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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第三章 邪悪なるもの

 

(15)

 

 このヘル・ハウンドは、マルドックが特別な契約を結んで召喚し、指輪に封じた魔物だった。

 ヘル・ハウンドは常に破壊と殺戮を求める。それらをより効率よく行う為の巨大な体と攻撃力の強化は彼らにとって魅力的な“商品”だった。

 マルドックはそれらを彼らに与えると約束した。

 マルドックは長年の研究で、魔物を巨大化させる方法と地獄の業火と同じ温度の溶けた岩石を魔物の腹に仕込む魔法儀式を知っていたのだ。

交換条件として、マルドックが与えた最強の攻撃力を一度だけ彼の為に使うまで、下僕として働く事を求めた。

この契約は、マルドックが“東の大雪山”への旅立ちに際して、永久凍土や氷壁を溶かす強力な下僕が必要となると考えた為に結んだものだった。

 “東の大雪山”ではその力を使う機会はなかったが、契約は残っていた。

 

 勝負は一瞬だった。

 マルドックは、ヘル・ハウンドに契約の履行、すなわち、地獄の業火を放つように命じた。

2頭のヘル・ハウンドの口から放たれた強烈な火炎放射が、シンと4人の神官を襲った。彼らは忘却の魔法の効果で、現在の状況を一時的に忘れていた。この為、ヘル・ハウンドの攻撃を避ける判断が一瞬遅れた。

 地獄の業火は、人間の身体を一気に灰にするのに十分な温度だ。一瞬の判断の遅れは命取りとなる。

 肉体を灰にまで焼き尽くしてしまえば、蘇生や回復の魔法は役に立たない。マルドックの狙いはそこだった。

 ヘル・ハウンドの火炎放射は、周辺の木々や草花もろとも焼き尽くした。

 もうもうと黒煙が舞い、マルドックの視界を遮った。

 風が黒煙をゆっくりと空へ流すと、そこには灰になった4人の神官と1人の司祭の変わり果てた姿があった。

 契約を終えた2頭のヘル・ハウンドは、宙返りをするように飛び上がると魔界へ還って行った。

 

 戦いが終わり、寺院の庭に静けさが戻った。

 マルドックの心には、虚しさが訪れていた。

 シンは、自分を救おうとしていたはずだ。その男を殺してしまった。その事実は、マルドックを絶望的な悲しみの淵へ追いやるのだ。

 マルドックはしばし目を閉じ、シンと4人の神官を殺してしまった事実を、開きかけた心の扉に押し込み、封印した。

『さて、次は。』

 マルドックは、ここを訪れた目的を思い出した。そう、ティアマトの奪還である。しかし、それは戦いの中で諦めた。

 ティアマトの葬儀は今夜と聞いた。寺院にいるはずの“七惑星の巫女”が、それを執り行うはずだ。

 マルドックは寺院に向かい、足を一歩踏み出した。

『むっ』

 地面の感触が無かった。踏み出した右足は、スブスブと膝まで地面に沈み込んでいく。

 それだけではない。先ほどの戦いでマルドックが突き刺した幅広の剣も地面に吸い込まれていく。左足も沈み始めた。

 マルドック周辺の地面が泥沼のように液状化しているのだ。

 マルドックは、呪文を唱えた。翼を持つガーゴイルを召喚する為である。

 が、声を発しても音が聞こえない。呪文は無効だった。空気が振動を伝えないのだ。

『来たな。賞金稼ぎめ。』

 マルドックは、村で研磨石を求めてきた魔法使いを思い出していた。あの女は賞金稼ぎだった。研磨石が必要だったという事は、自分と同じ召喚士であろう。この土壌の変化は地の精霊、大気の変化は風の精霊を操っているに違いない。

賞金稼ぎはシンとの決着の直後、疲弊したマルドックを狙って攻撃を仕掛けてきた。つまり、ここでマルドックが神官たちと戦う事を知っていたのだ。賞金稼ぎとしては悪くない作戦、いや定石通りだ、とマルドックは思った。

賞金稼ぎの雇い主は、おそらくヌディンムトだろう。それしか心当たりはない。

 ただ、マルドックは、ここにヌディンムトの罠がある事を分かっていながら、あえてやってきたのだ。

 なぜなら、マルドックには負けない自信があるからだ。

 マルドックは右腕に仕込まれた、鎖付き分銅を彼の真上にある大木の高い枝に投げた。

 分銅が枝に絡まると、マルドックはそれを手繰り、泥沼から抜け出そうとした。

 すると、それを見ていたかのように今度は地面が岩のように硬くなり、膝から下が埋まった状態でマルドックは動けなくなった。

『!』

 音は聞こえない。だが、足に伝わる僅かな振動で何者かの気配を背後に感じた。それはかなりの速さで近づいてくる。あの女魔法使いではない。おそらく戦士だ。

 その気配がマルドックの背中に達したとき、マルドックは持っていた杖を頭上に掲げた。

 その直後、両腕にズシリと重い感覚が伝わった。

 魔法の杖は振り下ろされた大剣を防いでいた。

 背後の敵は、素早く大剣を引き、今度はマルドックの足を狙って剣を薙いだ。

 マルドックは身体をねじるようにして杖を下に突き出し、右後ろからの攻撃を受け止めた。

 敵は矢継ぎ早に攻撃を繰り出すが、マルドックは何とか杖でかわし続けた。ただし、防戦一方である。いくつかの攻撃は、マルドックの鎧を裂き、彼にダメージを与えている。

 マルドックは右手に持つ杖で攻撃を避けながら、左手を空へ向けて突き出した。

 左手の指は何かのサインを送っているかのように動いていた。

 そう、彼は空へ向かって指示していたのだ。

 

 死闘を繰り広げているこの寺院の上空に、マルドックは巨大な鷹、カル・サーデュを待機させていた。カル・サーデュは、マルドックによって夜目が利くように強化されている。

 カル・サーデュは、マルドックのサインを受け取ると、旋回の速度を速めた。

 その攻撃目標は、マルドックに斬りかかっている戦士ではなかった。戦いの場から少しはなれた岩場の陰で精霊を操っている魔法使いである。

 カル・サーデュは、上空からの攻撃には無防備なその女魔法使いを見つけると、大きく広げていた翼をたたみ、急降下を始めた。

 

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