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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第二章 空中庭園

 

(14)

 

「玉座・・・。」

 ネルガルは呟いた。

「あなたが王を自認するならあそこに座しても構いません。」ネルガルの様子を見たウィルラスが言った。

「ふん。まさかな。」ネルガルは口元に歪んだ笑みを浮かべた。「本物の王がここに来たことはあるのか?」

「もちろんですとも。かつて代々の人間の王がここを訪れ、この玉座でわれわれと話をされました。」

ネルガルは、ヌディンムトの弟子達の報告書にあった言葉を思い出した。

マルドックは、『テームは王を復活させる装置だ。』と言ったのだ。彼はテーム、つまり奈落の門を呼び出し、古代王朝を復興させる事が自分の使命だと考えていた。

マルドックはその事を、この空中庭園で確信したという。

ネルガルは、マルドックの言った『王』とはかつてこの玉座に座っていた者の事だろう、と直感した。

そもそも、ヌディンムトはマルドックがそのような思想を持つに至った経緯を知る為にここを目指していたのだ。

ヌディンムトが知りたがっていたマルドックの過去を彼より先に聞いておいても損はあるまい、とネルガルの心に軽く野心めいた気持ちが芽生えた。

「どうぞお座り下さい。」ウィルラスが言った。

 いくつかの椅子の前には小さな皿が並べられ、その上にパンのようなものが置かれていた。

アルは椅子のひとつにちょこんと座り、そのパンを手に取った。「お腹減ってるでしょ。食べて。」

そういえば朝食がまだだった、とネルガルは思った。

ネルガルはアルの向かいに座った。ウィルラスはアルの隣に座る。

ネルガルはパンをかじってみた。薬草のような匂いがしたが、全く癖が無く、ふわっと口にとけるような甘みを感じた。小さなパンだったが、不思議と満腹感を感じ、喉の渇きまで癒えた。

アルは安心したように笑顔を見せた。

「ところでアル、おれを蛮族から救ってくれたのはお前だが、微かな記憶では、おれに心理攻撃を仕掛けたのもお前だったはずだ。もしおれをここに連れてくるのが目的なら別の方法もあるはずだが、あれはどういう事なのだ?」

「あたしはパーシャの用心棒として彼らの森の見回りに同行していたから、パーシャの側に立って戦いに参加する義務があったの。だから・・・」アルは少し目を伏せた。

「蛮族を斬ったおれを止める必要があったんだな?」

「でも、あたしがパーシャの用心棒をしていた本当の目的は、あなたのような人間を見つける事だったの。」

「『おれのような人間』とは、どんな人間の事だ?」

「それは、かつて人間界で栄華を極めた一族の末裔の事です。」ウィルラスが言った。「その証拠があなたの肩に付けた紋章です。それは、かつてその玉座に座していた、あなた方の最後の王の紋章なのです。アルカリンクウェルはあなたを倒した後、それを見つけたのです。」

 栄華を極めた一族とは、以前ヌディンムトから聞いた古代魔法王朝を支配していた民族の事だろう、とネルガルは推測した。

「だから、あたしはパーシャ達にあなたを引き渡すように要求したの。」

ネルガルは、森で意識が戻ったとき、アルと蛮族が言い争いをしていた事を思い出した。

「がんぱったんだけど、ダメだった。」アルが済まなさそうに言った。「その後は、あなたの知っての通りって訳。本当にごめんなさい。」

「いや、謝る必要は無い。おれも賞金稼ぎだから事情はよく分かる。ただ知りたいのだ。おれはこの紋章を七惑星神を祭る寺院でも見た事がある。何か関係があるのか?」

七惑星神とは、ルヒュー(1)の力をあなた方人間が理解しやすいように置き換えた姿です。その寺院に巫女がいたでしょう?」

「いや、いなかった。」ネルガルは正直に答えた。「男の神官が5人だ。」

「そうですか。」ウィルラスが不思議そうな顔をした。「600年前、最後の王がここを訪れた時代には、七惑星神の力は代々巫女が受け継いでいました。巫女は常に王の庇護の下にあったので、それを示す為に紋章が掲げられていたのです。」

 ネルガルは一つ思い当たる事があった。5人の神官はあの寺院で何かを守ろうとしていたのだ。

ネルガルは、それを暴こうとして彼らと戦いになった。

 その何かとは、巫女だったのではないのか。あのとき、神官を斬っても死ななかったのは、その巫女の力が働いていたとすると、辻褄が合うような気がした。

 あの落とし前もいずれつけなくてはならない、とネルガルは思った。

「あなたには、」ウィルラスが続けた。「その七惑星神の一人、火星神ネルガルの名が付けられています。あなたが最後の王に近い人物である事は間違いないでしょう。」

 名前の意味については、旅の途中、ヌディンムトからも聞いていた。古代語でシャマシュは太陽神、ヌディンムトは風神という意味だった。

「ところで、さっき言った“ルヒュー”とはいったい何のことだ?」

「ルヒューとは、太古の昔、ディンギル(※2)があなた方の祖先に与えた魔法の力です。」

「ちょっと待て。“ディンギル”とは何だ?」

 ウィルラスはネルガルの顔を覗き込むように言った。「本当に知りませんか?」

 ネルガルは、頭の中で何かが弾けるのを感じた。

 知っていたのだ。ネルガルは、その事実に身震いした。

 ディンギルとは、巨大な、畏怖の対象。今の言葉に当てはめると、“カミ”に近い。

『しかし、神とは違う。』

 ネルガル、シャマシュ、ラハム、ラフムといった古代王朝の神々の響きは、自然界に存在するものの力を人間が感じ取り、祭り上げた、概念的な、抽象的な存在のようにネルガルには感じられた。

 ディンギルという言葉には、もっと血や肉を感じる。父のように会話を交わし、息遣いが聞こえるような存在。

 しかし、それと同時に、何か心が締め付けられるような、後ろめたさと恐怖を感じる。

 それは、記憶から消したい過去。

「何だかよく分からんが、おれはディンギルを知っている。しかし、気分が悪い。」

ネルガルは、そう応えるのが精一杯だった。

「いいのです。“最後の王”もディンギルについては多くを語りませんでした。」

「いや、知っていることを教えてくれ。」

「私たちエルフには人間がまだ洞窟に住んでいた太古からの伝承があります。ただし、昔も今も人間界の出来事についてあまり興味は無いのです。ディンギルについて言える事は、彼らはルヒューを与える対象としてエルフという選択肢もあったにも関わらず、あえて人間を選んだという事です。」

「その理由は伝承されていないのか?」

「伝承されていません。ディンギルが人間にルヒューを与えた後、人間の魔法文明は開花したという事実があるだけです。」

 なるほど、ディンギルはやはり、人間の崇める“神”とは異質な存在なのだ、とネルガルは思った。

 

 

 

※1※2 ルヒュー、ディンギル、テームなどの古代語の発音については、この文献

を参考にした。

 

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