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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第二章 空中庭園

 

(13)

 

 ネルガルが振り向くと、そこには紫色のローブを着た長身の男が立っていた。顔も同様に細長く、大きな尖った耳が肩まで伸びた銀髪から覗いていた。

「ようこそおいで下さいました。」そのエルフは低い声で言った。

 それは、まるでネルガルがここに来ることが分かっていたような口ぶりだった。

『どういう事だ?』

 ネルガルは、七惑星の寺院を訪れたときに経験した事を思い出した。司祭であるシンは『あなたをお待ちしていました。』と言ったのだ。

 ネルガルは記憶の底から恐怖が湧き上がるのを感じた。これは全て幻影ではないのか。またもや心理攻撃を受けているのではないのか。

 やられる前に倒す、という賞金稼ぎの本能が彼を突き動かした。

ネルガルはすばやく大剣を抜き、エルフに斬りかかった。

「!」

 足が動かなかった。足元を見るといつの間にか泉の水が膝まで溢れており、それが泥沼のように足に絡み付いているのだ。

 それだけではない。その水は生き物のように這い上がり、ネルガルの足から胴体、腕、首の順に締め上げるのだ。

 ネルガルは泉を見た。先ほどまで澄んでいた泉は暗く波打っており、ネルガルはその中に光る二つの目玉のようなものを見た。

 そのとき、ネルガルの後ろからエルフの低い声が聞こえた。それは、言葉ではなく、歌のような呪文だった。

 ネルガルは首と胴を締め付けていた力が緩むのを感じた。そして、ネルガルの周りにだけに溢れていた泉の水はさっと引いていき、元の穏やかな泉に戻っていった。どうやらエルフの呪文おかげのようだ。

「ネルガル!大丈夫?」

アルの声が聞こえた。アルはエルフの男の後ろから現れ、ネルガルの元に駆け寄った。

「ああ、大丈夫だ。」ネルガルの恐怖と怒りは消え去り、冷静さを取り戻していた。「ここには分からないことが多すぎる。」

「あれはこの泉に棲む水の妖精ヴォジャノーイです。」エルフの男が言った。

「すまない。どうやら助けてもらったようだな。」

「いいえ。こちらこそ人間の訪問に対して配慮が足りませんでした。」

「あたしも泉のあんな姿は初めて見たの。」アルがすまなさそうに言った。「ごめんね。」

ヴォジャノーイが姿を現したのは800年ぶりです。アルカリンクウェルが知らないのも無理はありません。」

「あいつはもう出てこないのか?」ネルガルは気味悪そうに泉の方を親指で指した。

「ヴォジャノーイの好物は人間の感情です。彼は泉を覘いた人間の最も見つけたいものを映し、感情の変化を促すのです。彼はあなたの激情を食しましたので、当分の間は出てこないでしょう。それに、」男は付け加えた。「彼が何を見せても、もうあなたは驚かない。」

 最も見つけたいもの、とネルガルは心の中で反芻した。やはり泉の底に映った女はフーレイだったのだ。水の妖精はネルガルの驚きと混乱、恐怖の感情を喰う為にフーレイの姿を見せたのだ。

「申し遅れました。」男は膝を付き、右手を胸に当て、うやうやしく人間の宮廷式の敬礼をした。

「私は“空中庭園”の渉外を勤めるウィルラスと申します。」

「おれの名はネルガル。アルに導かれてここに来たが、何か偶然以上のものを感じている。」

「人間はよく偶然と必然を対照的に使い分けますが、私にはそのこだわりが理解できません。それはたったひとつの事象の感じ方の問題だからです。」

「難しい事はよく分からない。」ネルガルは男の言葉を遮るように言った。「とにかく、分らない事だらけだ。おまえがエルフなら千年の記憶があるだろう。おれの疑問に答えてくれるか?」

「なんなりと。あなたにはその資格があります。」ウィルラスは立ち上がり、扉の方へ歩き始めた。「どうぞこちらへ。」

 

 扉を入ると中は暗い通路となっており、それを抜けると広いドーム状の空間に出た。天井は高く、無数の窓から光が差し込む為、外と同じくセピア色の世界である。また、よく手入れされた植物が色とりどりの花を咲かせている。植物は背丈がネルガルの頭より高く、ドームの全貌を見渡す事はできなかった。ネルガルが後ろを振り返ると先程の暗い通路の上は、巨木が生い茂っていた。緑の葉を茂らせた木の枝は天井を覆うように広がっていて、どこまで続いているのかまではよく見えなかった。通路の入口は木の根の隙間にある。つまり、ネルガル達はこの木の下をくぐってきたことになるのだ。

 その巨木の節々には人が通れるほどの無数の穴が開いており、そこへ蔦のようなロープが地上や他の枝から張られていた。そのロープを渡るエルフの姿を見ることができる事から、巨木の穴の中はエルフが居住できる部屋になっているようだった。

 通路は木の回廊に繋がっていて、ウィルラスが先頭で歩き始めた。

歩いていくと、たまに地上の植物の陰にも草色の衣服を身に着けたエルフ達を見ることができた。ウィルラスによると彼らは植物の手入れをしているという。ただ、彼らはあくせく働いている様子もなく、木々を見てまわったり、花に顔を寄せているだけだった。彼らの手入れとは、人を診断する医者のように植物と対話をし、具合を聞く事なのかもしれない、とネルガルは思った。

 

 回廊はいくつかの屈折と分岐を経た末、小さな庭園に出たところで途切れた。

 その庭園には大理石の柱に支えられたテラスがあった。

「こっちだよ。」

アルとウィルラスは、テラスに続く階段を上がっていった。

 ネルガルは無言で後に続いた。彼の頭には、ここに来てからの数々の疑問が渦巻いていた。

『俺の肩に付けた紋章がここにあったのは何故だ? なぜ、蛮族の中にいたアルは俺をここに連れてきた? そもそも、この空中庭園とはいったい何なのだ?』

 階段を上り、テラスに出るとそこには長いテーブルといくつかの椅子、そして上座には大理石の肘掛と赤いベルベッドがあしらわれた玉座があった。

 

 

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