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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第二章 空中庭園

 

(12)

 

 ネルガルは女に手をひかれ、導かれるまま歩みを進めた。

 最初は進む方向を覚えようとしていたが、前進と後退、右折左折を繰り返し、とても覚えられる行程ではなかった。

 不思議なことに、感覚的にはもと来た路を戻っているように感じても、前に歩いたときは木の根がむき出しだったはずの山道が、次に来たときは石の転がる川原になったりし、実際には違う場所を歩いているようなのだ。

その間、ネルガルは様々な音を聞いた。

それは、水の流れる音や木の葉のすれる音、鳥や虫の声。

 冷たく湿ったギリアンゼルの空気は、いつしか暖かい微風を伴ったものに変わり、ネルガルの足取りも軽くなった。目隠しをしていても、全く危険を感じない。何かにつまずく気もしなかったし、仮に転んだとしても、地面に敷き詰められた柔らかい木の葉がやさしく受け止めてくれるだろう。

 

「さあ着いた。もう目隠しはいらないよ。」

ネルガルは少し眠くなり、目的を忘れそうになっていたとき、女の声を聞いた。

 ネルガルは目隠しを取った。

「ここは・・・。」

思わず声が出てしまうほど、彼の目の前の光景は、ギリアンゼルの森の中とは異なるものだった。

 ネルガルの足元は石畳の道だった。道の周りには色とりどりの花が咲き乱れている。道の先には周りを大理石で囲まれた小さな泉があり、あふれ出た水がきらきらと光りながら小川となって花々の間をくねくねと流れていた。石畳の道はその小川にかかる小さな橋を越え、奥に続いていた。その先は上り階段になっており、大理石でできた柱で挟まれた巨大な木の扉に続いていた。木の扉のある建物は、先端の尖った塔のような形状をしている巨大な建造物だった。ネルガルのいるところから奥行きは見えない。その建物に這う蔦や苔の感じから、とても古い建物のように見える。しかし驚いた事に、その古さにも関わらず、建物の外壁は全体がセビア色に輝いている。

 そのセビア色は建物の色ではなく、空の色だった。ネルガルが見上げると空は薄い霧がかかったようにぼんやりとした明るさをたたえ、その霧の一粒一粒がセピア色を反射しているようだった。

 ネルガルは自分の来た道を確認しようと、後ろを振り返った。しかし、後ろには期待したギリアンゼルの森は無く、石畳の道が続き、その道は高い城壁のところで左右に分かれていた。その城壁は周囲を取り囲むように建っており、ここは城砦のような場所だという事が分かる。

「どう?気に入った?」

 遠くを見ていたネルガルの横で女の声がした。

 女はマントを取り、両腕を上に伸ばして深呼吸していた。女は革でできた防護服を着ていたが、思ったより華奢で、まだ10代前半の少女に見えた。ただ、エルフの年齢は見た目では判断できない。

「ところで名を聞いていなかった。何と呼べばいい?」

「あたしの名はアルカリンクウェル。」女は少し首をかしげた。「アルって呼んで。」

「ようしアル、おれの名は、」

「知ってる、ネルガルでしょ。」アルはネルガルの言葉を遮った。「森で声を聞いたの。『待て、ネルガル』って。」

「そうか。」ネルガルは苦笑した。自分には聞こえなかったのにこの女には聞こえたのだ。エルフの聴覚と視覚は人間の何倍も鋭いと聞いたことがある。

「ちょっとこの辺りで休んでいて。」アルは泉の近くにある石でできたベンチのようなところを指して言った。

 ネルガルはちょっと待て、と言おうとしたが、アルはすたすたと石の橋を渡り、建物の扉の方に行ってしまった。

 ネルガルは仕方なく、泉の周りをぶらぶらと歩き回り、この経験した事のない美しい世界を見て回る事にした。

 ふと、泉を囲む磨かれた大理石を見ると、そこにはネルガルの肩当てにつけた紋章とよく似た図柄が掘り込まれている事が分かった。それは、あの悪夢のような経験をした七惑星神の寺院にあったものと同じだった。ただ、あの寺院にあったものより保存状態がよく、彫刻の詳細まで見ることができた。

 紋章の中心にある、二頭の向かい合った獅子のような生き物は、翼があり、顔は鷹のように鋭い嘴を持っていた。

「これはグリフォンだ・・・。」

 ネルガルは紋章の周りを囲む蛇のような生き物も詳しく調べた。

 よく見ると蛇には4本の足があり、それは竜である事が分かった。そして、その竜は自分自身の尻尾を口でくわえ、円を描くようにグリフォンの周りを囲んでいる。

「これは・・ウロボロス・・・。」

自分の紋章の元になった、幼い頃に描いた稚拙な絵。それは、これだったのだ。

『しかし、それがなぜここにあるのだ?』

ネルガルの興味は、これまでにないほどに高潮した。その興奮は、汗となって身体から噴き出した。

 ネルガルは泉で顔を洗った。冷たく透き通った水だった。

 ネルガルは、興奮を抑えるようにしばらく波打った水を見ながらじっとしていた。

 泉の水は、ネルガルの落ち着く心に沿うように、だんだんと波が消え、元の平穏な状態に戻っていった。

『!』

ネルガルは目を疑った。澄んだ泉の底に町が見えるのだ。それは町を上空から見た光景だった。目を凝らすと水面がレンズのように湾曲し、見たいところが拡大される。

 拡大された町の路地では、革の鎧を着た双子の少年と草色のローブを身にまとった黒髪の女が何か話し合っている。

『双子・・・。』

ネルガルは、ヌディンムトに双子の弟子がいることを思い出した。双子の少年戦士など滅多にいるものではない。この二人はラフムとラハムであると考えられた。

『とすると、この女は・・・。』

ネルガルが家を出たとき、妹はまだ幼子だった。この女にその頃の面影は全く無かったが、状況からこの女はフーレイであると直感した。ネルガルは食い入るように女を見つめ、何か確実な証拠を探そうとした。

 そのとき、ふいにネルガルの後ろから男の声がした。

「お探し物は、見つかりましたかな?」

 

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