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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第二章 空中庭園

 

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「その魔法文明の支配者が、“最後の王”の一族なのだな?」

「そうです。この“空中庭園”に住む私たちの一族はルヒューを授けられたあなた方の祖先を尊敬し、エルフの知識と伝承を与えていました。人間の王もこの“空中庭園”を建築し、代々に渡りわれわれを保護しました。」

「“空中庭園”は人間が作ったものなのか?」

「そうです。王朝の錬金術師は空気よりも比重の軽い土壌を創り出し、このような建造物を空中に浮かべる事ができたのです。そして王は魔法生物グリフォンを自在に操り、地上と往来していました。」

「しかし、おれはアルに手を引かれてここに来た。グリフォンなど使っていないぞ。」

「かつての“空中庭園”はその名前の通り、人間界の空に浮かんでいました。グリフォンが登場するのはその時代の話です。」ウィルラスは記憶をたどるように目を細めた。「“最後の王”が最期にここを訪れた日、彼は王朝の崩壊を告げました。彼は私たちエルフを護る事を約束し、立ち去りました。彼の最後の訪問から私たちは歳を取りません。つまり、あのとき以来“空中庭園”は人間界の空にではなく、エルフの故郷に在るのです。」

「“エルフの故郷”とは、妖精の世界ということだな? ここは妖精界なのだな?」

「そう考えて結構です。われわれは、自らの王朝の終わりに際してもそのようなはからいをして下さった“最後の王”への恩義を記憶し、その血を引くあなた方には王と同じく、エルフの知識と伝承を授けます。」

「王朝の崩壊の原因は何だ?」

「残念ながら“最後の王”はそれを私たちに告げませんでした。

ただ、あなたはこれからどこへ行くのか、という質問に対して、彼が言った言葉は、『テームへ』でした。」

「テーム・・・」ネルガルはマルドックが“奈落の門”をテームと呼んでいた事を思い出した。「テームとは何だ?」

「テームは、“最後の王”がその生涯を懸けて創造したものです。

 彼のルヒューは代々の王たちの中でも卓越していたのです。その力で、数々の魔法の品や魔法生物を発明し、人々に富を与えていました。

 また、彼はこの“空中庭園”を頻繁に訪れ、われわれに過去の様々な王朝や権力の崩壊の話を聞き、その原因を考察していました。

 彼はその集大成として、“永遠の王国”を建設しようとしました。今思えば、それは王朝の崩壊を予感していた事の裏返しだったのかもしれません。

 “永遠の王国”を実現する手段である――“最後の王”はテームについてそう述べていました。

 テームはそれ専用の神殿に封じられ、限られた魔法使いとある者達だけがそこに入ることを許されていました。」

「“ある者達”とは?」

ウィルラスは少し間をおいた。「それは、生け贄です。」

「生け贄だと?」ネルガルは睨むようにウィルラスを見た。「生きた人間か?」

「私は神殿で何が行われていたかは知りません。ただ、罪人を中心とした人間達が一度その神殿へ入れば、二度と出てこないことはよく知られていました。

 何千人もの生け贄と、何人かの優秀な魔法使いの犠牲を経て、テームは創られたのです。」

「もう少し具体的な説明はできないか。例えばテームの姿かたちはどんなものなのだ?」

「私はテームを見たことがありません。ただ、“空中庭園”がテームの収められた神殿の上を通過したとき、急激に高度を下げた事を覚えています。つまり、テームは強力な重力場を伴うものであったようです。」

テームが重力場を伴うという事実は、確かに“奈落の門”のイメージと一致する、とネルガルは思った。

「しかし、そのテームは、今では町を滅ぼし続けている。“永遠の王国”とはまったく反対の行動のように思えるが、それは何故だ?」

ウィルラスはかぶりを振った。「それは『王のみぞ知る』です。」

 

 ネルガルは、自分なりに話をまとめてみた。

 古代魔法文明の発祥は、ディンギルと呼ばれる神がルヒューという魔力を太古の人間の一族に与えた事から始まる。

 ただし、これは人間が文明化される前の太古の伝説で、エルフの伝承にも詳しい話は無い。エルフとしては、ルヒューを授けられたのは人間なのだからディンギルについては人間が伝承するべきだ、という考えのようだ。

 実際、自分の心の中に“ディンギル”という言葉は刻まれていた。ただ、それはイメージのみで、はっきりとした事は分からない。

 幼年期から自分の心にあった一つの記憶、“2頭の獅子とそれを取り囲む蛇のような生き物”は、“グリフォンとウロボロス”だった。それは、ルヒューを授けられた一族が興した古代魔法王朝の“最後の王”が用いた紋章だった。ルヒューは古代王朝時代、“七惑星神”として認識され、“最後の王”はその神々に仕える巫女を保護していた。七惑星神の寺院に同じ紋章があった理由はそれだ。

 これらの事実は、自分が“最後の王”と同じ、古代魔法王朝を支配した一族と何らかの関係があるという事を示している。

 “最後の王”は頻繁に空中庭園を訪れ、エルフに過去の話を聞いていたという。半永久の寿命を持つエルフと接することで、永久不滅の存在への憧れが芽生えたのではないか。

その憧れが、“永遠の王国”を求めたのではないだろうか。

“永遠の王国”とテームがどんな関係にあるのかは分からない。

 ただ、その後王朝が崩壊したとき、エルフに行き先を訪ねられ、“最後の王”は『テームへ』という言葉を残している。それは、テームが自らの復活を懸けた存在であることを容易に想像させる。そして、マルドック、ヌディンムト、シャマシュといった、古代魔法王朝の神の名が付けられた者達が、テームの出現と連動して現れるという事実。

 かつてマルドックもここで同じ話を聞いたのだろう。

 マルドックが、『テームは王を復活させる装置だ。』と確信し、自らをその『尖兵』としたのは理解できる考えに思えた。

 ヌディンムトの言う、テームが『古代王朝時代の兵器か、または暴走した魔法生物』であるという説は、“奈落の門”が町を潰し続けているという表面的な事象からの推測に過ぎない。

 しかし、ネルガルはその判断は危険なものに思えた。そもそも、テームが“奈落の門”を指す言葉であるという根拠は、強力な重力場を伴う、という共通点はあるものの、それ以外にはない。

ネルガルは、このような難題は自分より頭の良い者達が判断すればよい、やはり自分は賞金稼ぎとしての生き方しかできない、と考える事にした。

 

「よし、では最後の質問だ。なぜ、アルはギリアンゼルで『おれのような人間』を見つけようとしていたのだ?」

「それは、」アルの発した言葉をウィルラスが遮った。「私から話します。」

ウィルラスが厳しい表情になったので、アルは、少し心配そうな顔をした。

「アルカリンクウェルの出生の話をしなくてはなりません。」

 

 

  

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