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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第三章 邪悪なるもの

 

(2)

 

 では、“最後の王”の復活のときはいつなのか。

 彼が復活するとき、それは、王朝が復興するときでなければならない。そのときに、復興の邪魔になるものがあってはならない。つまり、別の国家がそこにあってはならないのだ。

 そう考えたとき、“奈落の門”の数百年に渡る行動の意味が理解できた気がした。

 “奈落の門”、つまりテームは、古代王朝復興の妨げになる強大な国家が生まれるのを防ぐ為、その前段階である町を破壊しているのだ。

 “奈落の門”は人間や家畜はもとより、草木も一本残らず破壊してしまう。破壊というより、吸収してしまう。マルドックは40年前から“奈落の門”が滅ぼした町の噂を聞きつけては調査を繰り返していたが、町には何も、まさに何も残っていなかった。人々の財産、思想、何を着て、何を食べていたか。“奈落の門”はそこに暮らしていた人々の生きた証を見事なまでにかき消していたのだ。

 ここまですれば、残された人々は国家の建設をゼロからやり直しである。マルドックには、それは“奈落の門”の中に居る“王”の意思ではないか、と感じられたのである。

 ただ、そのような推測を裏付ける証拠は全く見つからなかった。マルドックに転機が訪れたのは、10年あまり“奈落の門”の調査を続けた後だった。

 その転機とは、キシャルという参謀を得た事である。

 キシャルもまた、マルドックと同じく古代王朝時代の神の名を持つ者で、“奈落の門”に滅ぼされた廃墟で調査を行っていた。

 マルドックはキシャルを同志と考えていたが、キシャルはマルドックをまるで教祖のように扱うのだった。キシャルは、マルドックの思想に陶酔し、自ら進んで悪魔の下僕になった。すなわち、マルドックの血を飲み、彼と同じ恐怖を共有しようとしたのだ。

 マルドックがキシャルから得たものもある。戦士だったマルドックは、魔導士であるキシャルから魔法を習得した。マルドックは程なくキシャル以上の力を持つ召喚魔法を身に付けたのだった。それは彼が魔界に通じる肉体を持っていたところが大きい。

暗黒界の眷属を召喚し、組織化して働かせるようにしたのもキシャルである。その組織の頂点にはもちろんマルドックが立たされており、今でもティアマトが『マルドック様』などと呼ぶのはキシャルの仕業だ。

 キシャルはマルドックに出会う前から、自分が3歳程度の幼児として世に出たとき、なぜ自らの名前を知っていたのかについて研究していた。

 3歳という年齢は、一般に人生の中で最も古い記憶を持つ年齢である。逆にいえば、それ以前の出来事は普通、記憶に無い。しかし、幼年期の記憶は、成人した後の人間の行動に深い影響を及ぼす場合があるという事に、キシャルは気付いた。

 例えば、幼年期に母親から十分に愛情を得られなかった子は、成人してからも母親の元を離れる事に恐怖を感じたり、自らの子や家族を束縛したりする。幼年期の記憶は意識的に感じる事ができない為、その成人は自分がなぜそのように行動するのか分からない。

 それと同様に、我々は気付くことのできない記憶によって行動を支配されているようだ、とキシャルはマルドックに進言した。これはマルドックも感じている事だった。我々は、なぜこのように集い、困難に立ち向かうのか。

 我々は、“奈落の門”で3歳まで成長し、そこで何かを教育され、この世に出て来る。その記憶によって、我々は制御されているのだ。その幼年期の記憶を甦らせる事ができれば、“奈落の門”に住まう“王”の意思を知る事ができる―――キシャルはそう考えていた。

『結局、志半ばとなってしまったな、キシャルよ。』

 ここ数年間、キシャルは廃墟のグリヌフスで人間の記憶を制御する魔法について研究を続けていた。マルドックは、キシャルには研究と並行して、“奈落の門”の性質の解明するという使命も与えていた。

 グリヌフスの地下でキシャルはその性質、つまり“奈落の門”が、町を滅ぼすべき国家と認識する条件をほぼ解明した。それは、人口が約1万3000人を超え、町全体を覆う魔法結界がある、という条件を同時に満たす事だった。おそらく“奈落の門”が生まれた時代の都市は、そのような規模、形態だったのだろう。

情報は逐次、マルドックの耳に入っていた。そして、アリア-サンはその条件を満たし、初めて“奈落の門”の出現を予測できる町となるはずだった。

 しかし、最後の最後で、伝令の鷹は、キシャルへの指令を届けず、戻ってきたのだ。

『ヌディンムト・・・。』

 マルドックは、キシャルの死の裏に、ヌディンムトの力を感じていた。

 “門”によって廃墟となったエルミアでの邂逅以来、ヌディンムトには20年間会っていない。

 エルミアの地で、マルドックはヌディンムトを殺すこともできた。しかし、それを行わなかったのは、ヌディンムトもまた、自分と同じ記憶を持ち、方法は違っても“奈落の門”の秘密を暴こうとする同志だと考えたからだった。万が一自分の考えが間違っていても、ヌディンムトがその意志を貫けば、可能性は残る。

 マルドックが最も恐れたのは、自分もヌディンムトも“門”に敗れ、自分達の世代が死に絶えた後に誰も後を継がない、という事だった。

 それを避ける為、マルドックはこれまで調査した結果、蓄積した事実を後の世に伝える為の手段を欲していた。

 キシャルは一つの研究成果を遺していた。

 かの魔導士は、魔法王朝時代に記憶を制御する術を完成させた人物がいたという事実を突き止めていたのだ。

その人物の名は、イリアスといった。彼は太古の王宮に仕官していた魔法使いの一人だった。彼は、王宮の仕事を今までに無い方法で効率化する手法を考案したのである。

 物質を構成する元素には、“励起”と“非励起”の状態があり、それは外部からの力によって変化する性質があるらしい。またイリアスは、全ての情報は連続した“励起”、“非励起”で表現可能で、人間の記憶の最小単位もそのようにできている、という事実を突き止めた。

 彼はその性質を利用し、人の記憶を物質に写し込み、それを後で人の頭脳に復元する技術を編み出したのだ。この技術で、人の意思を早く確実に伝達可能にし、王宮の雑多な会議や伝令を効率化したのである。

キシャルによると、イリアスは自らの杖にその力を封じ、使用していたという。

 マルドックは、この技術をどうしても手に入れたかった。これが手に入れば、自分達の生きた証を後の世に伝える事ができる。彼はキシャルに命じ、各地に配置された魔界の眷属にその杖の手がかりを探させた。

 その結果、その杖は“東の大雪山”に有ることが報告されたのだ。

 キシャルは、アリア-サンでの仕事が終わったら、“東の大雪山”に赴くことを計画していた。

 しかし、その矢先に知らされたキシャルの死。

 マルドックは、自ら“東の大雪山”へ旅立つ事を決意した。 

  

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