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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第二章 空中庭園

 

(9)

 

『残り5人!』

ネルガルは走った。

茂みから数本の矢が発射された。

 ネルガルは大剣で飛来した矢を叩き落とした。

 ネルガルは“百年に一人の男”と呼ばれていた時代を思い出していた。

 あの頃は、いつもこのように走り続けていた気がする。一心不乱に剣の修行に励み、それが正しいと信じていた。

実際、それは正しかったのだ。今の自分が生きていけるのはあの頃の修行の賜物だ。

『しかし、』

ネルガルは思うのだ。心に去来するこの虚しさは何だ、と。

自分は強くなった。しかし、得たものはあまりにも少ない。カネも無く、家族もいない。自分の周りにはいつも屍ばかりだ。

『なぜおれは家族を捨てたのだろうか?』

これまでの人生の中で最も幸せだった時代。それは父と妹の3人の家族で、ひっそりと暮らしていた頃だったように思える。

しかし、自分は自ら家を出た。その理由は今でもよく分からない。

それは、自分の意思ではなく、自分の中にある何かに突き動かされていたのだ。

『その何かとは、』ネルガルは気付いた。『生まれ持つ記憶だ。』

その記憶に動かされた出来事は、家を出たときの他にもう一度だけある。

それは5年前、ネルガルの肩に付けた紋章とよく似た図柄を刻んだ寺院を見たと、ある行商人に聞いたときだった。ネルガルは、なぜかその話に非常に興味を持ち、旅立ったのだ。

その寺院は、小さな村に隣接した丘にぽつんと建っていた。

ネルガルはその村で寺院の事を訊いた。その寺院には長い間誰も住んでいなかったが、10年ほど前から数名の神官が神を祭るようになったと言う。その神官は村人の病気や怪我を治してくれる事から尊敬を集め、村では神官達が寺院から立ち去らないよう、日々供物を納めているという。

ネルガルはその寺院に向かった。そこは寺院と言うより遺跡と言った方が良いほどの、古い建造物だった。なるほど行商人の言ったように自分の肩につけた紋章に似た、二頭の向かい合った獅子のような生き物の周りを蛇が囲む図柄が寺院の外壁に刻まれている。

ネルガルは、そこで5人の神官に出会った。

『確か祭司の名は、』ネルガルの脳裏に、記憶の底に封印されていた光景が甦った。『シンだ。』

 他の4人の神官の名は覚えていない。

 シンは、純白のローブを身にまとい、金色の頭髪を短く刈り込んでいた。身体は長身で、がっしりとした体格をしていた。当時のネルガルと同じぐらいの30歳前後の男だったと思う。

 シンは、村を訪れたネルガルをまじまじと眺めた。そして、お待ちしていました、と言ったのだ。まるで、ネルガルが来る事を分かっていたかのように。

 ネルガルは、寺院に刻まれた図柄の事を訊いた。

 驚いた事に、シンもまたその図柄に惹かれ、20年前にここにやってきたのだと言った。他の4人の神官も同じような理由でここにやってきたらしい。そして、廃墟となっていたこの寺院で修行を積み、神々の神託を受け、10年前に開山したという。

 その神々の名は、“七惑星神”。

 シンは、ネルガルの肩の紋章で、彼を自分たちと同じようにここへやってきた者と判断したのだ。少し歳を取り過ぎているが、今からでも修行をすればいずれ神託を受けられる、などと言っていたような気がする。

 ただ、ネルガルは行動を束縛されるのを一番嫌う性格である。ここで神に仕え、記憶の謎を探るなどという事はありえなかった。彼はもっと手っ取り早い方法を考えながら、シンと4人の神官を眺めた。

 ネルガルは思った。シンは見るからに神官らしく、欲が無さそうな男である。カネはもちろん、俗世間の人々の尊敬や信頼さえも欲してはいなさそうだ。そんな男がなぜ10年前から“開山”と称して、近隣の村で怪我や病気の治療をし始めたのか。

 おそらく、将来に渡ってこの寺院を維持しなければならない何かが、10年前に生じたのだ。

 ネルガルは剣に手を掛け、寺院の全ての部屋を調べさせるように言った。

 シン以外の4人の神官達はとたんに顔をこわばらせ、彼らの武器である銀のメイスを構えた。ネルガルは、ここにいる神官達は何かを隠している、と確信した。それは、ネルガルを突き動かす“記憶”と深い関係があるに違いない、と思った。

 しかしシンだけは、そのはやる気持ちを遮るように悠然と言い放った。ここでは人を殺すことはできない、と。

 ネルガルは、それを挑発と受け取った。すばやく剣を抜き、次の瞬間ネルガルの剣はシンの胸を貫いていた。4人の神官はメイスで攻撃を仕掛けてきたが、ネルガルはその神官を次々に斬り捨てた。

 最後の神官を倒した後、ネルガルは背後に気配を感じた。

 後ろを振り返ると、最初に倒したはずのシンが立っていたのだ。先程と同じ、穏やかな表情をたたえていた。それだけではない。他の4人の神官たちも次々に立ち上がったのだ。

 ネルガルは再び剣を振るい、神官の一人を斬った。しかし、その神官の傷は瞬時に塞がり、ネルガルにメイスを振り上げたのだ。

 ネルガルの心に異様な恐怖が湧き上がった。この寺院での殺生は神の意思に反した行為であり、ここにいてはいずれ自分が神によって殺されると感じたのだ。

ネルガルは逃げ出した。神官は寺院を出て追っては来なかった。

あのときの恐怖は心に刻まれ、永く記憶の底に封印する事となった。

『そうか!』

冷静に思い返してみると、あれは魔法による遠隔攻撃だったと思える。おそらく強力な神官が他にもおり、別の場所から蘇生の魔法で仲間を蘇らせ、心理攻撃でネルガルの闘争心を削いでいたのだ。

 

『しかし、なぜそんな事を今思う?』

ネルガルは我に返った。自分はギリアンゼルで遭遇した蛮族に向かって走っていたはずだ。しかし、今の自分は暗闇の中で立ち止まり、過去の想い出にふけりながら、振り上げた剣先を眺めている。

『くそっ!これも心理攻撃だ!』

その瞬間、ネルガルの視界は暗闇に包まれた。意識を失う直前、最後に彼が見たものは、小柄で切れ長の目をした少女のような女の姿だった。

 

 

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