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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第二章 空中庭園

 

(6)

 

 伝えられる歴史がほとんど無い“暗黒時代”にあっても、都市の遺跡はかつてそこに存在した人々の暮らしを教えてくれる。

 しかし、人類の全てが都市国家に生きていた訳ではない。

 戦争で打ち破れた国家の残党や迫害を受け町を追われた難民、獲物を求めて流浪を続ける狩猟民族など、都市の記録に残らない人々はいつの時代にも存在する。

 彼らは人里離れた森林や荒野に棲み、都市住民の目に触れることはほとんどない。ただ、その中でも武装化した集団はしばしば町や村を襲い、略奪した。都市住民から“蛮族”とひと括りで呼ばれる者たちである。彼らは怪物や悪魔と変わらない、またはそれ以上に危険な存在とみなされていた。実際に亜人との交配を経て、別の種族になってしまった集団もあると噂されていた。

 慣れた旅人は、彼らの棲む地には決して近づかない。それは都市生活を拒絶された人々に対する礼儀とも考えられていた。

 

 ギリアンゼルと呼ばれる丘陵地もそんな土地の一つである。

 そこは、巨人族やオーク、ゴブリンなどの亜人、穴居人や人食い人種などに混じって、武装化した蛮族が棲むといわれる未開の地域だった。

 ネルガルは、旅の目的地がギリアンゼルである事を聞かされたとき、背筋に冷たいものが流れる思いがした。

 これまで賞金首を追い、荒野を旅したことはあるが、“ギリアンゼル”と“東の大雪山”だけは捜索対象から外していた。そこは人間が生きていくには過酷過ぎる環境である為、賞金首さえも近付くことは無いと考えられたからだ。賞金首が人間以外の場合は、それらの地域に逃げ込む前に討ち果たす事が賞金稼ぎの定石とされていた。

 しかし、「エルフの住む土地」がギリアンゼルであると知らされたとき、ネルガルはさもあろう、と思った。

 ネルガルは父からエルフの話をたびたび聞かされていた。エルフは森に住む妖精で、人が森に入るとすぐに森の奥にあるエルフの国に帰ってしまう。そのため人の目に触れることはほとんどない。そして、エルフの国へと通じる場所は、人を寄せ付けない、手付かずの自然が残っている場所であるという。それはまさにギリアンゼルのような土地であった。

 ネルガルの育ての親である父は、主に精霊信仰の祭礼で召喚儀式を行う“精霊使い”と呼ばれる魔法使いだった。その父によると、精霊を呼び出す技術は人間の先祖がエルフに教わったものだという。エルフは精霊の国と人間の世界を自由に行き来できる存在であるが故にその両者に通じているという事だった。

ただ、ネルガルは父から精霊召喚の術を受け継いでいない。それを伝授される前に家を出たからだ。

ネルガルの妹――名をフーレイという――が父の後を継いだのかどうか、彼は知る事はできなかったが、それはすでに思い出すことの無い過去の記憶になっていた。

 しかし、思わぬところで彼はそれを知る事になった。

 依頼主ヌディンムトの弟子、ラフムとラハムの報告書に、フーレイという賞金稼ぎの事が書かれていたのだ。

 フーレイは風の精霊シルフを召喚し、操っていた。四大元素のうち、風の象はネルガルの父が最も得意としていた分野である。そして20代半ばという年齢も、文書の中の人物が自分の知るフーレイと同一である事を確信させた。フーレイは間違いなく父の技を継いだのだ。

『しかし、なぜ賞金稼ぎなどに・・・。』

 そこまでは文書から読み取る事はできなかった。

 

 ともかく、ネルガルはその文書を読んだ見返りに、ヌディンムトとシャマシュと共にギリアンゼルに旅立つ事になった。

 リドンの町からギリアンゼルは、2ヶ月の道のりだった。その間、ネルガルはシャマシュとほとんど口を利かなかったが、ある事件を境に彼の感情に変化が生まれた。

 それは、シャマシュの戦い方を見たからだ。

 ギリアンゼルに近付くにつれ、魔獣や亜人の集団に遭遇する回数が増えた。ヌディンムトの意向でなるべく無駄な戦いは行わないと申し合わせていたが、少し知恵のあるオーク族の待ち伏せに遭遇した場合、戦わざるを得ない。

