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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第二章 空中庭園

 

(11)

 

 ネルガルは、泥沼のような深い眠りの淵から目を覚ました。

 手足が動かず、視界はない。あるのは意識だけだ。

『・・・おれは、死んだのか?』

彼の強靭な精神力はこの状況でも平常心を保っている。もし自分が死んでいた場合、魂は肉体から離れているだろう。それを確認せねばならない、と考えた。

唇を歯で噛んでみた。乾いた感覚と痛みがある。少なくとも生きているようだ。

ではなぜ視界がないのか。瞼を開けている感覚はある。目を潰されたのか。いや、微かな光を感じる。そして、頭を締め付けられる感覚もある。おそらく布のようなもので目隠しをされているのだろう。

 徐々に手足に痛みを感じ始めた。

『そうだ俺は強烈な心理攻撃を受け、気絶していたのだ。』

 周りの匂いを嗅いでみる。土と草の匂いがする。

状況を総合すると、今の自分は目隠しをされ、手足を何かで固定され、地面に転がされているのだ。当然武器は全て奪われているだろう。

 そこまで分析を済ますと、次の手を考え始めた。一匹狼の賞金稼ぎはあらゆる状況を想定し、十分な準備をしていなければ生き残れない。

 ネルガルは、左下の奥歯を上の歯と舌で数回押した。ぐらつく感覚があり、歯はポロリと外れた。

 その挿し歯に仕込まれていたのは、巨人の魂を封じたとされる丸薬だった。それを噛み潰せば瞬く間に体力が回復し、しばらくの間、巨人のような力を得る事ができる。さすがに敵もここまではチェックしなかったらしい。

ネルガルは今この力を使えば固定された手足を自由にする事も可能だろうと考えた。

 が、彼はそれをすぐに実行しなかった。もし敵が近くにいたら、自由になる前に危害を受けてしまうだろう。まずは敵の位置を確認しなければならない。耳を澄ますと、少し離れたところで人の話し声が聞こえた。

 それは、男二人と女一人の声だった。話している言葉は共通語ではない。しかし、何かについて言い争っている事は分かった。

『女・・・。』

 ネルガルは、気絶する直前に見た女の顔を思い出していた。あの女が自分に術を掛けたのだ。

 いつの間にか言い争いが途切れ、ネルガルは草が擦れる音を聞いた。何者かが近くに来たのだ。

『今出るのは・・・まずいな。』

 今動くと敵の先制攻撃を受けてしまう。ネルガルは、このまま眠った振りをしている方が良いと判断した。

「もう気が付いているんでしょ。自由にしてあげる。」近くで女の声がした。言葉は共通語だ。

 ネルガルの目隠しが取り外された。しばらく目の焦点が合わなかったが、だんだんと周りが見えてくる。ここはまだギリアンゼルの森の中のようだ。黒々とした木々の間から見える空は白んでいる。時刻は明け方のようだ。

 続いて、ネルガルの手足も自由になった。革でできた拘束具が使われていたらしい。手首の感覚はまだ戻らない。

 ネルガルはさっと身体を起こし、片膝をついたまま女の顔を見た。

 フードの中に見える顔は、切れ長の目で、幼さの残る顔立ちだった。間違いなく蛮族の中にいた魔法使いだ。

「どういう事だ。捕まえておいて、なぜ助ける?」ネルガルは擦れた声で言った。

「もともとあなたに危害を加えるつもりはなかったの。でもあなた方はパーシャを殺しすぎた。」

“パーシャ”とはおそらく蛮族の事だろう、とネルガルは理解した。

「何を言うか。矢を射ったのはそっちが先だろう!」

「ごめんなさい。」女はフードを取った。「あたしはパーシャではないの。でも今は説明している時間が無い。すぐに逃げて。」

 ネルガルは、この女は敵ではなさそうだ、と思い始めていた。フードを取った女は、亜麻色の髪を束ね、大きな耳が露になっていた。

『この女、エルフか・・・。』

ネルガルはエルフを見たことが無い。ただ、昔、父に聞いたエルフの姿はまさに目の前にいる女の特徴を示していた。

 そのとき、木陰から二人の蛮族の男が現れた。二人は何か女に向かって叫んでいる。その言葉は理解できない言語だった。ただ、明らかにネルガルを自由にした事を怒っているようだ。

「逃げて!」女が叫んだ。

 二人の蛮族は偃月刀を抜き、向かってきた。女は小型の剣を構えた。戦うつもりらしい。

 ネルガルは、ここで口の中の秘薬を噛み潰した。苦味が口から喉に入る感覚の後、一瞬のうちに手足の痛みが消え、微かな痺れと共に全身に力がみなぎる。

 ネルガルは近くの地面にめり込んでいた巨石に手を掛けた。万力のような腕の力で巨石を抱え込むと一気に持ち上げた。

 一人の人間ほどの大きさの石を軽々と持ち上げ、女に切りかかった蛮族の一人に投げつけた。男は避けきれず、巨石は左足に命中した。おそらく足が折れたのだろう。妙な音を立てて、男は倒れた。

 女は倒れた男の心臓に剣を突き立て、とどめを刺した。

 もう一人の男は劣勢を察知し、くるりと向きを変えると逃走した。

 女は何やら呪文を唱えたが、逃げた男には届かなかったようだ。

 しばらくすると角笛の音が静かな森の中に響き渡った。

「あの音は何だ?」ネルガルが訊いた。

「パーシャが仲間を呼ぶ合図だよ。」女は言った。「早く安全な場所に逃げなくては。」

「安全な場所?馬鹿な。」秘薬の効き目が切れ、ネルガルは反動で力を失い、地面に座り込んでいる。「ギリアンゼルは蛮族の庭のようなものだろう。」

「パーシャが絶対に入って来れない場所をあたしは知っているの。」

 

 少し後、ネルガルは蛮族と戦った場所のすぐ傍にあった、彼らの野営地にいた。

 自分の武器を捜索しながら、ネルガルはこれからどうしたものか、と考えていた。まだ確かめてはいないが、あの女はエルフのようだった。元々危険を冒してこのギリアンゼルに来たのは彼らに会うのが目的だったはずだ。ヌディンムト達とは逸れてしまったが、折角出会ったエルフについて行くのも悪くあるまい、と考えをまとめた。

 ネルガルは大剣と鎧を見つけ出し、女のところに戻った。

「準備できたぜ。」

「申し訳ないけど、今から行くところへの道は秘密なの。あたしを信用してくれる?」

「ああ。拒否はできないんだろう?」

「ありがとう。古来からの習わしで、一族以外の者には目隠しをしてもらうのが掟なの。」

 ネルガルは言われるままに目隠しを受け入れた。彼は、ヌディンムトがエルフの世界への入り口は見えない物質で巧妙に隠されている、と言っていた事を思い出していた。

「ところで、行先はエルフの世界なのか?」ネルガルは単刀直入に訊いてみた。

「昔の人間はこう呼んでいたらしいよ。」女は少し考えてから言った。「“空中庭園”って。」

 

 

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