Salvador'sCabintrival_dragon_red.gif

 

はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)
第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)
(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

→Home    →小説    →作者について    →写真館    →リンク

小説「七惑星の記憶」

 

第一章 少年戦士

 

(9)

 

 エンリルがラフム、ラハム、フーレイを連れてきたのは、町外れの丸太小屋だった。この付近は鍛冶職人が集まっている区域で、至る所から鉄と鉄のぶつかる音が聞こえてくる。

 案内された小屋も鍛冶屋だった。

 小屋の中は薄暗く、室内には鉄の匂いが充満していて、床にはよけて歩くのが困難なぐらいに鍛冶の道具がちらかっていた。部屋の奥には小さく赤い炎が見えた。

「師匠、景気はどうだい?」エンリルは薄暗闇の中に声を掛けた。

「景気なんぞ、良かった事などあるもんかい。」

部屋の奥からしわがれ声が聞こえてきた。部屋の入り口からはよく見えなかったが、小さな炎の前にはぼろを身にまとった人間がいたのだ。

「悪いが、窓を開けさせてもらうよ。」

エンリルが木の窓を開けると光が差し込んだ部屋の全貌が明らかになった。散らかっていたと思われた鍛冶の道具は実は整然と床に並べられ、その中心にある鍛造するための鉄版の前の床に老人は座っていた。白髪は伸び放題で同じ色の髭が顔中を覆っていたため、表情をよみとるのは難しかった。また肌は浅黒く、両目は閉じられてるようだった。

 エンリルは、部屋の壁に立てかけられていた机を運びながら言った。

「最近滞在している行商人がギルド専属の武器商人になってな。あんたのとこの商売にも影響するんじゃねえかと心配していたんだ。」

「何を言っとる。もともとギルドなんぞに納めてはおらぬわ。」老人は強い調子で言った。「そんな事より、客人が3人もおるではないか。これはどうした事だ。」

「師匠、衰えてはいませんな。目が見えぬというのに。」

ラハムはその言葉で老人が盲目であることを知った。

「まあ、何も無いところだが座ってくれ。」エンリルが机を鉄板の上にかぶせる形で設置しながら言った。

「エンリルよ。」老人が言った。「何かあるんじゃな。」

「ああそうだ。」エンリルが答えた。「師匠、あんたが昔から待っていた、‘時’が来たと思うんだ。」

「ふむ。」と言って、老人は髭をなでた。エンリルがたまにするしぐさと同じだった。

「ああ、紹介が遅れたが、これが俺の師匠で鍛冶師のネポだ。」エンリルが3人に紹介した。

「師匠、この3人は、精霊使いのフーレイ、そして新米賞金稼ぎのラフムとラハムの兄弟だ。みんな俺の仲間だよ。」

ラフムとラハムという名前を出したときに、ネポの表情がほんの少し変わった事をラフムは見逃さなかった。

『キシャルのときと同じだ・・・。』

 

 エンリルは、ヘリルが町にやってきてから賞金稼ぎの死が相次いでいる事、自分がヘリルを疑い謹慎処分となった事、ラハムとラハムがグリヌフスの執政官の館で見た事、フーレイが伝令の鷹から文書を手に入れた事、ヘリルが魔法使いをギルド幹部に紹介している事を、要点をかいつまんでネポに話した。

 エンリルが話し終えても、ネポは黙っていた。

「俺は思うんだが、」エンリルが続けた。「キシャルがグリヌフスの地下で調べていた天体図、あれはあんたが昔話してくれた、“洞窟の神殿”と何か関係があるんじゃないのか?」

「洞窟?神殿?」ラハムは思わず復唱してしまった。何か、とても心に響く言葉だったのだ。同じ思いを持ったかもしれないラフムの顔を見た。が、期待に反してラフムはうつむいたままだった。

「その通りじゃ。いよいよ‘時’が来るんじゃ。」ネポはゆっくりと話し始めた。「わしは、そのマルドックという男を知っておる。」

「えっ」ラハムは思わず声を出した。エンリルも驚いた様子だ。ネポは続けた。

「話はな、今から60年も昔になる。わしは山の洞穴に独りで住んでおった。親というものは初めからおらんかった。物心ついたころには一人ぼっちで山の湧き水を飲み、木の実を取って生活していたのじゃ。」ネポは思い出すように首をひねった。

