い執着を持ち、イリアスの家系に伝わる魔法の品の全てを献上させた。その中に、彼が使用した杖があったといわれる。

“最後の王”がその杖をどんな目的に使用したかは分からない。とにかく“東の大雪山”の山頂にその杖を封じ、研究をしていたという事が古文書に書かれていたのだった。

マルドックもその杖を強く欲している。彼は、自らの生きた記録、意志を過去に正確に伝えたいという強い気持ちが杖を求めている事を自覚していた。

『もしかすると、“王”も同じ気持ちだったのかもしれない。』

 

 マルドックが山頂へ到達したとき、時刻は黄昏時を迎えていた。

 西の空は夕日が紅く染め上げ、東に向かうにつれ薄群青、紫紺と色を変え、昼間とは違う美しさを演出していた。

 そして、無数の宝石のような星々が、満天に姿を現していた。

 マルドックは、目の前に迫るその星々から微かな力を感じ取っていた。

『これが、“ルヒュー”か?』

 古代魔法民族がディンギルから授かったとされる“ルヒュー”は、七惑星の位置を正確に測定し、惑星の力をある一定の法則にしたがって物質に与える奥義であると、マルドックは“空中庭園”のエルフから聞いた。その奥義は代々巫女が受け継ぎ、その血筋の者だけに伝わる秘術だった。その巫女は一度死んだ者を復活させる事さえできるほどの魔力を持っていたとされる。

 惑星の放つ重力や光が、地上世界にさまざまな影響を及ぼしているという事は漠然と知覚できる。季節の変化や潮の満ち引きが代表的な例だ。マルドックは、巫女の奥義とは複雑な惑星の動きと効果を体系化し、その力を引き出す知識なのだろう、と想像していた。

 マルドックが、山頂にある建造物を見つけたとき、それは確信に変わった。

 その神殿は、水晶のような透明な石で造られていたのだ。透明であるが中は白く曇っており見通すことはできない。光をほとんど反射せず、透過しているようだった。そして、神殿の屋根は天球のようなドーム状になっていた。

 この神殿が“東の大雪山”の頂上に建っているのは、星々の光を最も効率よく取り込むためなのだろう。なにしろここでは常に雲は眼下にあり、空気は澄み渡り、星々との間に遮るものは何も無い。“最後の王”は最も環境の良いこの地で、ルヒューの力を抽出していたのだ。

 マルドックは神殿の正面に立った。

 大きな両開きの扉は雪に埋もれていたが、そこに刻まれる2頭の向かい合ったグリフォンと周りを取り囲むウロボロスの図柄を見ることができた。これは、“最後の王”が好んで用いた紋章である。

 マルドックは、腕輪からサラマンダーを解放し、扉の周りの雪を溶かすことを命じた。

 炎と同じ体温を持つサラマンダーは雪の中で身体をくねらせ、一瞬にして雪を溶かした。まだ余力があったとみえ、神殿の扉に頭突きをかました。

 その瞬間、サラマンダーは氷づけになった。凍結の罠が仕掛けてあったのだ。気の毒だが、このサラマンダーは元の精霊界へは還れないだろう。

 マルドックは、今度は大きな動物の大腿骨を取り出した。それを扉の前に投げ、呪文を唱えると、煙と共にトロールが姿を現した。

 トロールは扉に対峙し、その豪腕で扉を押し開けた。(※1)

 マルドックはトロールに先に入るように命じた。トロールは少し怯えながら中にはいったが、特に危険は無いようだった。

 マルドックが中に入るとそこは昼間のような明るさの大きな部屋だった。白い陶器のような壁全体がほのかな明るさを湛えている。床も同じ素材でできており、部屋の中心には台座があった。

 天井には巨大なダイヤモンドのような水晶が取り付けられており、それが外の星の光を取り込み、部屋全体を照らしているのだ。

 しかも意外なほど暖かい。日中に降り注いだ太陽光の余熱が残っているのだ。

 マルドックは、背負っていたティアマトを部屋の片隅に寝かせた。ここなら凍死する事もないだろう。

 ティアマトは、倒れてからまもなく気を失い、そのままだ。

 着いたぞ、と頬を叩いたが、反応は無かった。ただ呼吸だけをしている。

 ここから先、ずっと背負っていくわけにもいかない。どんな戦いが待っているか分からないのだ。

 マルドックは、トロールにここでティアマトを護るように命じ、奥に歩き出した。

 しかし、マルドックは数歩進んだ後、ふと足を止め、振り返った。

 寝ているティアマトを背にし、トロールがこちらを向いて突っ立っているのが見える。

 この部屋は安全そうだが、胸騒ぎがした。要するに、鈍重なトロールだけでは心もとないのだ。

 マルドックは、皮袋から3本の亜人の牙を取り出し、床にばら撒いた。その瞬間、白煙とともに3体のゴブリンが姿を現した。

 その後、懐から黒い小さな水晶玉を取り出し、少し長い呪文を唱えた。

 黒い水晶の中に白い煙のようなものが現れ、それは徐々に怪物の形となった。

 マルドックが呼び出したのは、チャロンという黄泉の国の怪物だった。元は人間の魔法使いだったが、自らの肉体を死体に変化させ、永遠に黄泉の国と現世をさ迷い続ける者達である。彼らは魔法使い時代の名残でぼろぼろのローブに身を包み、フードの奥から骸骨の顔がのぞく。チャロンは人間から見れば不死の怪物に過ぎないが、知能は高く、自分たちを人間より上位の種族であると思っている。その為、彼らを操るには敬意を払い、2、3の虚栄心をくすぐる言葉を与えるのが定説になっていた。

 哀れなチャロンは今回も現世に呼び出され、マルドックに支配された。

 マルドックはチャロンにここを護るように命じ、トロールにはチャロンに従うように、そしてゴブリン達には異変があればすぐに自分を追うように指示した。

 

 マルドックはあらためて、何も置かれていない白い台座の脇を通り過ぎ、奥の扉に向かった。

 扉を開けると、そこには上下へ続く階段があった。

 

 

 

 

※1 こうした魔法の罠は一度発動すると、しばらくの間無効になるのが普通である。これは、侵入者にそこに何の罠が仕掛けられていたのかを忘れさせる為である。今回は直前でサラマンダーが罠に掛かった為、トロールには発動しなかったのだ。

 

 

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