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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第二章 空中庭園

 

(10)

 

 話は少し前にさかのぼる。

 シャマシュが天幕で長剣の手入れをしていたとき、突然空気を切り裂くような音を聞いた。それが飛来した矢の音だとすぐに分かったのは、次の瞬間ヌディンムトのうめき声とドサリと倒れる音が聞こえたからだ。

 シャマシュは剣を片手に外にでると、天幕の側に立てていた松明を倒した。松明の明かりは消えたが、月の光でヌディンムトの位置は良く見えた。彼は森の狭間の木々の少ない場所に倒れていたのだ。弓の的として格好の位置であるが、シャマシュは臆することなくヌディンムトの元に駆け寄った。

 矢は深くヌディンムトの左肩を貫通していた。また、矢尻には毒が塗られていたらしく、ヌディンムトは手足が麻痺し、動けなくなっていた。シャマシュは矢尻をへし折ると一気に引き抜いた。そして、呪文を唱え始めた。

 シャマシュが唱えたのは、治癒と解毒の魔法だった。これらの魔法は神聖魔法(※1)と呼ばれる。召喚魔法の術者が異世界の存在を呼び出し、支配することで力を得るのに対し、神聖魔法の術者は神に帰依し、支配されることで力を授かる。神聖魔法の使い手は聖職者(※2)と呼ばれ、さらにシャマシュのように剣士としての力も合わせ持つ者は、聖騎士と呼ばれる。

 ヌディンムトの傷口は塞がり、手足の痺れも消えた。その間、数本の矢が飛来したが、シャマシュは身に付けた甲冑の硬い部分にわざと当てることで身体に届くことを防いだ。

 シャマシュはヌディンムトを支えながら近くの茂みに逃げ込んだ。少し離れた茂みにネルガルが逃げ込むのが見えた。

「エルフかのう。」麻痺により舌が回っていないヌディンムトがしぼり出すように言った。エルフは武器として弓矢を好むことで有名な種族である。

「確かめましょう。」シャマシュは短く答えた。

 シャマシュは両手を胸の前で合わせ、呪文を唱え始めた。詠唱しながらゆっくり手を開けると、そこには小さな光球が浮かんでいた。光球は時折、パチパチと雷のように放電している。シャマシュが詠唱を続けると周りの空気が彼の周りに吸い込まれ、竜巻のようになって光球を上空に押し上げた。光球は竜巻の中で徐々に大きさを増す。

 シャマシュの詠唱が終わった瞬間、光球は炸裂し、雷のような光が辺りを照らした。

「蛮族か。」ヌディンムトが残念そうに呟いた。

「ネルガルが斬り込んだようです。」シャマシュは森の中から聞こえる音を聞いていた。

シャマシュは剣を片手に茂みから出た。狙っていたように数本の矢が飛来した。シャマシュはその矢を盾と剣で全てかわした。

ヌディンムトは、シャマシュの背後で自らの指輪の一つに触れ、その指輪に刻まれた睡魔召喚の呪文を唱えた。指輪に刻まれた召喚手続きは一瞬にして承認され、異世界から睡魔(※3)が呼び出された。先ほどのシャマシュへの攻撃で敵の潜んでいる場所は推測できている。ヌディンムトは睡魔から取り出した力を大気に乗せ、敵の上空で解放した。

 ほどなく、敵が“眠りの魔法”で倒れるドサドサという音が聞こえた。シャマシュは止めを刺しに音の方に向かった。

 ヌディンムトは、広場の反対側の茂みに向かった。この付近にネルガルが居たはずである。

 そこでヌディンムトは、「武器を捨てろ!降伏するのだ!」という蛮族の叫び声を聞いた。

そこで見たものは、ネルガルと対峙する一人の蛮族だった。よく見ると周りの木の上と茂みに4人の蛮族がネルガルに弓の狙いを定めている。

「ぎりぎりだったな。」

 睡魔はまだ自らの世界に還ってはいなかった。目には見えないが指輪の温かさでそれは分かる。「もうひと働きしてもらおうか。」

 ヌディンムトは再び睡魔の力を大気に乗せ、ネルガルの付近で解放した。ネルガル自体を眠らすわけにはいかないので、大気を回転させ、狙いを定める蛮族たちのところだけに充満させた。

 効果はてきめんで、蛮族たちは深い眠りについた。睡魔は契約された役割を果たし、元の世界へ帰っていった。

「待て!ネルガル!」

ヌディンムトは叫んだが、ネルガルは目の前の敵の首を刎ねると暗闇の中へ走り去った。

 ヌディンムトは、暗闇の中を追って行った。しかし、ヌディンムトの足ではネルガルの速さについていけない。

 暗闇の向こうから、甲冑を着けた男が走ってきた。ネルガルが引き返してきたかと思ったが、それはシャマシュだった。

「ネルガルを見なかったか?」

「見てませんな。」

 シャマシュは一回目の“眠りの魔法”の効果を確かめに行ったが、敵は一度は魔法に掛かったもののすぐに覚醒したらしい。シャマシュはその2人の敵を仕留め、茂みの敵を確認しながらやってきたところだった。

「まだ敵はいるはずだが。」シャマシュが言った。

「うーむ。」ヌディンムトは唸った。

 森は静まり返り、戦いは終わったようだった。

 死体の数を確認したところ、ネルガルは3人の蛮族を倒したようだ。二回目の“眠りの魔法”の効果で蛮族の4人は眠っている。シャマシュが2人倒したので、9人の蛮族は片付いた事になる。

 そして、残りの3人の蛮族とネルガルは忽然と姿を消したのだ。

「眠っている蛮族から聞きだすしかないですな。」シャマシュは言った。

 

 翌日の朝、眠っていた蛮族は木に後ろ手を縛り付けられ、武器もマントも取り上げられた状態で目を覚ました。そして、ヌディンムトの弱体魔法で意思を削がれ、いくつかの情報を漏らした。

 その情報とは、彼らの一族はギリアンゼルの隠れ里に村を作っており、家族はそこで暮らしているという事、自分達はその中でも武装した集団に属し、定期的に森を見回り、迷い込んだ旅人や冒険者を襲って、金品を得ているという事が主なものだった。

「ネルガルはその村とやらに拉致されたのだろうか。」

そのヌディンムトの問いにシャマシュは答えなかった。

 2人は作戦を立てた。この4人の蛮族を人質としてネルガルと交換するというものだ。

「やつらが人の命を大事に扱う人種だといいのだが。」ヌディンムトが独り言のように呟いた。

「もう一つ妙な情報を聞き出したのだが、」シャマシュが言った。「死体全員の顔を4人に見せたところ、逃げた3人の中には一族以外からの助っ人が含まれているというのだ。」

「こんな森で蛮族を助ける人間がいたのか。」ヌディンムトが不機嫌そうに言った。

「いや、人間ではない。」シャマシュは表情を変えずに言った。「それはハーフエルフ(※4)だ。」

 

 

 

1 白魔法、神官魔法とも呼ばれる。

2 聖職者の中でも国家組織や宗教団体の一員として存在する者は神官と呼ばれ、主に在野で奉仕活動をする者は癒し手などと呼ばれる。

3 “眠りの精”とも呼ばれる睡眠を司る精霊の一種。

4 人間とエルフの交配によって生まれた存在。

 

 

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