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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

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(7)(8)(9)(10)(11)
(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11) 

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第二章 空中庭園

 

(3)

 

 その騎士は大柄な60歳前後の男だった。上質な毛皮で作られたマントで身を包んでいたが、厚い胸板と首から肩へ盛り上がった筋肉が想像できた。マントの隙間からは装飾があしらわれた長剣の柄が見えている。騎士は一人の従者を従えていた。従者は椅子に腰掛けた騎士の後ろに立ったまま、ヌディンムトの座るようにという言葉にも応じなかった。彼もまた、騎士と同じくらいの年齢の男だった。

「お久しゅうございます。ヌディンムト様。」

従者はこのようにヌディンムトに声をかけた事から、旧知の間柄であることが分かる。

 ヌディンムトはネルガルに騎士の紹介をした。

 騎士の名はシャマシュ。リドン公国に仕える騎士団に所属している。かつては戦場での功績で、今は軍師としてリドン公ルシアから信頼を得ているという事だった。

 シャマシュの身なりからしても、かなり高位の騎士のようである。

「ところでよう、あんた達は知り合いみたいだよな。どんな関係なんだい?」

 ネルガルの礼を欠いた物言いは、強さだけを全ての基準とする賞金稼ぎとしては普通である。

「そうだな。簡単に説明しよう。」

 ヌディンムトは、約20年前まで宮廷魔術師としてリドン公国に仕えていたという。よって、シャマシュの従者のように20年以上前の宮廷を知る者には顔を知られているという事だった。

「この男が、そうなのか?」シャマシュはヌディンムトに訊いた。野太い声である。

「そうだ。他にも二人、若い弟子がおる。まだこの男に説明してはおらんがな。」

 ネルガルは何か言いかけたが、ヌディンムトはそれを遮るように言葉を続けた。

「これでわしが呼び寄せた二人は揃った。まず、なぜマルドック一味の討伐が必要かという話をする前に、我々の出生について話を聞いて欲しい。

 ネルガルには幼年期の話を聞いたが、ここにおるシャマシュとわし、そしてマルドックにも産みの親はいなかった。ものごころついた頃には一緒に暮らしておったのだ。

 しかし、ただの孤児ではなかった。わしらには何やら妙な記憶が刻まれておったのだ。わしは誰にも教えられてもいないのに、古代文字が読めた。そのお陰で若くしてリドンの宮廷魔術師にもなれたのだがな。

ネルガルよ。そなたの紋章だが、それは『自分で考えたもの』と言ったな?」

「ああそうだ。」ネルガルはぶっきらぼうに応えた。

「その紋章は、古代王朝の遺跡にあった図柄と瓜二つだ。おそらくそなたにも生まれ持つ古代の記憶があるに違いない。」

「くだらん。」ネルガルは横を向き、わざと興味の無いふりをした。

ヌディンムトは続けた。

「そして、名前。わしとシャマシュ、マルドックの育ての親にネポという男がいるのだが、その男によると、わしらは拾われたときに自分の名だけははっきりと名乗ったという。そしてその名前は――後で分かった事だが――全て古代遺跡に神の名として刻まれたものだったのだ。もちろん、ネルガルの名もそこにはあった。

わしは、『賞金稼ぎネルガル』の噂を4年前に聞いてから、同じ出生を持つものではないかと疑っておった。そして、今日それが確かめられた訳だ。」

 ヌディンムトはマグカップを持って乾杯のポーズを取った。ネルガルは無視して言った。

「そんな事は単なる偶然だ。それより、仲間だったマルドックを斃す理由を早く話せよ。」

「それは、昔々の話・・・。」ヌディンムトは目を細めた。「わしとシャマシュ、マルドックは若い頃、3人で冒険者稼業をしながら古代遺跡の調査をしておったのだ。

 わしらは自分達の出生の秘密を知ることを渇望しておった。その為にネポの元から旅立ち、がむしゃらに遺跡に入り、古代文字を読みあさっていたのだ。――今思えば、あの頃の無謀な情熱が今のわしらをかたち創っている。

 二十歳前後の冒険だったろうか。わしらに転機が訪れた。

 その洞窟には巨大な魔人がおった。下級の悪魔だったが、何千年も前からそこで世に負の力をばら撒いておったのだ。

 我々になぜ古代の記憶があるのか――その事をどんなことをしてでも知りたいと考えていたわしらは、魔人の年齢に興味を持った。過去の世界の事を知っているかもしれないと思ったからだ。

 ただ、魔人も甘くは無い。こちらの質問に対し、交換条件を出してきた。

 その条件とは、将来シャマシュとマルドックは娘を持つことになるから――下級の悪魔とはいえ、ある程度、人の運命を知る力を持っていたようだ――その娘が死んだ後、娘の魂を魔人に捧げる契約をするというものだった。

 その見返りとして、魔人は彼の知る過去の人間界の記憶と、死ぬまで若い肉体を維持する力を与えるというものだった。

 わしはこの契約は危険だと感じた。魔人は何千年もこの洞窟から出ていないと思われ、人間界の事はほとんど知らないと考えられたからだ。シャマシュも同意見だった。

 しかし、マルドックだけは違った。2番目の条件、『死ぬまで若い肉体を維持する力』が自分の人生の目的を達する為に必要であると主張したのだ。

 わしらはマルドックを必死で説得した。しかし、ついにマルドックはわしらに剣を向けたのだ。わしとシャマシュはそこでマルドックと一戦を交えた。――今思えば、わしらは魔人の心理攻撃を受けていたのかもしれない。

 しかし、わしとシャマシュはマルドックと本気で戦う気にはなれなかった。わしら二人は戦いを回避し、マルドックを残して洞窟を出た。ここでマルドックと袂を分かち、別々の道を歩む事になったのだ。

 わしらはマルドックの事を忘れるように努めた。マルドックはあの後、魔人と契約したかも知れぬが、その目的は自らの出生の秘密を死ぬまで調べ尽すという事であった為、わしは奴がわしらと別の道を歩んだに過ぎないと考えていた。

 わしとシャマシュはその数年後、このリドンに仕官した。これは、われらなりのマルドックとは違うアプローチなのだが、二人でこのまま遺跡調査を続けても、せいぜい年に1、2件の調査ができるだけだ。それよりもどこかで根を下ろし、足場を固めた上で組織の力を借りて調査をした方が、長い目で見れば目的に近いのではないか、という判断をしたのだ。

 また、もっと現実的な話として、生活の問題もある。マルドックは死ぬまで若い肉体を手に入れたかも知れぬが、わしらは生身の人間のままだ。マルドックが考えたように年をとれば思うように働けなくなるということも理由にある。

 先代のリドン公ゴードン三世は、聡明な、実力主義のお方だった。そのお陰でわしは宮廷魔術師となり、シャマシュは騎士位を与えられるまでになった。ただその道のりも平坦ではなかった。わしが仕官していた15年間、リドンは激動の時代だったのだ。“神聖同盟”の崩壊時には、シャマシュは何年も遠征し、わしは各国との折衝にあたった。激務の中でわしは当初の目的を忘れ、ほとんど思い出すことも無くなっていたのだ。」

ヌディンムトはここで初めて、ラム酒を口に運んだ。「しかし、それは“ある事件”が発覚するまでの事だった。」

 

 

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