「そう、あれはわしが町で金物細工を売るようになって1年ぐらい経った頃じゃ。たぶんわしは10歳ぐらいだったじゃろう。その年、洞穴の家にひょっこりぼろをまとった幼子が現れたのじゃ。3歳ぐらいの男子じゃった。着ているものは粗末で、どこから来たのかも言えんかったが、名前だけははっきりと名乗った。その子は『ヌディンムト』と言った。」

「ええっ!」ラハムは大声で叫んでしまった。「それは私達の師匠の名です!」

「そうじゃとも。」ネポは淡々と話した。「その年は、それからしばらくしてあと二人、同じような幼子がやってきた。その二人は『マルドック』『シャマシュ』と名乗った。わしは、この3人がとても他人とは思えなくてな。洞穴で世話することにしたんじゃ。」

 ラハムは、その幼子達の状況は、ラフムとラハムがヌディンムトの元を訪れたときと全く同じだ、と思った。

 ネポは続けた。

「4人での生活は数年続いた。今となっては楽しい思い出じゃ。ただ、子供心に、なぜ自分達はここにいるのか、という疑問は常に持っていたと思う。

 7、8年経ったある日、マルドックが洞穴の奥に裂け目があり、洞窟が続いていることに気がついた。わしも4人がこの洞穴に集まった事から、何かここが特別な場所であると感じておった。そこで、4人で洞窟に入ってみることにしたんじゃ。洞窟の中は澄んだ水源があっただけで、何の危険も無かった。そこで、わしらは古代の神殿を発見したんじゃ。もうかすかな記憶しかないが、夢のような光景じゃった。

 大理石でできた神殿に入ると、高い天井の登頂部には水晶のようなものがはめ込んであり、そこから光が差し込んでいた。そのとき外は夜だったはずだが、星の光を集めて神殿の中は不思議な明るさを保っていたのじゃ。天井一面には天体図が書かれていたが、意味は全く分からなかった。

 そして、壁には楔形の文字が刻まれていた。これも意味が分からなかったのだが、突然わしの後ろから声を出して読み上げるものがおったのじゃ。それは、ヌディンムトじゃった。やつは壁の文字が読めたのじゃ。ただ、あの光景に圧倒されていたわしは何が起きても不思議とは思わなかった。ヌディンムトが読み上げた内容には、自分達の名前、すなわちネポ、ヌディンムト、マルドック、シャマシュの文字があったのじゃ。それらは全て古代の神々の名じゃった。ネポは水星神、ヌディンムトは風神、マルドックは木星神、シャマシュは太陽神じゃ。他にも多数の神の名が刻まれていた。その中にはお前達、エンリル、ラフム、ラハムの名もあったのじゃ。」

 ネポはしゃべりすぎて疲れたのか、少し間をおき、エンリルが机に置いた水を飲んだ。他の4人はあまりの話に言葉を失っていた。

「フーレイじゃったか。あんただけはこの話とは関係ないようじゃ。心配せんでよい。エンリル、ラフム、ラハムは幼少期からなんとなく知っておるのじゃ。自分達には特別な“記憶”があることをな。

 この神殿での体験があってから、3人はわしの下を離れ、出て行った。皆、分かったのじゃ。ここに来たのはあの神殿を見る為じゃったと。

 キシャルの名も神殿にあった名じゃ。おそらくマルドックに見い出され、従うようになった者じゃろう。キシャルはマルドックからあの神殿の話を聞かされておったはずじゃ。だから、ラフム、ラハムの名を聞いただけで、お前達を“同族”と呼んだのじゃ。」

「“同族”とはどういう事なのでしょうか。」ラハムがたずねた。

「はっきりとは分からぬが、わしは古代王朝と関係があるのではないかと思っておる。」

「古代王朝?」

「もう少しわしの話を聞くのじゃ。わしはその後もずっと同じ洞穴に住み、鍛冶職人として生活しておった。ところが25年前のある日、昔と同じように名だけははっきりと名乗る幼子が洞穴にやってきたのじゃ。それがお主、エンリルじゃ。」

 

 

 →NEXT