Salvador'sCabintrival_dragon_red.gif

 

はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)
第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

→Home    →小説    →作者について    →写真館    →リンク

小説「七惑星の記憶」

 

第一章 少年戦士

 

(8)

 

 「ははぁ。ヘリルには気に入られなかったか。」

エンリルは何故か嬉しそうに言った。

「私が行ったのがいけなかったのでしょうか。」ラハムが心配そうにしている。

ラフムとラハムはヘリルの天幕を出た後、その足でサーバントの詰所に赴いていた。

「いいや、関係ないな。ヘリルが新米賞金稼ぎを呼び付けるのは、有望そうな人物を自分の用心棒にスカウトする為だ。気に入ったらギルドの紋章の入った武具を勧めずに、高給で自分の衛兵に勧誘するらしい。あの天幕にいる槍を持った私有兵の半分は元ギルドメンバーなのだ。」

「という事は僕たちは有望と思われなかったのですね。」

「まあ、そういう事だな。」エンリルはさらに嬉しそうに答えた。「しかし、それはヘリルの鑑定眼が間違っているのかもしれない。俺はお前たちを高く買っているぞ。」

ラハムはその言葉は嬉しかったが、どう反応してよいか分からなかった。

「それにしても、ヘリルがギルド専属の武器商人になったというのは悪いニュースだ。新人賞金稼ぎを呼び付ける建前を取り付けたという事だからな。」エンリルは深刻な表情になった。

 そのとき、ドアの開く音がした。入ってきたのはフーレイだった。

「エンリル、ちょっといい?」

フーレイも深刻そうな顔をしている。ラフムとラハムがいることを気にしているようだ。

「大丈夫だ。俺の見立て通り、この二人はヘリルに気に入られなかった。」

「もともと、このお二人からの情報だしね。」

フーレイはそう言うと、メモ書きのような小さな羊皮紙を取り出した。

「実はね、」フーレイはラフムとラハムに語りかけた。「この前、あなた達の話を聞いた後からずっと、ヘリルの天幕の上空を警戒していたんだよ。そしたら今日の明け方に来たの、あなた達が執政官の館で見たという伝令の鷹が。」

「おお、それはすごい。」エンリルが声を上げた。「という事は、そのメモは鷹が持っていた文書か?」

「そう。」フーレイは答えた。「正確には鷹の持っていた文書の写し。」

「そんな事ができたのですか!」ラハムが驚いて言った。あの巨大で凶暴な鷹から文書だけ奪うなんて芸当ができるとは信じられなかったのだ。

「あたしが精霊使いだって事、忘れたの? 天幕の上空を警戒させていたのは、風の精霊シルフよ。ヘリルの天幕の中に入ったときは逃がしてしまったけど、しばらく監視していたら鷹はまた出てきたのさ。今度は、たぶんヘリルからの文書を持って出てきたのだと思って、町外れでシルフに気流を変えさせて鷹を落としたの。あたしは地上で動けなくなった鷹から文書を抜き取って、書き写してまた元に戻しといたから、気づかれていないと思うけど・・・。」

「まあ、それは分からんな。」エンリルが口を挟んだ。「で、鷹はどこへ行ったんだ?」

「残念だけど、分からなかった。解放した後、その場で羽ばたいて飛び立ったよ。あれは魔法で強化された鷹ね。東に飛んでいったけど、追いきれなかった。あたしがシルフを支配できる範囲は限られているの。」

ラハムは、執政官の館で鷹を見たときも、ラフムの攻撃を避けてその場で飛び立った事を思い出した。普通、あそこまで大きな鳥はある程度の距離の助走が必要である。魔法で筋力を強化されていたのだ。

「そうか。じゃあ文書の内容を聞こうじゃないか。」

「いいわ。」フーレイはあらためて羊皮紙に目をやった。「『結界の件は、10日程度で決着がつく見込みとなりました。マルドック様はそれ以降に入られるように願います。』とあるわ。文書の送り先はマルドックという人、送り主は書いてないけどたぶんヘリルね。」

「ふーむ。」エンリルは考えを巡らせているようだった。

 しばらくして、エンリルは顔を上げた。

「その手紙の『結界の件』というのは、魔法結界(※1)の事かな・・・。」

「うーん。はっきりとは分からないけど・・・何で?」フーレイは聞いた。

「実は3日前、俺はヘリルの天幕に行ったんだ。」

「行った、って・・・例のあれ?」

「そうだ。あれだ。」

「何ですか、あれって?」ラハムが口を挟んだ。

「エンリルはね、 “忍び足”や“開錠”の能力が優れているの。良く言えば、その能力を最大限に発揮して、サーバントの捜査に貢献しているのさ。」

「“忍び足”や“開錠”の能力って、盗賊みたいですね。」ラハムが素直な感想を述べた。

「悪く言えばな。」エンリルが答えた。「しかし、俺はそれを悪用した事はない。これは秘密だが、俺は今やギルドの弾薬庫まで入ることができるのだ。本当に内緒だぞ。」

エンリルは冗談っぽく話したが、目は真剣だった。ラハムは、以前エンリルがギルドの掟で秘密とされている討伐の依頼人を知っていた事を思い出していた。

「話を戻すが、ヘリルの天幕に行ったのは、夜、ギルドの幹部が奴の天幕に入っていったのを見たからなんだ。ギルド専属の武器商人になった事からも分かるが、ヘリルはずいぶんギルドの上層部に食い込んでいるようだ。俺は衛兵の目を盗み、木の柵を飛び越えて中に入った。そこから先は詳しくは言わんが、とにかく、ヘリルとギルド幹部が会談しているのを立ち聞きしたんだ。その中でヘリルは、町をよりいっそう強固にするため、強力な魔導士をギルド上層部に迎い入れる事を進言していたのだ。

 魔導士を迎えて町を守る、っていうのは、町の周りに魔法結界を構築し、怪物や野盗の流入を防ぐ、という事になるんじゃないのか?」

「そうね。そういう話があるならつじつまが合うわね。」

「けど、その魔導士って・・・。」ラハムが、はっと気づいた。

「そうだ。おそらくキシャルの事だろう。」エンリルは続けた。「その手紙を書いたのがヘリルだとすると、ヘリルを操っているのがマルドックという人間で、キシャルはヘリルが雇った魔法使い、という事になるか・・・。」

「そうとは限らないかもしれませんよ。」ラフムが口を挟んだ。「キシャルとヘリルが両方ともマルドックの手下かもしれない・・・。」

「あら、なぜそう思うの?」フーレイが尋ねた。

「あ、いや理由は無いんだけど・・・。」ラフムは口ごもった。ラハムは、そのラフムの反応に違和感を感じた。これまでひと時も離れて暮らした事の無い双子の兄である。その件は後で聞くことにした。

「まだ、キシャルとヘリルがつるんでいる確かな証拠は何も無い。」そう言って、エンリルはしばらく顎鬚を触りながら考え事をしていたが、思い立ったように話した。

「お前たちに会わせたい人物がいるんだが、時間あるか?」

「私達は大丈夫です。」ラハムが答えた。

「あたしも時間は大丈夫だけど、誰?」フーレイが尋ねた。

「俺の、師匠さ。」

エンリルは椅子から立ち上がった。

 

(注) 

※1 ここでは、特定の人や物を護るために魔獣の出入りを制限する区域を指す。魔法結界の作成方法は魔法使いによって様々だが、一般的に物質の反作用や透過性質、光の屈折を応用したものが多い。

  

 →NEXT