 そんなとき、シャマシュは剣を抜かず、棒立ちの状態で敵に身を晒した。オークは当然シャマシュに向かい、集団で攻撃する。しかし、シャマシュは身構えることすらしない。オークの刃が身を刺す直前になって、シャマシュは刃を受け流した。オークのその後の集団攻撃も最小の身の捌きでかわし、ときには左腕に装着した盾で受け止める。オークの攻撃は全くシャマシュの身体に届かない。

 ネルガルはシャマシュの行動の意味をすぐに理解した。

 シャマシュはわざと敵の攻撃の的になっていたのだ。そもそもシャマシュが身に付けた派手な装飾をあしらった剣や鎧は良く目立つ。その上隙だらけとあれば、知能のある敵なら必ずシャマシュを第一の標的とするだろう。そこで、敵をぎりぎりまで引き寄せて攻撃をかわすことでヌディンムトとネルガルが標的とならぬよう、シャマシュは人柱になっていたのだ。実際オークとの戦いでは、シャマシュを倒そうと必死に波状攻撃を仕掛けたオークたちをネルガルは背後から襲い、難なく倒すことができた。

 ネルガルは、この戦い方は腑抜けではできない、と思った。賞金稼ぎの戦いでは先制攻撃が定石である。それがほとんど勝敗を決めるといっても良い。その先制攻撃をあえて相手に譲り、敵の集中攻撃を受けることで相手に隙を作らせるという戦い方。それは、よほど防御力に自信がないとできないことだし、勇気の要る行動だった。

 その夜、野営のため焚き火を囲んでいたとき、ネルガルはシャマシュに初めて口を利いた。

「おれが傭兵としてリドンの戦いに参加したとき、騎士団はあんたのような戦いをしていなかった。あれはなぜだ?」

「騎士団も世代交代が進んでおってな、」いつもの落ち着いた声でシャマシュは話した。「先代の君主が身を引くとき、君主たっての願いで古参の騎士は指揮権を手放したのだ。若い騎士団長の戦い方と私の戦い方が違うのは考え方の違いだ。」

「それだけではあるまい。」口を挟んだのはヌディンムトだった。「今の騎士団は傷つくのを恐れているのではないか。シャマシュのような昔の騎士は、防御力に絶大な自信を誇っていたし、またそれだけの鍛錬もしておった。意外に思えるかもしれぬが、防御力の高い騎士団が先頭に立って敵の標的になることで、全体として自軍の被害は減るのだ。あの勇気は当時の騎士団にしかない。」

「ヌディンムトよ、見もしない事をよくそこまで言えるものだ。今の騎士団も昔と変わらぬ勇気をもっておるぞ。」

「そうかもしれぬな。しかし、おぬしは手紙一つで騎士位を返上し、主君に謁見もせずにわしと旅に出た。わしが思うに・・・。」

「その通りだ。」シャマシュは穏やかな口調だ。「私は今の君主や若い騎士団長とは意見の違いがあり、疎まれておる。勝手に国を出て行ってくれて今頃せいせいしておるだろう。ただ、その事と今の騎士団の勇気とは別の話だ。」

「もういいさ。」ネルガルは言った。「理由は何となく分かった。」

 ネルガルのシャマシュに対する気持ちに変化があったのは、この会話の後だった。おそらくシャマシュもギルドを脱退した頃の自分と同じく、自らの戦い方に絶大な自信を持っていて、それを貫いていたのだろう。

しかし、それだけでは生きられない事をネルガルは知っていた。君主が変わり、指揮権も剥奪された。国が引き止めることも無かったという事は、おそらく閑職に追いやられていたのだろう。その上、家族を疫病で亡くし、シャマシュも自分と同じく、死に場所を探しているような気がしたのだ。

 

 

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