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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第二章 空中庭園

 

(2)

 

 ヌディンムトと名乗った男は、年齢は60歳前後に見えた。痩せた身体に灰色のローブを身に付けている。白い髪は長い口髭とつながり、顔全体を覆っていた。

 ネルガルは禿げ頭の店主にラム酒を注文した。その間も、ネルガルはヌディンムトの様子を伺っていた。一般的に賢者の風体をした人間はあまり賞金稼ぎを雇えるようなカネを持っていない。ただ、指にはめているいくつもの指輪には宝石が付いていた。

『カネが無くてもあれを全部いただければ何とかなるか。』ネルガルの査定は終わった。

 ネルガルとヌディンムトは一通りの自己紹介を済ました後、契約どおり、ネルガルは幼年期の記憶である父との山小屋での生活から家を出るまでの話をヌディンムトに聞かせた。難しい事柄で無い限りは、契約条件に入っている事は淡々とこなすのが習わしとされている。

 ネルガルの話をヌディンムトは目を閉じて聞いていた。話が終わっても彼には変化が無かった。

「さあ」ネルガルはイラついた口調で言った。「話はここまでだ。仕事をくれるのか?」

「おぬしの話では、出生は分からんのう。」ヌディンムトはゆっくりと目を開けた。

「それは仕方が無い。どこの孤児院にいたかも覚えてないし、聞いたことも無い。」

「気にはならんのか。」

「いまさら気にしてもしょうがないだろ。今のおれにとってはどうでもいい事だ。」

ネルガルはそう言ったが、それは嘘だった。自らの出生を父に問い詰める決心に至るまでの時間が長かった分、その気持ちは今でも強烈に彼の心に残っている。

 ヌディンムトはそんなネルガルの心を見透かしているかのようだった。

「おぬしの肩当てについている紋章の由来を教えてくれぬか。」

ネルガルの肩当てには、2頭の向かい合った獅子のような生き物と、それを取り囲む蛇の図柄が刻まれていた。

「ああ、これか。これは、おれが子供の頃、落書きで書いた絵を元に作った紋章だ。ギルドを辞めたときに『黒トカゲ』の代わりに付けたんだ。」

「何かを真似したのか?」

「いや、これはおれが考えたものだ。親父によると初めて書いた絵がこれだったらしい。だからこそ、おれ自身の紋章にしたのだ。」

「ふむ。」ヌディンムトは再び目を閉じ、思索しているようだった。

 そのとき、ネルガルはあることを思い出した。かつて、この紋章がきっかけで、ひとつ戦いをしたのだ。

それは、斬っても斬っても立ち上がる不死身の敵との悪夢のような戦いの末の敗北であった。古傷の一つとして心に刻まれている。

ネルガルの顔はこわばり、険しい表情となった。

『あの戦いは・・・』

ネルガルは、脳裏に甦りつつある記憶を封印した。

『ここで話すべき事ではない。』

 

ヌディンムトはいつの間にか目を開け、ネルガルの表情の変化を見ていた。

「よろしい。仕事を請けていただこう。」

ネルガルは内心ほっとした。「で、仕事の内容は?」

「わしとわしの仲間と共に、ある男を斃して欲しい。」

「ある男とは?」

「名をマルドックという。魔法戦士だ。」

「どこのどんな奴なのだ?」

「どこに棲んでいるのかは分からないが、出没しそうなところは調査してある。それは後で話そう。

 マルドックは魔人に帰依した男で、強力な魔法を使う手ごわい相手だ。また、数名の魔法使いを従えているので厳しい戦いとなる。」

ネルガルに緊張と期待がみなぎった。久々に力を発揮できる仕事のようだ。

賞金首がドラゴンなどの人智を超えた存在ではなく、人間であれば飯を食うし、生活がある。ネルガルには探し出す自信があった。目標を発見さえできれば暗殺する策はいくつもある。

「分かった。いいだろう。ただ、一つ問題がある。おれは他の誰かと一緒の戦いを好まない。お前さんと共に戦うというのは受け入れられん。」

「この戦いは失敗を許されない。おぬしは戦士、わしは魔術師だ。魔法使いを相手にした戦いには魔法を使う仲間が必要な事ぐらい分かっておろう。」

「おれは戦士である以前に賞金稼ぎだ。」ネルガルは語気を強めた。「請けた仕事はやり遂げる。」

その言葉の裏には、賞金と冒険で手に入る副産物の分担方法があることをヌディンムトは読み取っていた。

「まあよい。その判断は詳しい説明を聞いた後でも遅くはあるまい。」

禿げ頭の店主が酒を運んできたので、すこし間をおいた。「今は酒でも飲むがいい。」

ネルガルはテーブルに置かれたマグカップをあおった。安いラム酒が喉を通った。

「で、コレの報酬の話なんだが・・・」ネルガルはもったいぶった口調になった。

「成功報酬の前に1年か半年の旅の費用が必要だ。お前さんに出せるのかい?」

「その心配は無い。わしは一文無しのようなものだが、これからここに来る男が支払うだろう。」

「誰が来るんだ?」

「わしの古い友人。リドンの聖騎士。」

「リドン? これはお国の仕事なのか?」

「いいや違う。あくまでも私闘だ。」

「こりゃ驚いた。リドンの騎士様が私闘に参加するのかい?」

ネルガルはおどけて言った。ヌディンムトは表情を変えない。

「騎士の戦いは、国の戦いと同義ではない。騎士の道理に基づいていれば私闘もありえなくはない。」

「そんな騎士がこのリドンにいるものか!」ネルガルは声を荒げた。

「おれはリドン軍の傭兵として何度も戦いに出たが、リドンの騎士は腑抜け揃いだったぜ!」

そのとき馬の蹄の音が聞こえ、店の外で止まるのが分かった。

「腑抜けかどうかは、実際に会って確かめる事だな。」

 

 

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