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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第二章 空中庭園

 

(16)

 

「お気づきかもしれませんが、アルカリンクウェルは人間とエルフの間に生まれた娘です。人間の言葉で表すと、“ハーフエルフ”という事になります。」

 ネルガルはその事実に気づいていなかった。言われてみればアルはエルフの特徴である尖った耳や切れ長の目が、他のエルフと比べて人間に近い。

 ネルガルがまじまじと顔を見つめた為、アルは恥ずかしそうに目をそらした。ネルガルもそれに気づき、視線をウィルラスの方に戻した。

 ウィルラスは少し間をおき、話を続けた。

「アルカリンクウェルの父親は人間で、名をマルドックといいます。」

「な、何っ!?」ネルガルは驚き、再びアルの顔を見た。

「父を知っているの?」アルがすかさず訊いた。

「いや、顔は知らないが、名前だけは知っている・・・。つまりその・・。」

 ネルガルは口ごもった。マルドックの娘に、自分が追っている賞金首だとはとてもじゃないが言えない。

『それにしても・・・。』

ネルガルは、まだ見知らぬマルドックという男に、先制攻撃を受けたような衝撃を感じた。彼がかつてここを訪れていた事は知っていたが、エルフとの間に子まで儲けていたとは、彼の規格外の人間性、男としての生命力の強さを垣間見たような気がしたのだ。

「マルドックは木星神の名を持つ人間で、あなたと同じ、“最後の王”の血筋の方です。それはご存知でしょう。」

「まあ、そこまでは知っている。」

「彼は40年ほど前、ここへやってきました。われわれにとっては“最後の王”以来の人間の来訪でした。私たちは、彼を王として迎えたのです。」

「マルドックは、王を名乗ったのか?」

「いいえ。彼は最後まで玉座には座りませんでした。彼もまた、あなたと同じく王を自認していなかったのです。

私たちが彼を人間の王であると考えたのは、彼が“空中庭園”の周囲に張られた結界をたった一人で突破してきたからです。彼が通った秘密のルートは、代々の王だけに受け継がれていたものでした。さらに、彼は巨大な鷹に乗って空からやって来ました。その姿は、かつてグリフォンに騎乗していた“最後の王”さながらだったのです。

こうした理由で、私たちは彼を王と同様の待遇で迎えました。そして求められるままに過去の知識と伝承を与えたのです。」

「マルドックは、結界を通過する方法をどこで知ったか話したか?」

「彼は、『ここに来る方法は、生まれたときから知っていた。』と言いました。」

 ネルガルは、それは自分の記憶に“グリフォンとウロボロスの紋章”があったのと同種のものであろう、と推測した。

「彼は最後にエルフの女を求めました。われわれは一族から一人の娘を選び、彼に与えました。ここで彼らは婚姻の儀式を行ったのです。

そして、まもなく二人の間に子が生まれました。それがアルカリンクウェルです。」

「アルは、マルドックを覚えているのか?」

アルは首を横に振った。

ウィルラスは言葉を続けた。「彼はアルカリンクウェルが生まれた後、すぐにここを立ち去りました。彼は立ち去る前に、彼の妻に娘の運命を告げました。」

『!』

 ネルガルは思い出した。マルドックは、魔人から老いる事のない肉体を得た代償として、娘の魂を魔人に与える契約をしていたのだ。

「アルよ、お前はその運命を知っているのか?」

 アルは首を縦に振った。

「自分の子に課せられた過酷な運命をただ伝えて立ち去るとは、何たる男だ。」

「あなたはそこまで知っていましたか。」ウィルラスの声は穏やかだった。「われわれはその事をあなたほど深刻には捉えていません。なぜなら、アルカリンクウェルがエルフとして生きる道を選んだならば、つまりこの“空中庭園”で暮らすならば、人間の死はありえないからです。」

 ネルガルは、未だ見ぬマルドックにとどめを刺されたような戦慄を覚えた。

 マルドックが廃墟のエルミアでヌディンムトに言った“奇策”とは、この事だったのだ。魔人との契約は、『娘の“死後”の魂』を与える事だった。その娘が無限の寿命を持つエルフの血を引く者ならば、どうなるのか。その契約は永久に履行されないに違いない。

『恐ろしい男だ。魔人との契約を手玉に取るとは。』

ネルガルの脳裏に、そんな男に勝てるのか、という考えが浮かんだ。

『いや、』ネルガルは賞金稼ぎらしからぬその考えを否定した。『人間ならば隙はある。必ず倒す事はできるはずだ。』

 ウィルラスは続けた。

「しかし血は争えないものです。アルカリンクウェルの人間の血が、彼女を外の世界へ向かわせました。」

「そんないい加減な気持ちじゃないよ。」アルが割り込んだ。「あたしはエルフの道を選ぶか、人間の道に進むか未だ決めてないけど、それと魂の行き先とは別の話。避けられない運命があるなら、エルフであれ人間であれ、戦うべきだと思うの。」

「何を言うか。お前に半分エルフの血が入っているのは、マルドックの罪滅ぼしのようなものだ。お前の魂を救う為の、奴の奇策なのだよ。」

ネルガルが子供をたしなめるように言った。ただ、見た目は子供だが、アルはマルドックが40年前に成した子であるならば、ネルガルと同じぐらいか、それ以上の期間は生きているはずだ。

「でもその選択の権利はあなたや父にではなく、あたしにあるの。だって、あなたの父親があなたの死後の魂を悪魔に売り渡していない、という証拠はあるの? 死んだ後じゃないと、魂がどこへ行くかなんて分からないじゃないの。」

 妙な論理だが、なぜか説得力があった。ネルガルは生みの親の顔を知らない。親が自分にどんな運命を授けたかなど、知る由も無い。

「あたしの父はそれを私に教えてくれたの。それは、あたしの命に目的を与えてくれたって事。だって、あたしがその契約さえ破棄すれば、少なくとも悪魔の下へ行く事のない魂になるはずだよ。」

 ネルガルはその気持ちを少し理解した。アルなりに自分の出生にけじめを付けたいという事だろう。

「しかし、マルドックは今や魔人の側の人間だ。戦う事になるかも知れんぞ?」

「それは覚悟の上。父もそれを感じているはずよ。」

「まあいい。だが、それでなぜお前は森で蛮族と一緒に暮らしていたのだ?」

「それはね、あたしは父の顔を知らないけど、手紙のやり取りを続けているの。あの鷹が運んでくれるんだよ。」アルは頭上を指した。覆い茂る巨木の枝の上に、翼を閉じた巨大な鷹が視線を空に向けているのが見えた。「あれは父の鷹。ここへ来るルートを知っていて、よく羽根休めに来るの。彼が運んできた父の手紙に、いずれ旧友がギリアンゼルに来るって書いてあった。そして、その人は、あたしと共に魔人と戦ってくれるはずだって。だから、あたしは森で待っていたの。あなたが来るのを。」

「それはとんだ見当違いだったな。」ネルガルは苦笑した。「お前の父の旧友は、まだギリアンゼルの森にいるはずだ。

それは二人のじいさんの事だよ。」

 

 

  

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