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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第二章 空中庭園

 

(7)

 

 たどりついたその土地は、昼でも薄暗く、霧が立ち込める湿地帯だった。その湿地帯の先には森があり、森の木々から突き出る形でいくつもの小高い丘が見える。この丘陵とそれを囲う森、網の目のような湿地の重なり合いは、ギリアンゼルに多様な自然を育むと同時に人を寄せ付けない役目を果たしていた。

 ギリアンゼルの広さは不明である。未だに完成した地図も存在しない。今まで何人もの人間がギリアンゼルの地図作成に挑んだが、描くことができなかったのだ。

 地図の作成の為にギリアンゼルに入り、運よく生還した者達は、この地には道を迷わす魔物がいる、と一様に述べた。それは、まっすぐに進んでいるはずがいつの間にか別の方角に進んでいたり、行きと帰りで距離と時間が全く違っていたという現象を指している。このような現象が頻繁に発生するのではとても地図など描けない、というのがその者達の主張であった。

 その話を聞いた者達は大抵、恐怖で頭が狂ってしまったか、単に失敗をごまかしているだけ、と解釈した。しかし、本当のところは誰も分かっていない。

 ネルガルは、そんな土地に地図も持たずに入ろうとするヌディンムトに、「迷ったらどうするつもりなのか。」と尋ねた。

 ヌディンムトはただ、「古文書の調査と数々の目撃証言から、ここにかつて人と共に暮らしていたエルフが居ることは分かっている。入らなくては会うことはできないであろう。」と述べただけだった。

 ネルガルは、案内役は依頼主であるヌディンムトに任せるしかないと考え、自分は用心棒役に徹する事にした。

 ヌディンムトの案内はシンプルなものだった。

毎朝、ヌディンムトは進む方角を示す。日が出ている間、3人はその方向に毎日同じ距離を歩く。そして、ヌディンムトは夜になると、木製の奇妙な器械を組み立て、夜空にその器械を向けて何かを計っていた。そして次の日の朝、新たに進むべき方角が示されるのだ。

用心棒役であるネルガルとシャマシュも休む日は無かった。ギリアンゼルは噂どおり、人を拒絶する大自然と人を狙う敵に満ちていた。噂と違うのは、襲ってくる敵は猛獣や毒蛇といった野生のものがほとんどで、亡霊や悪鬼などの闇の眷属はいなかった事だ。ネルガルとシャマシュは相変わらずほとんど言葉を交わさなかったが、日々襲い来る野生動物との戦いは二人のコンビネーションを確かなものにしていった。

ギリアンゼルに到着してから、3人はこのような生活を2週間続けた。

そろそろ帰りの食糧の心配をしなくてはならない時期にさしかかった夜、ネルガルはヌディンムトに毎晩いったい何をしているのかと尋ねた。

夜空に木製の器械を向けていたヌディンムトは、いつものように何かを書き記した後、ネルガルにこれまでの行動の理由を語った。

ヌディンムトの話を要約すると以下のようになる。ネルガルはこの内容を半分も理解できなかったので聞いたことを後悔した。

 

 「古代人はエルフと仲が良かったようだ。」とヌディンムトは言った。

古代王朝時代にはエルフの一支族が人間と共生していたようだが、王朝崩壊後は魔法使いと共に姿を見せなくなったらしい。

「彼らからすれば、魔法族が消えた後の人間は全て蛮族に見えただろう。居づらくなって妖精界に帰ったのではないか。」と、ヌディンムトは付け加えた。

 ヌディンムトは、妖精界と呼ばれるエルフの国への入口は、巧妙な結界によって隠されている事を知っていた。その事は古代遺跡から発掘された文献から得た知識だという。その文献には、かつて古代王朝の知識の支えになっていたエルフの一族が好んで使用した結界についての詳細な記述があったらしい。

 ヌディンムトは難解な文献の内容を、ネルガルにも理解できる言葉に置き換えて説明した。

物が見つけられるという事、それは物質が光を反射し、その光を人間の目が捉えるという事である。もし探している物が光を全く反射しなかったら、人間はそれを見つけることができないだろう。妖精界への入口はそのような仕組みで隠されているという。

それでは、光を反射しない物を見つけるにはどんな方法があるのだろうか。ヌディンムトは、「見えないものを見つけるには、それが外部に与える影響を探ればよい。」と語った。

光を反射しないところには、光を逃さないほどの力を持った強い重力場が存在するという。重力場が外部に与える影響は、別の古文書に記述されていた。その影響とは、重力は時間と空間を歪める性質を持つという事だった。通常その歪みは微弱で人間が感じることはできないものだが、エルフ達はそれを的確な位置に複数配置する事で、森を迷路のように感じさせる技術を持っていたとされる。

「何人もの人間がギリアンゼルの地図を描こうとして失敗しているのは仕方の無い事だ。時間と空間が歪められた場所は、人間の普通の感性では地図は描けない。地図とは、平面に一つの縮尺で地上にあるものを描くものだから、その縮尺が歪んでしまっては描ける筈がないのだ。」何故かヌディンムトの話し方は誇らしげだった。

毎晩ヌディンムトが器械を使って調べていたのは北極星の方角だった。夜空の星の中で北極星だけは、常に同じ方角に見えるといわれている。ヌディンムトは前夜と北極星の角度の違いをチェックする事で、その日の移動でどの方向にどれだけの歪みが生じたかを確認していたのだ。

その歪みから重力場の方角を計算し、翌日に進むべき方角を決めた。日中はその方角に前日と同じ距離を進み、再び夜になると北極星の位置から歪みをチェックした。

前の夜より歪みが大きくなっていればエルフの国へ繋がる入口は近づいたと判断し、その逆なら離れたと判断する。その作業を繰り返しながら、“見えない入口”を探していたのだ。

ヌディンムトの計算では、あと数日で“入口”に到着できるという。

しかし、そこに到着したとき何が起きるのか、そしてどのようにしてエルフに会うのかについては、「行ってみれば分かる。」とヌディンムトは答えただけだった。

『つまり、行ってみなけりゃ分からない、って事か・・・。』ネルガルは思った。

 

 ヌディンムトは話し終わると器械を片付け、野営のため木々の間にしつらえた簡単な天幕の方に向かって行った。

 そのとき、ネルガルの耳に空気を切り裂く風の音が聞こえた。

ネルガルは反射的に身を伏せた。その音は飛来した矢の放つ音だった。それが通り過ぎたのを確認し、顔を上げ、どこからの攻撃なのか、全方位に神経を尖らせた。

次の瞬間ネルガルが見たものは、倒れたヌディンムトの姿だった。

 

 

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