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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)            

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第三章 邪悪なるもの

 

(11)

 

「ある事がきっかけで娘は魂を失ってしまった。しかし何の処置もしていないにもかかわらず、肉体は最期のときのままだ。」

「しかし、この方は、亡くなっています。」

「そうだ。」マルドックは平然と言った。「治せないのか。」

「死んだ人間に対しては、魂の平安を祈る事が適切な処置です。」

「“七惑星の巫女”は、一度死んだ人間を生き返らせる力を持つと聞いたぞ。」

「確かにそれは嘘ではありません。」シンに動揺した様子は無い。「お望みですかな。」

「もちろんだ。だからこうして頼んでいる。」

「巫女は神殿から出る事はありません。それをお望みなら私たちにこの方を預けていただきましょう。」

「できるのか。」

「それは保障できませぬ。巫女の業は神の意思が故に。」

 マルドックは少し考えた。ティアマトは“東の大雪山”で命を失った。伝説では“東の大雪山”で死んだ者の亡骸は決して腐敗しないと言われていた。実際、何百年も昔に死んだ者の遺体が氷漬けになって発見されたこともあったという。その伝説をマルドックは聞いた事はあったが、気に留めていなかった。ティアマトの亡骸が死んだときのまま維持されているのを見て、思い出したのである。

 ティアマトの顔は眠っているようだった。魂さえあの世から返ってくればいつでも動き出すことができるように思えた。マルドックは、彼女の亡骸をどうしても葬ることができず、馬車に積んで今日まで連れまわしていたのだ。

 どこかでけじめをつけなくてはならない。マルドックは考えていた。

 そして彼は、一か八か、40年前“空中庭園”で聞いた、“七惑星の巫女”の力にすがってみることを思いついたのだ。同族の頂点に立つ巫女の力でも不可能と分かれば、あきらめもつくというものだ。

シンは巫女の能力について否定はしなかったが、あまりよく知らないようだった。ただ、嘘を言っているとは思えなかった。

「まあいい。どこへ運べばよいのだ。」

「私たちの寺院は、この村の東の丘の上にあります。」

 その寺院の位置は、アルカリンクウェルの手紙に示されていた場所である。マルドックは、そこにヌディンムトの罠があると推測していた。だから彼は行商人に変装し、情報収集の為にこの村へ入ったのだ。

 この神官達がヌディンムトと関係しているかどうかは分からない。だが、マルドックは今すぐ寺院に近づくのは情報が少なすぎると考えた。

「すまんが、明日からわしはここで商売をせねばならんのでな。ここで預かって頂けぬものだろうか。もちろん代金は払うが。」

「よろしいのですね。」

 シンは幌から出ると、4人の神官に棺を運び出させた。

「三日後の同じ時刻に、ここでお会いしましょう。」シンは言った。

 

 マルドックは、誰も居なくなった幌の中で一夜を明かした。

翌朝、彼は行商人として家々を回り始めた。

 もちろん、商売が目的ではない。村人と接する中で、情報を得ようというのだ。

 村人たちは寺院に対して概ね良好な印象を持っている事が分かった。何しろ“お大師様”は、無償で病気や怪我を治してくれるのである。ただ、村人たちは寺院の神官が5人であることは知っていたが、“巫女”の存在は誰一人知らなかった。

 シンが巫女の存在を秘密にしているのは、どういう訳か。

マルドックは、自分ならどうするか、と考えてみた。

やはり、秘密にするだろう。巫女を護るには、可能な限り不確定要素から遠ざけた方が良い。そして、村人と友好関係を築く。寺院は村人たちにとってなくてはならない存在、そして、畏れをも併せ持つ存在にすべきだろう。さらに、神官を生活の中で必要とする仕組みを村に構築するべきだ。そうすれば、いざというときに村人は寺院を助けるし、もし自身に突然の死が訪れても、寺院は維持され、結果的に巫女は護られる。

 

 次の日。村で得られる情報はほとんど前日と同じだった。

 夕暮れ時となり、そろそろ今日の商売も終わりかと思った頃である。

「あら、行商なんて珍しいじゃないの。」若い女の声がした。

 マルドックは声だけで、この客人はただの客ではないと予感した。

「いらっしゃい。」

「村の人から聞いたんだよ。ここに研磨石があるって。」

「ありますよ。ちょいとお待ちを。」

 マルドックは、馬車の荷台で望まれた品を探すふりをして、女の姿を観察した。

 年齢は二十台後半。女にしては長身で、草色のローブを身にまとい、長い黒髪を後ろで束ねている。そして、ローブの袖から覗く腕には金のブレスレット、指には金の指輪を着けていた。

「お客さん、この村の人じゃないね。」

「そうだよ。」女は路上に陳列された他の商品を物色しながら言った。「旅人さ。」

 ただの女が一人でこんな辺境を旅するとは思えない。詮索したい気持ちが湧いたが、あくまでも自分は商人である。このまま話を続けて、逆に詮索されても困る。

「研磨石は5種類です。」

 マルドックは、家庭で刃物を研ぐ為の一般的な研磨石の中に一つだけ高級品を混ぜて出した。

「あら、いいのがあるじゃないの。」女は迷わずその高級品を手に取った。「これを頂くわ。」

「お客さん、お目が高い。」

 マルドックは、この女は魔法使いであると確信した。その高級品は、魔法使いが玉石を磨く為に使うものだったのだ。女は召喚士で、金の装飾品に何かを封じているのだろう。

「お客さん。いい籠手があるんだけど、見てみないかい。」

 これは、女を引き止める為の口実である。実は女用の籠手などなかった。

 女が右手に着用していた革の籠手が傷んでいたので言ってみたのだ。

「本当にいいものがあればね。」

 マルドックは、鎖を編んだ籠手と鋲入りの革の籠手を馬車の荷台から持ち出した。

「どうです。着けてみますか。」

 女はしばらくその商品を眺め、残念ね、要らないよ、と言った。

 マルドックは、商品を持って女に近づいたとき、女の籠手に縫われた紋章を気付かれぬようにそっと見た。

 その紋章は“黒トカゲ”だった。それは、アリア-サンのギルドの紋章である。

『賞金稼ぎ、か。』

 女は研磨石の支払いを済ませると、立ち去った。

 マルドックはその後姿を見送りながら、ヌディンムトの事を考えていた。

『賞金稼ぎなんぞで、このわしを倒そうとでも思っているのか。』

 マルドックは路上の商品を幌に片付けながら、いいや、そう甘くはなかろう、と思い直していた。

 

 

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